堀 博美のSHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループのネット配信「SHL Newsletter」や広報誌「SHL News」、HPプレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回から3回に分けて、職場における安全管理に関するSHL白書を掲載します。執筆はSHLグループChief ScientistであるEugene Burkeです。

第72回 安全のDNAを分解する(1) 〜職場事故はなぜ起き続けるのか?

職場における安全の重要性、危険行為が経済や社員にもたらす結果について、近年また注目が集まっています。様々な業界調査によれば、職場事故の60〜80%はオペレーターのエラーによるものです。2008年、アメリカ労働省は、アメリカにおける事故のコストが1週間当たり10億ドルに及ぶと報告しました。イギリス衛生安全委員会事務局の2004年のレポートによれば、職場の事故や仕事に関連する疾患のコストは39〜78億ポンド、イギリス経済は事故によって3900万労働日数を失ったと推定されます。統計によって値にばらつきはありますが、職場事故が財務面や社員に大きな影響を与えていることには疑いの余地がありません。

社員トレーニングや健康安全面の規制遵守に企業が投資していることを考えると、大きな事故で人為ミスが致命的な役割を果たしていることへの疑問がどうしても浮かびます。言い換えれば、トレーニングや安全遵守への投資が、事故回避に充分でないのはなぜか、ということです。

安全は3つの重要要素によっているとSHLは考えます。1つ目は、生産工場などの施設や設備の設計です。オペレーターや人為ミスを考慮に入れてこれらがうまく設計されていれば、人間工学などの科学が非安全行為の結果を和らげる方向に貢献できるでしょう。

2つ目の要素は、社員の日常的なオペレーションや、安全に関する出来事に対する反応を規定するプロセスや手順に関連します。意識や知識の向上にトレーニングや教育が重要です。しかし、何をすべきで、何をすべきでないかを知っているだけでは、もちろん、事故の発生回避に充分ではありません。ある同僚が私に最近指摘したとおり、我々はみな道路の制限速度を知っていますが、そのことがすなわち、全員がその制限速度を守ることにはなりません。

ここで3つ目の要素が登場します。人の行動です。これはおそらく、最も扱いにくい要素でしょう。クライアントとの仕事で我々が必ず出くわすのは、安全教育やトレーニングのプログラムに関係なく、事故や惨事につながるようなリスクを冒す社員が存在することです。社員や契約会社のこのリスクに対する傾向を充分に知らないままだと、企業は非安全行為が発生する可能性に影響を与える要素についての全体像を持てず、当然の結果として、人為ミスが職場における事故を引き起こし続けます。

目標を追いかける際に個人やグループが受け入れるリスクの量を、「リスク耐性」と定義します。「リスク耐性」は行為の結果についての信念を反映します。リスク耐性の高い人は、自分の行動が否定的な結果にならないと考える、もしくは、自分が結果の程度をなんとかマネジメントできると考える傾向があります。ここで重要な質問は、安全性改善のための具体的・実用的なデータを提供できるよう、これらの傾向をどのようにして見分けることができるか、です。

我々の研究は、リスク耐性が、よく事故に関係する人がもつ気質に影響を受けていることを明らかに示しています。これらの気質は、彼らのリスクに対する感じ方や出来事に対する見方に影響し、その結果、行動の仕方に表れます。この論文の後半で、個人やグループレベルでの気質と実際の事故との関係を示す事例を紹介しますが、ここでは、これらの気質についてもう少し詳しく掘り下げましょう。

リスク耐性/安全志向に関する我々のモデルは、鍵となる5つの行動に基づいています。これらの行動は、事前に計画するほうかどうか、細かなことに注意を払うかどうか、方針や手順に従うかどうかなど、プロセスに関連するリスクをとるか避けるかという気質を反映します。モデルにはまた、自分の行動やリスクに対するアプローチが他者に与える影響を考慮するかどうかも含まれます。これは、メンバーに情報を流し続けるなどチームやグループをサポートすること、そして、責任を持って安全問題に対処し、職場や会社全体に安全の重要性を広めることに表れます。

これらの行動が適切なことは、先日公表された「石油とガスの安全への取り組み」からも明らかです。この資料には、事例と共に、将来同様な事故が起きた際にとるべき行動についての提言が示されています。

プロセス行動 「安全への取り組み」における提言
前もって計画する
先々のことを考える、問題を予見する、不測の事態に対する計画を立てる
仕事の計画を立てる際、遭遇するであろう実務的問題を評価し、それにどう対処するかを検討すること。
詳細への注意
詳細を確認する、質を正しくすることへの努力や成果に報いる
安全に対する会社の風土は世界一かもしれないが、その風土が新チームにも伝わっていると思い込んではいけない。新チームに目を光らせ、高い水準が取り入れられていることを確認すること。
手順に従う
方針や手順に必ず正確に従う
手順は事前に準備され、有能な人材によって見直される必要がある。
対人行動 「安全への取り組み」における提言
チームワークとコミュニケーション
人と相談する、仕事グループ内での積極的なコミュニケーションを奨励する
職場で仕事について話せ。巡回し、対応の必要な箇所をピックアップせよ。担当者は自分の仕事や、その中での自分の役割を説明できなければならない。
責任を示す
目の前の仕事課題や同僚を越えた、より大きなチームに対する責任意識を確立する
人々は設計のまずい設備でもガマンし、なんとかベストを尽くそうとする。設計者が全ての状況を予想することはできない。もし、運用しにくい設備があれば、はっきりとそう主張すること。

それでは、企業の最近の安全への取り組みにSHLの安全に関する5つの行動はすでに含まれているのでしょうか? フィードバックや安全教育のベースを暗黙のうちに提示しているという点では、おそらくそうでしょう。しかし、5つの行動の直接的な知見や、安全における人的要素についてこれらの知見が言わんとしていることという点では、わずかの例外を除いて、否と答えざるを得ません。

何故でしょうか? 安全調査を例に挙げます。安全調査からは、人々が安全手順の遵守をどう見ているか、社内に安全がどの程度よく伝わっているか、ベストプラクティスに会社がどれくらいコミットしているか、などがわかります。しかし、個人やグループのレベルでの人々の行動の仕方や直接的な行動リスクについて、このような調査ではわかりません。

このような直接的なデータは、調査によって収集されたデータを補うだけでなく、現在の安全慣習の盲点に実際に触れるものである、と我々は考えます。本論では以下、行動傾向に関する情報が実際の事故をどう予測しているかを示す事例を紹介し、企業における安全管理強化に、簡単かつ効果的なツールから収集されたデータがどう使えるかを説明します。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

SHLグループから発表される記事や論文などを見ていると、この1年ほど、職場事故や安全管理、ヒューマンエラーに関するものが増えていると感じます。おそらく、昨年春のメキシコ湾原油流出事故が直接のきっかけでしょう。適性検査などのツールが万能でないことは言うまでもありませんが、それが職場事故の数%でも減らすことに貢献できれば、企業や社会にとっての恩恵は計り知れないと考えます。

現在日本で起きている原子力発電所の事故は全くの天災によるものですが、ヒューマンエラーが命に関わる分野であることを改めて認識させられます。次回は今回の続き、事例研究の章をご紹介する予定です。

文責:堀 博美

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