SHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループのネット配信「SHL Newsletter」や広報誌「Newsline」、HPから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回は、イギリスの日系企業富士通様の事例をご紹介します。

第59回 事例:富士通のタレントマネジメント

要約

富士通は優れたITサービスを顧客に提供することを重視しています。サービス・デリバリー・マネジメント(SDM)コミュニティは、顧客に世界クラスのサービスを確約する非常に大事な部署です。

  • SDMコミュニティ内の異動や昇進のための、管理職の評価や効果的なタレントマネジメントについて、構造的でより客観的なプロセスを導入すべきというニーズが明らかになりました。
  • イギリスでSHLが富士通と協働し、SDMコミュニティ内の全階層について、現実の仕事場面での問題をシミュレーションした特注アセスメントが開発され、実施されました。
  • これによって、人材の「レディネス(準備状況)」をうまく明らかにすることができ、後継計画や人材開発に活かすことができました。
  • また、人材のパイプラインが可視化できただけでなく、社外からの採用コストが低減し、より狙いを絞った能力開発への投資が可能になるなどの明らかな成果が得られました。

背景

イギリス富士通は、グローバルでの事業展開において、重要かつ成長している拠点です。このビジネスにとって社員は要となる部分であり、会社は能力開発に力を入れています。

SDMコミュニティに対して顧客は特に複雑で費用対効果の高いITサービスを要求しているため、世界レベルのサービスを提供することが重要です。イギリス富士通には現在850人のサービス・デリバリー・マネジャーがおり、彼らは4つのレベルに分かれています。すなわち、SDM1(エントリーレベル)、SDM2とSDM3(中級)、SDM4(シニアレベル)です。

タレントマネジメントの問題

2年ほど前、富士通は現在及び将来のニーズを満たすために、SDMの人材パイプライン確保のための対策を講じる必要性を感じていました。SDMコミュニティ内の評価と能力開発のやり方をレビューしたところ、いくつかの問題が浮かび上がりました。重要な役割に昇進できる人材が常に用意できているわけではない、決まったやり方がないため昇進プロセスのオープンさや透明性が足りないと社員に思われる、などです。社外からの採用コストが高額なこともあり、SDMシニアリーダーは、どのようにすれば社内の人材をより有効に活用した効果的な昇進システムを確保できるかを問い始めました。リチャード・ブル氏(当時のSDMコミュニティ長)は振り返って次のように述べています。『かっちりした評価のやり方を持っていなかったため、芽を出しつつある人材がどこにいるのか、誰が次の役割レベルへの準備ができているのかを会社が把握しにくくなっていました。ポストに空きが出た時、社内に人材がいることを知ってはいてもそれがどこにいるのかわからなかったため、社外から候補者を調達していました。』

解決策

富士通はSHLと協働して、SDMコミュニティ用の特注アセスメントを設計しました。

プロジェクトの最初の段階は、SDMコミュニティで非常に高い成果を上げている人の特徴を調べることでした。業績データやOPQ、能力テストの分析、シニアリーダーへの構造面接などです。研究の結果、すべてのレベルで求められる行動やスキル、職務知識、経験が明らかになりました。研究成果がまとめられ、既存の富士通コンピテンシーの枠組みに対応づけられました。

SDMの役割の「真髄」に達することが、プロジェクト成功の鍵です。グエンダ・コーネル氏(コミュニティ能力開発プログラム変革コンサルタント)は次のように述べています。『SHLはビジネスについて非常によく理解しており、SDMのレベルを真に分けるコンピテンシーを見つけてくれました。』

研究結果から、4つのレベルの現実に基づいた特注アセスメントが作成されました。求められる重要特徴に直接狙いをつけたもので、結果として、個人の強みや能力開発ニーズと一緒に、昇進レディネスを明らかにすることができます。アセスメントには職務専門性と行動コンピテンシー両方のレビューも含まれます。

つまり、各アセスメントは各レベルの要件に対して独自にあつらえられたものです。例えば、SDM3アセスメントは「SDM3の社員の日常の1日」について作成され、その役割における現実問題をシミュレーションしています。アセスメントセンターの構成は次のとおりです。

  • SHLパーソナリティ検査(OPQ)(センター前)
  • SHL能力テスト(センター前)
  • シミュレーション(顧客とのミーティング、スタッフミーティング、シニアマネジメントに対するプレゼンテーション、危機マネジメント演習)
  • フィードバックと能力開発計画立案(センター後)

設計においてシミュレーションの「信憑性」と現実度が重要な検討ポイントであることが、何人かのSDMリーダーから強調されました。ロジャー・クーパー(SDM財務部長)は次のようにコメントしています。『ロールプレイがプロセスの非常に重要な部分です。現実の顧客との状況でその人がどう対応しているかを示す部分です。SDM3の設計に非常に満足しています。』

SDMコミュニティのシニアリーダーもまた、アセスメントに参加できるようオブザーバーとしてスキル・アップしました。シェイラ・デラージ(SHLマネジングコンサルタント)は次のように述べています。『研究、設計、アセスメント実施にSDMリーダーを巻き込んでオーナーシップを高めたことが鍵です。アプローチの適切化に対するプロフェッショナリズム、コミットメント、エネルギーに感心しました。富士通との真のパートナーシップ・アプローチでした。』

富士通にとって、アセスメントが「合格か不合格か」だけの結果に終わらず、能力開発に関する成果を持つプロセスになることが重要でした。すぐに次のレベルに上がる準備ができているのは誰かを明らかにするだけでなく、準備ができていない人について、どの分野の能力開発が優先されるのかを見つけます。

リチャード・ブル氏は次のように述べてこの点を強調しています。『誰が合格で誰が不合格か、のプロセスではありません。次のレベルに上がる適切な水準に達するための道程に人々をつれてくるものです。』

成果

プロジェクトの結果、SDMコミュニティ内でタレントマネジメントと後継計画の貴重な仕組みが構築されました。コミュニティ全体でどこに人材がいるのか、高いポテンシャルを持つ人材がどこにいるのか、管理職がすばやく見つけることができます。また、空席を埋めるために社外から採用する必要性が大きく低減しました。

また、プロセスによって将来のSDMの「能力開発テーマ」が明らかになり、スキルの重要なギャップに対処する研修プログラムを導入できるようになりました。

昇進方法がより客観的で能力開発的になったことで個人にも明らかなメリットがあります。昇進の道筋が明らかになり、自分が昇進するために必要なものの理解が共有されます。

会社にとってのメリットも明らかです。社外採用費や教育費の節減など投資効果の点だけでなく、空席が生じた際に人材を見つけるスピードが速まりました。多くの企業が直面している現在の経営環境を考えると、この点は特に重要です。

リチャード・ブル氏は次のように結論しています。『SDMコミュニティ内に入社と昇進の明確な基準を備えたコントロールの仕組みができました。それが今は採用意思決定の情報としても活用されています。誰がいつ準備できているかがわかるので、空席が生じた時、その役割に適切な人材を非常に早く見つけることができ、さらにその代替要員として適切な人材を見つけることができる、というようなドミノ効果があります。会社にとってのメリットは膨大です。自分たち自身の人材を見分けて能力開発するだけでなく、社内で空席を埋められます。その結果、採用だけでなく教育においても時間と資金を節約できます。対象者はすでにどのようにビジネスが動いているかがわかっているからです。』

次のステップ

バリエ・サクソン氏(人材開発マネジャー)は次のようにコメントしています。『この重要なプロジェクトでSHLとパートナーを組んで動いたことがよかったです。現在の経済環境を考えると、人材の採用、能力開発、マネジメントのやり方について、組織はより挑戦的であるべきです。我々はこのプロジェクトの結果に満足しており、すでに会社としてのさらなる人材マネジメント策を継続しています。』

そのような策のひとつは、統合され一貫した評価アプローチを創り出すことによって、コミュニティと会社内で知識や洞察を共有することです。ビクトリア・ワード氏(コミュニティ人材開発長)は次のように述べています。『我々のビジョンは社内で合意された評価アプローチを持つことです。費用や労力のダブリのない「筋肉質な」評価方法を確保し、同時に、コミュニティを変革するより明確な道筋を社員に明らかにします。』

SDMコミュニティや他の専門コミュニティにおけるタレントマネジメント施策はすでに、組織と個人にメリットをもたらしています。富士通は、この道程が一過性のものに終わらないよう、社員が前進するための戦略的焦点としてタレントマネジメントと能力開発があり続けるよう、力を入れています。

ポール・キルコイン氏(新任SDMコミュニティ長)は次のように述べています。『SDMコミュニティが多くの人材と優れた慣習をもつ好調なコミュニティであることを示す証拠があります。人材のマネジメントと効果的な配置は継続中のチャレンジです。SDMアセスメントセンターによって我々の人材パイプラインはより理解できるものとなり、同時に、オープンで透明性と一貫性の高い人材評価の仕組みができました。人材はユニークな差別化要因です。顧客はベストを期待しており、我々もそうです。』

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

事例には受講者のコメントも掲載されています。いくつか拾ってみましょう。

『SDM2アセスメントセンターは私にとってすばらしい機会でした。立ち止まって、1年半前にSDMコミュニティに加わって以降自分が成し遂げたことを振り返ることができました。同僚の見方などから、成長の度合いやこれまでに学んだことがはっきり理解できました。自分の能力開発の必要な分野が提示されたので、これから対応していきます。』

『非常にリアルな経験でした。自分のスキルを評価し、どこに能力開発の焦点を置くべきかを理解できる貴重な機会でした。』

文責:堀 博美

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