堀 博美のSHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループが配信している「SHL Global Newsletter」やHPから記事をピックアップ、日本語に翻訳してご紹介するものです。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回はSHLグループのプレス・リリースから、エンゲージメント研究の成果の一部をご紹介します。

第29回 社員は『昇進』と『能力開発』の機会に欠けていると認識

社員のエンゲージメントにとって、『昇進』と『能力開発』は重要な要素です。しかし、SHLの研究によると、イギリスの社員はそのどちらも充分に得ていないと感じているようです。
(2009年6月17日 SHLグループ プレス・リリース)

SHLは過去2年間に渡る社員エンゲージメント質問紙で収集されたデータを分析し、社員にとって『好ましい』職務特徴のランキングと『実際の』職務特徴のランキングを整理しました。そして、社員が欠けていると感じている部分を浮き彫りにするため、どこにミスマッチがあるのかを分析しました。

SHLマネジング・コンサルタントのエレン・バードは次のようにコメントしています。「研究は、明らかに社員のエンゲージメントに重要な能力開発とキャリア支援を会社がいまなお提供していないことを示唆しています。会社にとって、これらの不足点への対処に着手すべき時です。優秀な社員が必要なまさにこの時に、彼らを失うようなリスクを冒してはなりません。」

興味深いことに、『昇給』は好ましい職務特徴で9位と、トップテン内ぎりぎりでした。それなのに、『昇給』は希望と実際の間のミスマッチとして2番目に大きい。社員が自分の収入が充分ではないと感じていることを示しており、このことが社員のエンゲージメントにも影響する可能性があります。

研究から、男性と女性の間に興味深い違いがあることもわかりました。例えば、『収入』と『高い水準』は女性よりも男性に重要であり、『公平性』と『価値観』は男性よりも女性に重要です。望ましい社交の量と質でも異なります。女性は『社交の質』を好み、男性は『社交の量』を高く評価します。

年令による違いもあります。『昇進』と『能力開発』の重要性は社員の年令が高くなるに連れて減少します。45才以上の社員にとって、『昇進』は好ましい職務特徴のトップテンに現れさえしません。『社交の質』の重要性も年令が高くなるにつれて減少します。

驚くのは、『価値観』が若い社員にとってさほど重要ではないことです。10位以内に現れません。しかし、45才以上で4位、30〜44才で7位です。同様に、『社会への貢献』は45才以上でトップテン内に現れるだけです。CSR(企業の社会的責任)やその関連問題は、これまで考えられていたほどY世代にとって優先事項ではないようです。

全般的に見て、好ましい職務特徴と実際の職務特徴のミスマッチの大きさは、18〜29才の社員で最大でした。Y世代をエンゲージさせるために、会社がより一層努力する必要があることが伺われます。

バードは続けて次のように述べています。「誰にでも当てはまる万能のエンゲージメントはありません。会社や管理職が全社員に個別に対応することが重要です。我々の研究は、年令グループや性別でどれくらい違うかを浮き彫りにしました。しかし、これらのグループの中でも大きな違いがあります。SHLのエンゲージメント質問紙は、各人を動かすものが何であるかを見つけ出すためのひとつの方法であり、エンゲージメントを増加させる施策を検討する際の参考になります。」

  好ましい職務特徴 トップテン 実際の職務特徴トップテン ミスマッチトップテン
1 能力開発 社会的接触の量 昇進
2 公平性 高い水準 収入
3 高い水準 大きな仕事負荷 成果給
4 昇進 安全 能力開発
5 社会的接触の質 社会的接触の質 キャリアの可動性
6 物的資源 公平性 影響
7 専門性 様々な勤務地
8 価値観 自律性 責任
9 収入 倫理 フィードバック
10 社会的接触の量 ネットワーキング

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

本コラムの第1回や第2回でも紹介したように、『エンゲージメント』とは近年産業心理学の分野でよく取り上げられる概念で、簡単に言えば「自分の仕事に対して活力に満ち完全に打ち込んでいる状態(Hallberg&Schaufeli(2006))」です。まだ新しい概念なので、たとえば意欲とどう違うのかなど、その意味するところや範囲の捉え方については学者や理論によってさまざまなようです。が、『意欲』『コミットメント』などとほぼ同義と捉えても大きな間違いは無いでしょう。(ただ、「エンゲージメントを高めることが意欲を高めることにつながる」といった記述が目に触れることが多いことから、単なる意欲ではなくその上位概念であろうと筆者は理解しています)

希望と実際のミスマッチは意欲の低下を引き起こし、退職につながります。日本でのその種の調査をいくつか調べてみました注。『収入』はどの調査でもほぼトップです。『昇進』はやや順位は落ちますが、『評価の納得性』なども含めて考えるとこれも上位とみなすことができるでしょう。本研究結果と一致しています。

一方、『好ましい職務特徴』や年令差に関連して、比較考察できるような日本の調査結果がないか調べたところ、興味深いデータを見つけました。内閣府が5年ごとに実施している『世界青年意識調査』です。2008年の調査では、日本、韓国、アメリカ、イギリス、フランスの5ヶ国のデータが比較されています。『仕事を選ぶ際に重視すること』という設問で、日本が他の4ヶ国よりも選択率が高いのは『仕事内容(69.3%)』、『職場の雰囲気(58.6%)』、『自分を生かすこと(40.8%)』でした。本文の『能力開発』に関連する項目『能力を高める機会があること』は30.1%と、アメリカ(48.7%)やイギリス(43.8%)をかなり下回っています。また、『仕事の社会的意義』に関してはどの国もさほど高くなく日本も15.6%でしたが、前回の2003年のデータでは9.6%でしたから、この5年間で増加していることがうかがえます。こういうデータから各国の文化や時代の流れについてあれこれ考えをめぐらせるのも楽しいことです。

文責:堀 博美

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