SHLグローバルニュース

このコーナーは、当社がライセンス契約を結んでいるCEB SHL Talent Measurementがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主に広報誌やユーザー向けネット配信、HP、プレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回はワシントンポストのオンラインサイトに掲載された記事をご紹介します。

第228回 ユナイテッド航空、失態後の方針変更

乗客を引きずり降ろすというユナイテッド航空の大失敗後、多くの人が簡単な修復方法を思いつきました。つまり、前線従業員の常識とちょっとした判断が有効だ、というものです。なぜ、より多くの金額を申し出て他の誰かに飛行機を降りてもらうことを従業員たちは決断しなかったのでしょうか?

その数日後、ユナイテッド航空には別のソーシャルメディア上での騒動もありました。はいていたレギンスがドレスコードに合わないという理由で、従業員の10代の娘たちが搭乗を拒否されました。両方の出来事がルールに縛られた組織という航空会社のイメージを強めました。

先日ユナイテッド航空は10個の方針変更を発表しました。その中には、予約を取り消される乗客への補償金の上限を1万ドルに上げることや、オーバーブッキングのフライトでボランティアを募る自動システムを開発することが含まれ、「従業員に権限を持たせ、その場で顧客サービスの問題に対処できるようにする」ことを約束しています。

しかし、この危機から立ち直るためにユナイテッド航空がやるべき最も重要なことは従業員に権限を持たせることだとマネジメント専門家は言いますが、それはまた最も難しいことです。従業員がどのように振る舞うことを会社が望んでいるのかを明らかにするために、運用ツールや風土的な強化、組織構造変革など手の込んだバランスを要します。

「単なる権限付与の問題ではありません。風土変革の問題です。」Ethan Burris(テキサス大学教授)は言います。「ルールに縛られた風土では、『権限付与』はかなりの反体制です。」

ユナイテッド航空の11ページに及ぶリポートには計画が述べられているだけではありません。乗客のDavid Dau氏が座席を諦めることを拒否して強制的に飛行機から引きずり降ろされた4月9日の出来事で、何が間違っていたのかも述べられています。リポートは、「職員は、自立的に行動して補償金を増額したり他の輸送手段を提供したりする権限を持っていなかった」、そして、失敗のひとつは「このような状況に対処するための訓練や権限付与が不十分であった」としています。

前線の従業員により大きな権限を与えるため、ひどいサービスを受けた顧客に対して従業員に直接に賠償させるようなアプリを立ち上げる、とユナイテッド航空は述べています。客室乗務員は7月から、ゲート係員は今年後半、問題が起ったら、マイレージや今後のフライト引換券その他で乗客に賠償できるようになります。アプリを使う前に、先に上司に許可を求める必要はありません。ユナイテッド航空広報担当官Megan McCarthyはEメールで、機内エンターテイメントが故障していた乗客に客室乗務員がその場でマイレージや旅行クレジットを渡した例を用いて確約しています。

「それが重要だ」とCEBのBrian Kroppは言います。会社が『権限付与』という時、大抵はあいまいで、具体的なもの、すなわちお金、について触れません。

「従業員に権限を付与するには、進んで、予算や費用について彼らにコントロールさせることが必要です。彼らが実際に決断を下せるよう、彼らの手にお金を預けなければなりません。ユナイテッド航空のアプリは、どれくらいの量が適切なのかのガイドラインを提供しながらも、従業員にコントロール感を持たせることに役立ちそうです。」

しかし、ルールに縛られた風土から、従業員に分別を働かせるようにさせる風土へと移行することは、単にルールを変更して従業員にアプリを持たせるということ以上だ、と専門家は言います。規則通りにやることが少ない風土になじむ人を採用・昇進させることと、新しい現実に適応できるような訓練を提供することの両方が必要だ、とBurrisは述べます。

寛容なやり方で従業員に顧客の問題に対処させることで知られている高級百貨店Nordstromと違い、航空会社には多くの政府規制やその他の安全規則があり、それらと顧客ニーズのバランスを取らなければなりません。

「やるべきことを強化するだけでなく、長い間従ってきたルールを捨て去ることを助けるようなトレーニングプロセスが必要です」とBurrisは言います。

さらに、分別を働かせることができた人を誉めて報い、やりすぎてしまって許しを乞わなければならない人を罰しないことも重要です。「昇進や表彰をうまくやらなければ、たわ言だと思われてしまいます。」(Burris)

危機が起った時に航空会社が素早くより適切に対応できるよう、組織構造の変革が必要だと示唆する人もいます。Laurence Parnell(ジョージワシントン大学教授)は、ユナイテッド航空本社のコミュニケーション部門が、CEOやマーケティング部長ではなく、人事管理チームの直轄になっているのが変だ、と言います。(ユナイテッド航空はこの組織図を認めましたが、それが危機対処に影響したかどうかや変更するつもりかどうかについてのコメントはありませんでした。)

「直観的に、現場から離れていればいるほど、危機的状況に対して機敏に対応することが少なくなります。」コミュニケーションチームが人事直轄である会社はわずか4%という最近の調査結果を引用しながら、Parnellは述べます。

ユナイテッドの広報担当官は、会社の風土改革に焦点を当てた経営陣の変更があるかどうかについての質問にも答えませんでした。しかし、CEOのOscar Munozはさらにあると示唆しているようです。

彼はその声明文の中で述べています。「我々のレビューでは、その日多くのことが間違った方向に行きました。しかし、ポイントは明らかです。方針が妨げになっていました。ユナイテッド航空の我々全員にとってこれがターニングポイントです。よりよい、より顧客志向の航空会社になることへの風土変革の合図です。顧客が我々が行う全てのことの中心であり、これらの変革は我々が顧客の信頼をどのように取り戻すかの始まりにすぎません。」

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

この記事を読んだ時、先日のリッツ・カールトンでの体験を思い出しました。仕事関連での会議場とレストランを利用しましたが、スタッフの対応や気配りがとてもきめ細やかで行き届いており、かつ、スタッフが皆、活き活きと仕事をしている様子が印象に残りました。後で同僚から、リッツ・カールトンでは十分な顧客サービスができるようスタッフ全員に自分の判断で使える予算が与えられている、と聞き、なるほどな、と納得した次第です。

航空会社については確かに「安全」が一番に来るでしょうから、顧客サービスについて従業員の裁量にどこまでゆだねるか、バランスが難しいところかもしれません。

(文責:堀 博美)

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