SHLグローバルニュース

このコーナーは、当社がライセンス契約を結んでいるCEB SHL Talent Measurementがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主に広報誌やユーザー向けネット配信、HP、プレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回はCEBブログから、意思決定に関する記事をご紹介します。

第237回 ダニエル・カーネマンが意思決定のし方について語る

意思決定に関する世界的な思索家の一人であるダニエル・カーネマンが、なぜ社員がまずい意思決定を下し、会社はそれをどうやって改善できるか、説明します。

毎日、会社の中では、新入社員からCEOまで全員が数え切れないほどの意思決定を下します。そう遠くない昔は、CEOや上級幹部による決定が他のチーム全員による決定を左右していましたが、今日の仕事環境ではそのようなことはあまり起こりません。

ほとんど何をするにしても、社員は社内の様々な部署やあらゆる階層の同僚と協力し合う必要があります。レポートラインがはるかに複雑になり、市場は予測できず、新しい商品が投入されたりサプライチェーンが変わったりなどなど変化のスピードが速くなっています。そういう環境では、幹部に上げて承認をもらうより前に反応することが求められます。

これらすべてを考えると、組織の上層部にいる人だけに意思決定の権限を制限しようとするのは非現実的です。

しかし、このことは必ずしも悪いことではありません。詳細に近い人が意思決定を下すことができるだけでなく、M&A絡みや顧客ニーズの根本的な変化への対応など、大きな変革施策についての意思決定により多くの社員を巻き込むことで、そのプロジェクトの成功確率は24%くらい上がります。

しかしながら、より多くの人を関与させる意思決定は簡単ではありません。会社としては社員に正確な決定を下してもらう必要がありますが、持って生まれた人のバイアスで判断が狂うことがしばしばあります。

ノーベル経済学賞をとったダニエル・カーネマンは、このテーマについての世界有数の専門家の一人です。彼は次のように述べています。「全ての組織、全てのビジネスが、意思決定工場です。同時に複数の決定を下します。ただ、意思決定手順をデザインするよりも工場をデザインするほうが、はるかに合理的ではるかに整然とした決定が下せます。」バイアスを認識することによって、会社は社員に権限を与えると同時にビジネスで結果を出しながら、プロジェクトやアイデアに合理的にアプローチし始めることができます。

これまで信じられてきたことと反対に、人が理性に基づいて決定することはあまりない、とカーネマンは説明します。合理的エージェントモデルでは、意思決定者はその決定から起り得る結果を基に行動を決めます。

しかしながら、通常、人は損得の観点で考えます。これは「合理的エージェントモデルからの大きな逸脱です。損得で考えると、一貫しない決定を下すことになるからです。」(カーネマン)。一貫しない決定は、損を回避することから派生します。人は「得すること」よりも「損すること」に大きく影響されます。損を避けたいという気持ちが、人に、理想的な最終状態よりも何を失うかに基づく決断を下させます。これが、一貫しない意思決定になる理由です。

カーネマンによると、人は通常、2つのやり方で意思決定を下します。ひとつめは自動的で高頻度、感情的で無意識的なものです。直感に似ています。決定において能動的な役割をとるのではなくより受動的なもので、それが正しいから、もしくは、自然なことだからそうする、といったものです。

一方、ふたつめはゆっくりとした、努力を要する、低頻度で論理的、計算的なものです。この種の決定では人は時間をかけ、結果のあらゆる側面を見ようとします。意思決定に一貫性を保つために、組織は理想的にはふたつめのやり方に従うべきです。しかしながら、ひとつめのやり方が蔓延しており、絶つのは難しいです。

ひとつめのやり方がポピュラーである理由の一つは簡単だからです。ひとつめのやり方をする人はしばしば、既存のストーリーに合わせようと与えられた証拠を曲げます。カーネマンはこの現象を認知的イリュージョンと呼びます。認知的イリュージョンは「見ているものが間違っていることはわかっているけどどうしようもない」ということでパワフルだ、とカーネマンは説明します。認知的イリュージョンにおいて、「自分の信念を説明するストーリーを作り出し、そして、自分の信念はそれらの理由によって説明されるという印象を持ちます。」

認知的イリュージョンは入手可能性のバイアスも受けます。入手可能性のバイアスとは、「頭にすぐ浮かぶもの。それらは何でも思考において優位に立ち、我々に影響を与える」(カーネマン)。念頭にある、意味を成しそうに思える、アイデアや考え、経験が再び頭に浮かびます。この種の連想思考が頭の中を占め、この連想思考によって頭が働きます。

人が個々にこれらのバイアスを克服するのは容易なことではありません。会話しながら車を運転するなどの日常の単純な行動で、人は直感やその他の近道を使います。しかし、組織全体で、ということではカーネマンはより楽観的です。「間違いをしそうな状況に気付き、自分を落ち着かせて別のやり方で答えを計算する」ことで個人がバイアスをコントロールするのは難しいですが、組織はこれらの傾向に立ち向かうための手順や規範を組み入れることができます。

カーネマンによれば、組織と個人は「意思決定のプロセスを短絡化して、直感で、早く問題を解決した気になる」傾向があります。我々は、直感を遅らせることによって、この気持ちを持ちながらもより論理的な決定を下すことができます。

直感を遅らせるには、複数の段階で決定を吟味することが必要です。「正確な意思決定に到達するために重要なことは、自分が聞いた最初のことに影響されて後のことにバイアスがかからないよう、相互に独立に判断を下すことです。」(カーネマン)

組織が使える役立つチームエクササイズがあります。チームで「Embrace the Crazy」セッションをもつよう、カーネマンはアドバイスしています。この「pre-mortem」(死ぬ前の解剖:実験心理学者ゲーリー・クラインが発案)では、チームのアイデアが失敗してしまった、すなわち「クレージーなことを受け入れる」ような状況が起こってプロジェクトが台無しになってしまった、と仮定します。チーム全員で、失敗に至る歴史として考えられることや、アイデアが崩壊するあらゆる可能性について話し合います。このエクササイズは「以前には見えなかった多くの反対意見」を浮き彫りにし、チームはそのアイデアを詳細に分けてより批判的に分析することができる、とカーネマンは言います。

リスキーな決定を下す必要があるときも、チームは利点があります。個人がリスキーな決定を下すときはリスク回避になりがちです。個人にとってこの傾向は当然です。もし間違った決断を下したら、非難されるのはその人だけなのですから。しかしながら、チームがリスキーな決定を下す場合、非難はチーム全体に分散します。重要な意思決定にチームを使うと、自然にこれら個人のリスク回避バイアスに対抗できます。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

カーネマンは経済学と心理学を統合した経済行動学者です。この記事にある「人は損を回避する」というのはプロスペクト理論です。訳者は、彼が2002年にノーベル経済学賞を受賞した時、彼の理論について興味を抱いた一人です。このブログの記事を読んであらためて深く勉強したいな、と思いました。

(文責:堀 博美)

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