SHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループが季刊で配信している「SHL Global Newsletter」の中から、日本で人事アセスメントに携わる皆様に役立ちそうな記事をご紹介するものです。

第3回はケーススタディをご紹介します。コカ・コーラ社の事例です。(2007年秋号より)

第3回 ケーススタディ:コカ・コーラ

ケーススタディ:コカ・コーラ社
気まぐれな消費者マーケットにおける世界のリーディング・ブランドとして、グローバルな舞台でライバル会社と激しく競い合いながらビジネスを展開する際、重要なのはマーケティングである。コカ・コーラ社はマーケティング担当者の能力を重視している。今後も勝ち続けるために、コカ・コーラ社は人材の戦略的マネジメントに取り組んでいる。

『ディベロップメント・センターを受講した人は皆、非常に満足しています。センターのおかげで、我々は、世界の超一流の人材で構成されるマーケティング・チームを築くことができました。今では、センターが、当社の人材開発手法として公に位置づけられています。適切なスキルをもつ適切な人材を、適切なタイミングで適切な役割につけることができるように。』(コカ・コーラ社グループ人事部長スティーブンス・セントローズ氏)

背景

気まぐれな消費者マーケットにおける世界のリーディング・ブランドとして、グローバルな舞台でライバル会社と激しく競い合いながらビジネスを展開する場合、重要なのはマーケティングである。コカ・コーラ社が存在するのは、そんなダイナミックでチャレンジングな環境である。

コカ・コーラ社は、コカ・コーラ、ファンタ、スプライトなど、ノンアルコール炭酸飲料の分野で世界の上位5ブランド中の4つを販売している。また、ジュースや紅茶、コーヒー、スポーツドリンク、水など、多くの飲料部門でもマーケット・リーダーの立場にある。

肥満の子供たちや砂糖過剰の飲み物についてメディアがさかんにメッセージを発信している昨今、コカ・コーラ社のマーケティング担当者は、新商品か挑戦的な提案かのどちらかですばやく対応しなければならない。そのためには、世界のマーケティング界における超一流の人材が必要とされる。

問題

コカ・コーラ社は社内で人材を育てることに定評がある。「人材開発フォーラム(People Development Forum:PDF)」が枠組みを提供し、それを受けて各チームが日常的に能力開発について議論、何が必要かを見極める。マーケティング職はこれまで、社内で才能を育てる職種の代表例であった。そのため、シニア・マーケッターを任命する時に社外の人材を探さざるを得なくなった時は驚きであった。

コカ・コーラ社グループ人事部長のスティーブンス・セントローズ氏は言う。「当社の独自性はブランドに消費者を取り込むことです。そのためには、マーケティングの才能が重要です。適切な人材がいなければ勝利の方程式を実行することができません。」

そのため、コカ・コーラ社は先駆的なカスタム・メードのプログラムを立ち上げた。マーケティングの新星を見つけることだけが目的ではない。彼らの能力開発を計画し、将来のマーケティング・リーダーになれるような創造的で革新的な人材と強いパイプラインを築き上げ、世界中のシニア職の空位を埋めることのできるようになることが目的である。

解決策

プログラムの開発に当たり、コカ・コーラ社はパートナーとしてSHLを選択した。SHLはコカ・コーラ社の人事担当者やシニア・マーケティング・リーダーと協力して、2日間のディベロップメント・センターを開発した。

高業績マーケッターの観察をもとに、シニア・マーケティング・リーダーとして「理想的な」スキルと行動を定義するコンピテンシーが開発された。参加者の出身による有利不利のない、様々なレベルの現場で国際的に通用するコンピテンシーとなるよう、この作業は世界的背景を念頭に実施された。

その後、8人のマーケッターが選抜され、2日間のパイロット・スタディが実施された。パリで実施されたがメンバーは世界中から参加。候補者の選抜をできるだけ平等かつ代表的なものにできるよう、できるだけ多くの地域から人材を集めて検討することがねらいであった。

プログラムはまた、受講者が世界的規模で同窓会的なネットワークを築くことのできるよう設計された。それによって、イベントの後も引き続き支援し合うことができる。コカ・コーラ社の最上級マーケッターが、SHLの職業心理学者と一緒にオブザーバー・グループを構成しているという事実自体が、会社がこのプログラムに注力していることの証となっている。

プログラムの内容は、将来のマーケティング・リーダーがプレッシャーの下でどのように行動するかを試すよう設計された。1日目はシニア・マーケッターの「実際の一日」をシミュレートした厳しくハードなもの。知的能力やリーダーシップ力を試すような現実の会社の案件が受講者に与えられる。セッションの多くはビデオ撮影もされ、フィードバックの際の材料となったり、受講者が自分を振り返って能力開発の必要な分野を見つけるための参考にされる。

プログラムは、受講者が自分自身の「ブランド」を振り返るセッションでスタートする。そこでは、受講者が、周囲の人が自分をどう見ているかを考え、自分の影響力をうまく管理するために何ができるかを明らかにする。その後、「シニア・マーケティング・リーダーの一日」に移り、受講者は多くの現実的な難問に直面、自分の強みと弱みが明らかにされる。

演習は個別に実施されるだけではない。受講者は周囲とどううまく協力して動けるかを示さなければならない。たとえば、マーケティング戦略会議で、新商品発売をめぐって消費者や収支などクリエイティブな問題を話し合う。オブザーバーは、協働の能力を示す受講者、自分の主張を自信をもって述べる受講者、他者のニーズをきちんとわかっている受講者を見る。

タイミングを見計らって、受講者に重大な危機を招く可能性のある現実的なマネジメント問題が提示される。競合会社の脅威、フランチャイズのひとつで発生した問題への対応、新事業計画の観点からグローバル・マーケティング計画を再検討すること、などである。受講者はその場で緊急かつ創造的で戦略的な解決策を作り出さなければならない。1日目にはまた、受講者がオブザーバーと自分の経歴やリーダーシップ経験について話し合う時間も設けられる。1日を通してオブザーバーは、コカ・コーラ社がそのDNAと呼ぶもの―科学とアートをミックスした企業理念―を示す証拠を探す。

コカ・コーラ社のグローバル・ブランド・マーケティングを担当する副社長マーク・マシュー氏は次のように説明する。「コカ・コーラ社のDNAは、アートと科学の真のバランスです。社員の心、社員の行動の最も核となる部分です。輝く目、燃える心、世界を変えようという信念をもつ人材が欲しい。単に技術的なマーケティング・スキルではなく、リーダーシップ資質を求めているのです。消費者の動向を捉えるためのデータ分析と論理的思考が『科学』、一方、『アート』はブランドへの愛と情熱であり、消費者と感情的に結びついていることです。将来のマーケッターは、コカ・コーラ社のDNAを体現している必要があります。ブランドのアートと科学を表している必要があります。」

プログラムの2日目はがらっと変わって、受講者の自己啓発に焦点が絞られる。午前中はリーダーシップ・ワークショップ。前日のビデオを振り返って、強みと弱みの分野を明らかにする。受講者は、職場の同僚の意見を集約したSHL360度評価ツールや、特定の行動や職場ポテンシャルを指摘するパーソナリティ検査OPQからのフィードバックも受ける。さらには、コカ・コーラ社とSHLのオブザーバーが一緒に実施する、包括的かつ詳細な能力開発コーチング・フィードバック・セッションもある。セッションの終りには、受講者の主な強みと同時にキャリア上の危険因子も明らかにされる。それらの結果、受講者は、自分のキャリア目標を達成するためにやらなければならないことがわかるような「生きた」能力開発計画を作成することができる。

マーケティング担当取締役レベッカ・メシナは述べる。「2日間、受講者を慣れた場所から連れ出し、より上級職になった場合に対処しなければならない問題に直面させて、彼らを観察する。プログラムの鍵は、我々が単に彼らのマーケティング・スキルを評価しているのではなく、潜在的なリーダーシップ行動を見ているということです。」

さらに続ける。「2日間のディベロップメント・センターはハードで、受講者はその極限まで追い込まれ、観察されるわけですが、その報いは充分にあります。自分の強みと弱みがわかり、センター終了後、強い意欲をもって能力開発に取り組もうとします。彼らはまた、自分が将来のリーダーとして選抜されたことをわかっています。そのことと、プログラムにオブザーバーとして参加した現在のリーダーに自分のポテンシャルを示す機会を与えられたことが、彼らのキャリア開発に大きなプラスなのです。」

セントローズ氏は付け加える。「受講者がシニア・マーケッターの仕事に接するだけではありません。オブザーバーにとっても現実場面のシナリオで将来のリーダーの行動を見ることができます。自分の後継者を評価・開発する直接的な機会が与えられたわけです。」

結果

ディベロップメント・センターは非常に成功したため、現在では、世界各国で3〜6ヶ月ごとに実施されている。目指すところは、シニア・マーケティング職について二度と社外の人材プールを探さなければならないような状態にならないことである。

コカ・コーラ社グループ人事部長のスティーブンス・セントローズ氏は言う。「コカ・コーラ社のディベロップメント・センターは、能力開発ツール以上のものです。最高の人材を見分け、彼らに投資する。それによって、会社が競争力を保ち、トップであり続けることができる。マーケティングのトップ・タレントを能力開発して会社に引きとめておくことの重要性を認識している会社はあまりありません。コカ・コーラ社のディベロップメント・センターが目指しているのはまさにそれです。我が社のシニア・マーケッターを支援し、彼らが会社の大きな財産であることを目に見える形で示しているのです。」

「SHLは素晴らしいパートナーです。ディベロップメント・センターに関わった人は皆、満足しています。世界中でその価値は認められ、我々は、世界の超一流の人材で構成されるマーケティング・チームを築くことができました。今では、センターが、当社の人材開発手法として公に位置づけられています。適切なスキルをもつ適切な人材を、適切なタイミングで適切な役割につけることができるように。」

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

マーケティング職の能力開発を優先事項と位置づけ、積極的に取り組んでいるコカ・コーラ社の事例、いかがお感じになったでしょうか。

ディベロップメント・センターとは人事評価・研修の手法の一つです。複数の対象者を一堂に集め、複数の評価者が複数の評価技法を用いて複数の能力を測定します。測定結果を対象者の評価として利用することが主目的の場合アセスメント・センターと呼ばれ、対象者の能力開発や育成を主目的とする場合ディベロップメント・センターと呼ばれます。

また、360度評価も人事評価手法の一つです。通常の人事評価では上司が部下を評価しますが、360度評価では、対象者の上司だけでなく、直属部下や同僚、場合によっては顧客など、対象者の周囲にいる人全てが評価者となります。結果は研修目的で利用されることがほとんどです。(日本SHLの「無尽蔵」が360度評価ツールです)

360度評価について、筆者自身もこれまで様々な場面で実際にこの手法を経験しました。自分の行動が周囲にどう見られているか、どう受けとめられているか、を数字でフィードバックされるという経験には非常にインパクトがあります。周囲にどう見られるかばかり気にしても仕方のない部分はありますが、職場において自分が周囲に何らかの影響を与えていることを考えると、出てきた数字の意味を自分なりにあれこれ思い巡らすことから得られるものはたくさんあります。自分の思い込みに気づき、自分のふるまい方について新たな視点を余儀なくされます。

文責:堀 博美

タレントマネジメ
ントコラム 日本エス・エイチ・エルの人事コンサルタントの視点

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