堀 博美のSHLグローバルニュース

このコーナーは、当社がライセンス契約を結んでいるCEB SHL Talent Measurementがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主に広報誌やユーザー向けネット配信、HPプレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

前回に引き続き、イギリスの国民総選挙結果に関して2016年6月28日に発信されたCEBブログの記事を2回に分けてご紹介します。

第206回 Brexitから派生する人事問題(後編)

Brexitがイギリスの労働法制に何の変化も及ぼさないとしても、この国のビジネスや労働者には大きな影響を与えます。その理由は、ほとんどの経済分析家がBrexitがイギリス経済に、さらにはヨーロッパ経済やグローバル経済にも、大きく有害な影響を与えるだろうと予測しているからです。実際、総選挙直後はマーケットはパニックに陥り、当日のうちに世界で2兆ドルが消えました。ポンドは1985年以降の最低値に落ち、FTSE100指数は急落し、複数の評価会社がイギリスの信用格付けを下げました。

長期的な経済的影響は、特にイギリスの労働市場の観点で、あまりはっきりしません。しかし、ほとんどの専門家は概ね影響はネガティブだろうと思っています。Brexit推進派の政治家は、移民労働者を本来イギリス国民のものであるべき仕事から遠ざける手段であると、イギリス大衆を動かしました。ヨーロッパからの移民を野放しにすることは、賃金を低下させ、失業率をアップさせると、彼らは警告しました。ただ、それが実際に起こっているという証拠はありません。数百万人の外国人労働者を受け入れているにもかかわらず、イギリスの失業率は5.4%です。1990年代から2008年のグローバルな経済危機までの間、移民は徐々に増えていましたが、賃金は着実に上がっていました。それ以降イギリス労働者の賃金が頭打ちになったのは、アメリカや世界の他の諸国と同じ、経済的なトレンドの結果です。実際、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究は、移民はイギリスの雇用や賃金成長にマイナスの影響を与えていない、と結論付けました。

一方、Brexitはちょうどそのような影響をもつと広く予想されています。エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(訳者註:英国経済誌エコノミストの調査部門)は、結果として、2018年までに失業率が6%に上がり、38万件の仕事が失われ、イギリスのGDPは2020年までにベースラインよりも6%下回るだろう、と予測します。英国産業連盟(訳者註:日本の経団連に相当)の失業に関する予測は一層悲惨で、2020年までに通常よりも95万件仕事が減る、と予想しています。賃金に関して、労働組合会議は、Brexitのせいで2030年までに平均的イギリス人の賃金は週あたり38ポンド下がる、と見ています。英国銀行と国際通貨基金はとりわけ、Brexitがイギリス経済を縮小させ、ポンドの価値を下げ、失業率を上げ、賃金を下げ、インフレを起こし、金融市場を不安定にし、投資家と消費者の自信を完全に打ち砕く、と厳しい警告を発しました。総選挙後数日で、これら予測のいくつかはすでに本当になりました。

EUからの離脱はまた、イギリスのスキル・ギャップを深刻化させる可能性があります。イギリスの雇用レベルは高く、企業はすでにテクノロジーやファイナンスなどの分野で職務を埋める高スキルのイギリス人労働者を見つけるのが難しくなっています。これらの企業はそのギャップを埋めるためにヨーロッパの人材に目を向けてきました。彼らから国外の人材プールを取り上げることは、自動的に、それらの職務がイギリス国民のほうへ行く、ということになります。これらの職務を埋めるため、イギリスは教育や労働者の能力開発にしっかりした計画をもって乗り出さなければなりません。その間、経済が苦しくとも、です。

Brexitは特に多国籍企業のイギリス人労働者にとってリスキーです。それら企業の多くはヨーロッパ・マーケットへの入り口としてイギリスにオフィスを開いています。アメリカの企業だけでもイギリスで100万人以上を雇用しており、Brexitがアメリカ経済に与える潜在的な結果がわかります。シティグループは、ロンドンとベルファストで9000人を雇用していますが、そこから移転しなければならないだろうと述べています。JPモルガンは、「今のようにイギリスからヨーロッパ中の顧客にサービスすることができないだろうから」最大4000件の職をカットすると警告しています。マイクロソフトとHPは同じ理由でBrexitに反対しており、グローバルシティとしてのロンドンの地位から特に恩恵を受けている大手広告代理店もそうです。エアバスもまたイギリスでの職と投資をカットしなければならないかもしれないと言っています。

事実、総選挙の前でさえ、Brexitの可能性がすでに経済に影響を与えていました。結果がどうなるかわからないということで、経営者はBrexitによってつぶれかねない決定や計画をすることをためらっていました。ここ数か月、一時雇用は増加していましたが、終身雇用はあまり伸びていません。経営者が雇用者に長期のコミットメントをしたがらないという兆候です。あるリクルーティング会社のCEOは、大手企業は採用を凍結、中小企業は拡張計画を先延ばししている、と報告しています。応募者もまた、新しい職務を探すことにあまり積極的ではありません。

一方、皆が皆、Brexitの経済的影響は非常に厳しいと予測するわけではありませんし、実際に恩恵を受けるであろうビジネスもあります。Brexit支援者による反論は、EU離脱によってイギリスは、英国連邦との貿易策に再度焦点を合わせることで新しいマーケットを開き、ビジネスや政府がイギリス人労働者の能力開発により投資し、縛りのきついEU規制に従うことのコストから中小企業を解き放つことになる、というものです。

しかしながら、圧倒的多数のデータや事実、専門家の意見は、ほとんどの雇用主や雇用者にとっての悪い結果を示しています。

最後に、Brexitが他と無関係に生じているのではないことを念頭に置くことが重要です。Brexitを可能にした政治的風潮が他の大きな政治的変化につながり、ビジネスや雇用者に重大な結果を及ぼすかもしれません。例えば、Brexit推進派の政治家が労働法規は変わらないし、労働者の権利が奪われることはないと主張しても、批評家の中には、Brexitがヨーロッパスタイルの労働規制の反対者に政治的な力を与え、彼らが自分たちが好まない雇用者保護を取り払うことを可能にするだろう、と論じる人もいます。

そのような可能性が雇用主にとって良いのか悪いのかはそれぞれの見方しだいですが、Brexitによって解き放たれた他の政治的傾向は大きなダメージを与えるでしょう。離脱キャンペーンが大衆の反移民の動きを利用していたという点で、Brexitが移民にさらなる制限を課すことにつながり、その結果、一層の人手不足になったり、グローバル企業にとってイギリスでうまく事業を行うことが難しくなったりする可能性があります。たとえそのような制限がなくても、敵対的な社会的政治的風潮がますます強まれば、外国人にとって(そして、移民出身のイギリス人にとっても)イギリスは住んだり働いたりするのに居心地のいい場所ではなくなります。ビジネスにとって、特にダイバーシティや多様性の受け入れを進めようとしているビジネスにとって、マイナスの結果になる可能性があることは明らかです。

Brexitについて考えられるもう一つの可能性は、スコットランドがEUに再加入するためにイギリスからはずれるリスクです。EUからイギリスが離れることが、過去数10年に渡るヨーロッパ統合の流れを反転させるかもしれません。ヨーロッパ統合の動きは国際関係を研究する学者の大多数が大陸の安定と繁栄に大きく貢献してきた(そして、それゆえ、EUは2012年にノーベル平和賞を受賞した)と考えるものです。また、ユーロに懐疑的な政治家がいるのはイギリスだけではなく、最終的に離脱するはイギリスだけではないかもしれません。EUの崩壊は、労働力の流動性や貿易、その他経済的政治的な要素の点で、かなり大きな結果になるでしょう。

上記のことは、Brexitが必ず政治的騒動につながる、と言うものではありません。これらリスクの程度は予測できず、ビジネス全般および特に人事の点でビジネスに及ぼす正確な結果も予測できません。とは言うものの、ビジネスリーダーならよくわかっているように、予測できないことそれ自体がリスクです。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

国民投票後のイギリスの現状、先行きについて、日本ではあまり報道を見なくなりました。しかし、経済のグローバル化はますます急速に進んでいます。遠い国の出来事と見過ごすわけにはいきません。本コラムでも、新しいニュースがありましたらお伝えしていきたいと思っております。

(文責:堀 博美)

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