SHLグローバルニュース

このコーナーは、当社がライセンス契約を結んでいるCEB SHL Talent Measurementがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主に広報誌やユーザー向けネット配信、HPプレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回と次回、イギリスの国民総選挙結果に関して2016年6月28日に発信されたCEBブログの記事を2回に分けてご紹介します。

第205回 Brexitから派生する人事問題(前編)

イギリス国民がEU離脱に賛同票を投じた今、イギリスやヨーロッパでビジネスを行う企業には、間違いなく人材に関する多くの影響があるでしょう。移民や労働法、経済への影響、イギリス政治の未来の点でBrexitが意味するものについて、人事の観点から考えられる結果についてまとめます。

6月23日木曜日、イギリス投票者の過半数が、イギリスは欧州連合(EU)を去るべきだと決断しました。これまでEUを離脱した国はありませんし、とりわけイギリスのような大きな経済的・金融的中心国が離脱することはなかったものですから、いわゆるBrexit(British exit)の影響がどんなものになるのかは誰もよくわかりません。政府や経済学者、大手企業、金融機関は皆、経済的なインパクトは深刻で、イギリス経済やヨーロッパ経済は大きく停滞し、世界不況を引き起こすかもしれないと恐れています。

インパクトの多くはイギリス労働力の多様さによるものかもしれません。現在、他のEU諸国から約220万人が来ています。ニューヨークタイムズによると、これらヨーロッパからの移民労働者のうち、100万人はロンドンに住んで働いています。ロンドンの人口は850万人です。これが、ロンドンの経営者たちがイギリスのEU残留を強く支持した理由かもしれません。EUは参加国間で労働力の自由な移動を保障しています。イギリスがEUメンバーであるおかげで、これらの人々は他の国から来た人よりはるかにたやすくイギリス国内で仕事を見つけることができていました。

オックスフォード大学のMigration Observatory(移民観測所)によれば、国民投票は移民に対する敵意が高まっている時期に実施されました。EU参加の反対者の中には、移民がイギリス国民から仕事を奪っており、賃金を押し下げていると非難する者がいます。イギリスの失業率は比較的低く、ヨーロッパ国籍者はイギリス労働力のわずか5%を占めるにすぎないのですが、Brexitの論拠の大きな部分は、大陸からの移民を制限する自由をイギリス議会に与えることでした。

その一方で、多くのイギリス国民がEU諸国に働きに(もしくは退職後に暮らすために)出てもいます。彼らの権利が同じままでいられるかどうかも問題になるでしょう。

言うまでもないことですが、労働者に影響することはすべて雇用主に影響します。イギリスとヨーロッパのビジネスは、特定層の労働者を雇用・保持する力が大きく妨げられるような大胆で劇的な変化に備えなければなりません。以下に、Brexitが人材マーケットに与える影響についてビジネスリーダーが理解するために必要な問題のいくつかを挙げます。

イギリスのEU離脱の決定は、外国人労働者の雇用に関する政策に大きな影響を与えるかもしれません。「かもしれない」というのは、この変化によって影響を受けるヨーロッパ人労働者が即時にビザを失うことはないだろうからです。イギリスをEUシステムから解き放つのは長く入り組んだプロセスになるでしょう。イギリス政府がリスボン条約50条を行使するところから正式な離脱プロセスが始まり、2年の交渉期間があります。その間、現状の政策は表面上維持されます。しかし、長期的な状況は不透明です。特にヨーロッパのリーダーは最終的な合意には2年ではなく、少なくとも7年かかると思っていますから。

もしイギリスのBrexit後のEUとの関係が、アイスランドやノルウェー、スイス、リヒテンシュタインなど他の非EU諸国と同じようなものとなり、ヨーロッパ経済圏の一部としてあり続けるならば、ヨーロッパ労働者にとっての最終的な結果は全く、もしくは、ほとんど変わらないかもしれません。ただ、勝利した離脱派には強力な反移民のグループが含まれており、現状維持は離脱の目的を無にするものだと思うかもしれません。Brexitの結果、EU諸国民にはイギリスにおいて他の外国人と同じルールが適用される可能性もあります。(外国人の熟練労働者のみ永久滞在許可など、このルールは近年きつくなっています。)

中間的な可能性は、すでにイギリスに住んで働いているヨーロッパ人は将来の移民に適用されるような制限から除外されるというものです。投票前、離脱派はすでに合法的に国内に住んでいる人はそのまま残ることが許される、と主張していました。しかし、法律専門家の中には、離脱派がそのつもりでも、その保障は今後のEUとの合意次第であり、果たすことができないかもしれないと警告する人がいます。EU諸国民は現在、パスポートだけでイギリスでの法的居住権を証明できます。イギリスのEU離脱後はそうならないかもしれません。CIPDは、現在イギリスで働いているヨーロッパ人はイギリスの市民権を認められるか、滞在を永久許可になるかのとちらかだと予想しています。

オックスフォード大学のMigration Observatoryは、現在イギリスで働いているEU諸国民の75%は、他の外国人労働者に適用されるルールのもとでは不適格となるだろう、と試算しています。Social Market FoundationとAdeccoによる別のリポートでは、その数字は90%です。人材紹介のManpowerは、もしこれらの労働者の自由な移動が奪われれば、致命的な人手不足が起こる、特にヨーロッパ労働者に大きく頼っている建設業界ではそうなる、と警告します。結果、Brexitが移民のレベルの低下に帰結するかもしれないという疑問が起こります。なぜならば、イギリスで外国人人材への需要は高く、かつそのギャップを埋めるためにビジネスが非ヨーロッパ人に、さらに悪いことには、非合法な移民に向く可能性があるからです。

交渉によって新しい移民の形態がどんなものになるかに関わらず、不透明な期間が長期化すれば、雇用者の雇用力への自信や、労働者の職の安定への自信を深く損なうでしょう。ヨーロッパ人労働者の中には既に市民権の申請や在留資格を保証するような職の獲得に慌てて走り回っていた人もいますが、多くは国民投票で離脱となった時には去ると計画していました。イギリスの経営者は単純に、在留が許可される可能性があるからとヨーロッパ人社員が2年間残ってくれることに頼ることはできません。彼らの状況に影響するルール変更の前に、EU諸国民がイギリスから集団脱出することになるかもしれません。

Brexitによって影響を受ける人材プールはイギリスにおけるヨーロッパ人労働者だけではありません。EU諸国で働いているイギリスの海外駐在員もまたそこで働く権利を失うかもしれません。特にイギリスが制限的な移民政策を採用し、EUがそのお返しに同じようなことをしたら、そうなります。海外駐在員は無料もしくは低費用の大学教育や健康保険を利用できず、不動産の購入力にも新しい制限があるかもしれません。Brexitはヨーロッパで生活する多くのイギリス人定年退職者や、定年退職後ヨーロッパで暮らそうと計画している人の年金にも影響します。ヨーロッパ雇用主の多くは熟練人材源としてイギリスに頼っていますが、彼らもイギリス人を雇用する力が大きく狭められたと思うかもしれません。

雇用主にとっての希望の兆しは、労働力の自由移動を維持するような取り決めを働きかける時間がまだあることです。実際、ビジネスパートナーとしての影響力が大きいことを考えると、英国政府が望もうと望むまいとEUがその点を合意するよう強いるかもしれません。

イギリスの労働法は様々あり、EU参入以前のものから、EUの指導に応えて作成されたものまであります。一般的に言って、後者は、明らかにイギリス起源のものよりも、影響を受ける可能性があります。例えば、2010年に制定された労働者派遣法は、賃金や労働条件の点で、派遣労働者を正社員と同一に扱うよう雇用主に課すものですが、EU指導に由来するものであり、イギリスの雇用主の間でも不人気です。これらの規制はBrexitでおそらく廃止されるでしょう。TUPE(the Transfer of Undertakings (Protection of Employment):事情を譲渡する会社の雇用を守ることが目的)もEUの指導によるもので、これも取消もしくは修正の可能性があるでしょう。

しかしながら専門家の中には、イギリスがEU由来の規制を全て取り除くことには懐疑的です。それらの多くはイギリスの労働規範の一部になってきたからです。イギリスの雇用法がEU指導より卓越している場合もあります。例えば、従業員に年間28日の有給休暇を与えること(EU標準は4週間だけ)などです。反差別法、労働時間の制限、その他のEU計画に対応するイギリス政策もまた、(雇用主により大きな柔軟性を与えるために修正されるものはあるかもしれませんが、)すぐに廃止されることはなさそうです。詳細次第で、そのような変化が雇用主にプラスマイナス様々なインパクトを与えることは明らかです。

結局のところ、Brexitが雇用法に与える影響を制限する最大のものは、幅広い法的保護に慣れて利益を保証されてきた従業員が廃止の動きに抵抗するかもしれない、という点です。政治的観点から見ると、イギリスの投票者たちは、自分たちが大切にしイギリスの労働文化に影響を与えてきた規制を、政府が後退させることは支持しないでしょう。雇用主もまた、たとえ、経費節減や柔軟性向上になるとしても、従業員にそのような変化を無理強いすることにためらいがあります。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

当社がライセンス契約を結んでいるSHLはイギリスの会社です。(現在はCEBに買収され、本社はアメリカ。)その縁で筆者も6月23日の国民総選挙には注目していました。結果については様々な議論がありますが、「決まったことは決まったこと。今後の対応が大切」とイギリスSHLのスタッフは述べていました。EUとの交渉の成り行きに注目しています。

(文責:堀 博美)

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