SHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループが季刊で配信している「SHL Global Newsletter」の中から、日本で人事アセスメントに携わる皆様に役立ちそうな記事をご紹介するものです。

第2回は、2008年夏号の特集記事「Keeping employees engaged ? actions speak louder than words」です。

第2回 言葉よりも行動

社員のエンゲージメントを保つには − 行動は言葉よりも雄弁

IMFが予測するように経済が不況に向かっているならば、そのことは社員の態度や定着にどのような影響を及ぼすのだろうか。

年金コンサルタント会社ハイマンス・ロバートソン社の2008年調査によれば、現在の経済環境において労働者の間にあるムードはかなり否定的である。しかし、労働者の約半数が失業を恐れている一方、人事部長の約半数は社員数の増加を予測している。

社員の予想が人事側の見解とかなり食い違うのはなぜだろうか?
スコット・ノースカット(DHLグローバルエクスプレス人事担当副社長)は、不確実な時代には、職の安定が社員の考えることのトップに来る、と考える。答えは、透明性と定期的なフィードバック、優れたコミュニケーションを会社の人事テーマの上位にもってくることだ、と彼は言う。

ノースカット氏は、厳しい経済環境下でこそ、建設的なフィードバックを通して社員がその努力を認められるべきだ、と考える。「自分の心配事に上司が注意を払ってくれ、今後の変化についてオープンに話してくれると思ったときに、社員はより前向きに対応するものです」

社員のエンゲージメントを保つ

しかし、社員のエンゲージメントが重要なのは、経済の安定期よりも下降期なのだろうか?
このような時代、確かに会社は社員を選ぶことができる。マイク・ハフェンデン(幹部採用コンサルタント会社ストラテジック・ディメンションズ創立者)は、それはポイントではない、と言う。

「才能にあふれた社員が最大の資産です。彼らのエンゲージメントを維持することが大切です。調査結果が一貫して示すように、真に社員がエンゲージしている会社の財務業績は、そうでない会社の財務業績を凌駕しています。」

才能ある社員のエンゲージメントを維持するための答えは前向きなステップを取ることにある、とハフェンデンは言う。「不況の時、会社は引き止めたいと思う社員を大切にし、彼らのニーズが何か、を問い続けるべきです。スキルが足りなくなるというだけではありません。彼らは明日の才能です。どんな会社にも失いたくない人材がいるはずです。」

「問題は、人事において左手と右手が必ずしもシンクロしないことです。管理職研修チームが躍起になって引き止めたい才能ある社員を見つけようとしているときに、給与処遇チームはあるレベルに達した社員にそれだけでストックオプションを与えたりします。会社がその人たちを引き止めたいと思っているかどうかに関係なく、です。」

積極的アプローチ

「人材定着策を能動的な行動と見るか、それとも、受動的な行動と見るか、が大きいのです」とハフェンデンは言う。「能動的な行動とは、会社が、退職されることのリスクが最も大きい個人を選び出し、定着という観点から彼らについてより多くのことを探し出すことです」

たとえば、

  • 彼らの給与は上位25%にはいっているか?
  • 自分が会社から大切にされていると彼らが気づいているか?
  • 彼らを引き止めるような長期的な報酬プランがあるか?
  • 彼らはキャリアプランや能力開発プランをもっているか?
  • 彼らが、社長や取締役メンバーと定期的なカウンセリングセッションをもつことができるか?
  • その他の問題を扱うメンターやコーチがいるか?

「上記の全てにチェックマークをつけられるようにする必要があります。これらを全員に対して実行する資源はないかもしれませんが、会社が本当に価値を認める人材に対しては必ず行わなければなりません。」

現金か福利厚生か

経済の下降期、社員は福利厚生よりも現金を欲しがるかどうか、について、ハフェンデンは、給与はしかるべきところに落着くものだと考える。「もしあなたがある程度の給与を得ていたら、福利厚生のために給与を犠牲にしなければならないという状況はきついです。80年代に給与をカットしたいと言われた時、私は当時勤めていた会社への忠誠心を示すためによろこんで受けました。しかし、90年代にまた同じような申し出があった時、状況は変わっており、私は考えることさえもしませんでした。」

現在、10社中7社が人材定着の難しさを経験しており、10社中8社が採用に問題を抱えている。レベッカ・クラーク(人材開発協会組織資源アドバイザー)は、社員のエンゲージメントを確保するには金銭だけではないと主張する。ポール・ファーレー(ロイズ信託貯蓄銀行給与処遇担当取締役)も同じ意見だ。彼は次のように述べている。「うまくいっている福利厚生策の秘訣は、社員に定期的にどれが適切かを尋ね、それに基づいて行動することです。我々は我々の報酬体系が社員に彼らの欲しいものを提供していると確信しています。毎年、現在何が提供されており、何を改善できるか、検討しています。」

「柔軟な福利厚生は社員から非常に高く評価されています。我々は社員と成熟した関係をもちたいと考えており、彼らが正しい情報を基にした選択ができるようにしたいと思っています。社員が実際に欲しいものに我々のねらいは絞られていると確信しています。」

在職期間を予測する

本格的な不況を予測する専門家は少ないが、マイク・モーガン(福利厚生コンサルタント会社ピープルビュー社長)は、ゼロ成長の期間は避けられないと感じている。「不況とまではいかないと思いますが、成長は鈍化するでしょう。このことは社員の動機づけや定着に全く新しい意味を与えます。」

人材開発協会によれば、民間企業で約4分の1近くの社員が毎年退職している。そんな中、会社は生き残るために社員の期待の根底にある真相に辿り着かねばならない。ロイ・ディビス(SHL商品マーケティング・エキスパート)は、最近の社員は地に足のついた選択をするので、仕事に対して現実的な期待を持たせるようにするのがよい、と述べる。

「社員がその職にとどまる可能性を評価するには、在職期間を予測するような検査をカスタマイズするのが理想です。定着予測得点と実際の退職の相関を示すことで予測変量の妥当化ができます。この方法によってのみ、会社が、客観的な評価を基にした人材保持の長期戦略を策定できます。」

ハフェンデンも賛同する。「社員の期待をモニターすることが肝要です。そして、それから、それらの期待を積極的にマネジメントすることも同様に重要です。最後には、行動が言葉よりも雄弁ですから。」

その他の識者の声

最近出版された雑誌「パーソネル・トゥディ」に、不況期の人事部の役割に関する識者の意見が掲載されている。ディブ・ガーテンバーグ(英国マイクロソフト社人事部長):「今はこれまでにない激動の時代です。人事部がビジネスにリーダーシップを提供するチャンスであるばかりではなく、それが必要なのです。厳しい時代に人材を惹きつけ引きとめておくには最高のリーダーが必要です。」パトリシア・ペーター(取締役協会コーポレート・ガバナンス&雇用部会議長):「不況期には人事が組織にとって致命的な役割を果たします。生き残りたいならば、ベストな人材を保持しなければなりません。」

社員のエンゲージメントを保つためのヒント

  • 経済下降期には、革新的な商品やサービス、会社の社会的責任(CSR:corporate social responsibility)と同様、リーダーシップ、昇進のチャンス、顧客志向が必要不可欠。
  • 厳しい時代には、正直さとオープンドア・ポリシーが最もうまく機能する。また、ダメージを与えるようなうわさの拡がりを抑える役に立つ。
  • 社外の教育訓練や人事異動を通して、社員にスキルや能力を開発するチャンスを与え続けること。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

景気が下降している今こそ、自社の優れた人材のやる気を引き出し続けられるような施策を次々と打ち出すことが重要である、との指摘です。人事に携わる皆様には当然のことと受け取っていただけると思いますが、実際、短期的な財務指標に目を奪われてしまいがちな経営の発想ではつい後回しにされてしまうのかもしれません。

文責:堀 博美

タレントマネジメ
ントコラム 日本エス・エイチ・エルの人事コンサルタントの視点

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