堀 博美のSHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループのネット配信「SHL Newsletter」や広報誌「SHL News」、HPプレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回ご紹介するのは、SHL 360度ツールのレビュー・レポートです。360度ツール担当プロダクトマネジャーであるRob Hurstがいくつかの興味深いポイントについて論じています。

第80回 社員本人が自分自身の最も厳しい批評家

2010年後半、SHLは顧客企業の協力を得て、5115人分の360度評価データを分析しました。分析の目的は業界別の目安値を作成することですが、分析自体が非常に興味深い結果を提示しています。

まず驚いたのが、対象者1人あたりの評価人数の多さです。対象者のパフォーマンスを包括的に捉えるために、我々は、上司、同僚、直属部下など、本人も含めて少なくとも7人以上に評価してもらうことをお薦めしてきました。本研究で集められたデータはほぼ5万件。つまり、対象者1人あたりの平均評価者数はほぼ10人(9.65人)という結果でした!

評定者カテゴリー中、本人評価が最も低い

特に興味深い点は本人による評価と他者による評価の違いです。結果は大方の予想に反するものでした。自分に関しては本人が最も厳しい批評家であるようです。20個のコンピテンシーのうち9個について、本人評価の平均点は他の全ての評価者カテゴリーの評価の平均点より低いものでした。

パフォーマンスを主に見るのは上司ですから、上司評価が最も厳しいはずだと思いそうですが、上司評価平均点が最低だったのは7個だけです。分析から本人評価をはずすと、全ての評価者カテゴリーの評価の中で上司評価が最低だったのは12個となり、本人に次いで上司が厳しい評価者ということになります。

上司評価の散らばりは本人評価の散らばりより大きく、良し悪しをよりはっきり区別していることがわかります。ほとんどのコンピテンシーで本人評価の分散は最小値であり、社員本人が最も自分に厳しいだけでなく、その傾向は一貫していることがうかがえます。

社員は何故、自分自身にそれほど厳しいのか?

もしあなたが身近な人に「仕事はどうですか?」と尋ねたなら、おそらく相手は「自分はとてもいい仕事をしているのだが、上司や同僚にそれがちゃんと認められていない」と答えることでしょう。今回の分析結果はこれと矛盾します。

理由はいくつか考えられます。本人は、他者評価が自身の評価よりも甘くなるように自分を厳しく評価している可能性があります。これは自尊心防衛機制として機能します。すなわち、結果が自分の予想を上回り、「うれしい驚き」として自分を勇気付けてくれることになるからです。

本人評価は「起業家的/経営的思考」コンピテンシーで最低点

図1は、本人評価平均点の低いコンピテンシー5個の結果です。

評価者カテゴリー間で最も大きな得点差が見られたのは「起業家的/経営的思考」コンピテンシーです。本人評価が他の評価者の評価よりも非常に低くなっています。これは対象者への期待を上司が明確にしていないということでしょうか?あるいは、本人は自分のやり方が「起業家的」でないと思っていても、上司から見ればその役割に求められる要件をきちんと満たしているのかもしれません。起業家的・経営的な取り組みは上司自身が自分の責務であると感じている可能性が高いですから。

他に、「説得・影響」や「プレゼンテーション・情報伝達」でも本人評価が低い結果でした。おそらく、これらのコンピテンシーでは、他の評価者がコミュニケーションの「受け手」としてパフォーマンス評価に適した立場にいるからでしょう。対照的に本人評価が最も高かったのは「決断・率先垂範」です。このコンピテンシーに関するパフォーマンスは他者に依存する部分がより少ないため、判断に当たっては自分が最もふさわしいと感じるのかもしれません。

「計画・実行」に関連するコンピテンシーの評価で、上司はかなり甘い

不可解なのは、「計画・実行」に関連する3個のコンピテンシー(「計画・段取り」「結果を出し顧客からの期待に応える」「指示や手順に従う」)について、上司評価がかなり高いことです。これらは、上司にとっても本人にとっても、最も観察・数値化しやすいコンピテンシーです。しかし、3個すべてについて本人評価は全評価者の中で最も低い平均点でした。

部下評価が上司評価よりも高いのはハロー効果の影響か?

上司評価よりはるかに甘いのが部下評価です。20個中9個のコンピテンシーで最も高い平均点となっています。

これはある部分、心理学で言うところの「ハロー効果」が原因ではないかと考えられます。ハロー効果とは認知的バイアスのひとつで、「ある特性についての評価が、他の(無関係の)特性の評価に影響される」という現象です。これは、仕事配分と成果評価/報酬に関して部下が上司にかなり依存している場合、特に当てはまります。そのような関係においては、上司である対象者の親しみやすい態度など好ましい特徴のひとつが、対象者のパフォーマンス全般を部下がより寛大に見ることにつながる傾向があります。

コミュニケーションが大切

高い部下評価の原因としてもうひとつ考えられるのは、360度評価の匿名性を部下が疑っている可能性です。この場合、低い評価をした者として上司に特定されることが自分の将来にダメージを与えるかもしれないと心配しますから、上司に高い点数をつけるのは部下の自己防衛です。この点で、360度評価を導入する際の、徹底的な趣旨説明が重要です。

部下評価が高いのは「対人関係・プレゼンテーション」「創造・概念化」「適応・対応」の領域です。逆に低いのは「支援・協力」領域で、特に「原理原則や価値にこだわる」コンピテンシーでは全評価者カテゴリー中最低点となっています。このことから、対象者たちが部下から、「よい仕事をしているが、それは規則遵守を犠牲にしてのものである」と見られていることが伺えます。

ロール・モデルとなるマネジャーがスタッフを動機付け、エンゲージさせているか?

最も高く評価された項目が次の2つです。

  • 必要ならば残業をいとわない(平均点4.316)
  • 仕事に多くの時間とエネルギーを投資している(平均点4.203)

この2つは「仕事目標の達成」コンピテンシーに属しており、部下のエンゲージメントに直接的に関わるものですが、行動の生産性というよりも、ハードワークやコミットメントを指しています。対象者のこれらの行動を部下が高く評価している理由のひとつは、多くの職務では、その成果や価値よりも、時間やエネルギーの量のほうがわかりやすいということでしょう。

この2つの行動については、全ての評価者カテゴリーが高い得点をつけています。ここでもまた興味深いのは、対象者本人の得点よりも、部下が高い得点をつけていることです。この結果は、マネジャーがロール・モデルとして注目されるという「Lead by example(規範を示して指導する)」という言葉を裏付けているように思われます。

360度ツール導入のポイント

分析結果から、貴社が現在360度ツールの導入を検討しているならば、最大限に活用できるよう以下の点にご留意ください。

  • 質問項目は、短く、明解で、対象者の職務に関連するものでなければなりません。
  • 回答者は対象者が信頼できる人でなければなりません。回答者の人数が多いほうが信頼性やインパクトが増すという研究結果がありますが、対象者が信頼していない人を加えて人数を増やしてもフィードバックを混乱させ、インパクトを弱めるだけです。
  • 全員が重要な意味を持つようなフィードバックを受けることが大切です。研究結果によると、柔らかな称賛は自尊心を高めますが、現在の行動を強化するだけで何の変化も生み出しません。
  • 対象者本人と評価者の両方に、360度ツールの目的ややり方を適切に伝え、理解させるようにします。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

このレポートを読んで私が一番不思議に思った点は、部下評価の高さです。日本企業で360度ツールを実施してきた身近な経験では、一般的に本人評価や上司評価と比べて部下評価が相対的に低いことが多い、という印象です。残念ながら複数企業にまたがっての大規模な集計は日本で実施していませんので、これが企業文化や国民性の違いに関連することなのかどうか、確かなことは言えません。今後の問題意識として暖めていきたいと考えています。

レポートの主眼である「本人評価の低さ」を説明するものとして、筆者は「自己防衛機能」を挙げています。これに対し、ソーシャルメディアLinked InのSHL関連グループで議論されています。そこでは「向上心の表れ」として肯定的に受けとめられる性質のものだという指摘や、対象者とのフィードバック・セッションの導入段階の話題として取り上げているという実践家のコメントなどがありました。360度ツール導入の目的や背景によって、得点の意味はまったく異なる視点から見られるべきものだと考えます。

文責:堀 博美

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