堀 博美のSHLグローバルニュース

このコーナーは、SHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループの広報誌やユーザー向けネット配信、SHLが属するCEBブログやメディア発信などから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回はハーバード・ビジネス・レビュー2016年9月号からの記事をご紹介します。

第212回 なぜ人は仕事を辞めるのか

想像してください。あなたは会社支給のスマートフォンを見ていて、LinkedInから「これらの会社があなたのような人を探しています!」というメールが届いたとします。あなたは特に仕事を探しているわけではありませんが、いい機会があったらくらいの気持ちです。だから好奇心からリンクをクリックしました。数分後、上司があなたのデスクに近づいてきて、「最近LinkedInをよく使っているようだね。君のキャリアや君がここでどれくらい楽しく仕事をしているかについて少し話をしようか。」と言いました。あらら!

これは気まずい状況で、ジョージ・オーウェルのSF小説に出てくる支配者ビッグ・ブラザーのようなシナリオですが、全く現実離れした話ではありません。従業員の退職は会社にとって非常に高くつきます。労働市場の縮小と協業的仕事の増加のために、多くの業界で優れた従業員を失うことによるコストは上昇しています(チームで行う仕事が増えており、そこに新しいスタッフを埋め込むことはますます難しくなっています)。そこで、会社は、管理職が事前に食い止めることができるよう、どの人が辞めそうかを予測することに力を入れるようになってきました。やり方は、ありふれたオンライン調査から、従業員のソーシャル・メディア活用状況の高度な分析まで様々です。

これらの分析作業から、従業員を退職に追い込むものについての新しい知見が生まれています。一般に人が退職するのは、上司が好きではないから、昇進や自分が成長する機会がなさそうだから、もっといい(そして給与の高い)仕事が提示されたから、などです。これらの理由は長年あまり変わっていません。CEBが実施した新しい調査では、退職の理由だけでなく、退職の時期について分析しています。CEB人事コンサル担当長のブライアン・クロップ氏は次のように述べています。「人に本当に影響を与えるのは、同僚と比べて自分がどうかや、人生のある時点でこうなっていたいという思いと比べて今はどうかという感覚であることがわかりました。人々にこれらの比較をさせるような瞬間に注目すべきです。」

いくつかの発見はあまり驚くものではありません。仕事上の記念日(入社や異動の日)は自然に内省を促し、その日には求職活動がそれぞれ6%と9%、跳ね上がります。しかし、他のデータから、仕事と直接関係ない要素も浮かび上がりました。例えば誕生日です。特に40才や50才になるなど中年期のマイルストーンの誕生日は、自分のキャリアを評価し、結果に不満足であれば行動を起こすきっかけになります(誕生日の直前、求職活動は12%跳ね上がります)。学校の同窓会など同じくらいの人と集まる大きな会合も触媒となり得ます。他の人と比べて自分の進み具合を測る自然な機会です。(同窓会の後、求職活動は16%跳ね上がります。クロップ氏は続けます。「仕事上で起こることだけはないというのが大きな気付きです。新しい仕事を探そうという決断をさせるのは、その人の私的な人生の中で起こることなのです。」

テクノロジーもまた、どの高業績者が退職を考えているのかについての手がかりを与えます。社員が会社のコンピューターや電話を使って転職サイトを見ているかどうか(転職サイトから一方的に送りつけられてくるEメールを開いただけでも)、会社はわかります。調査によれば、これらのことに注意を払っている会社が増えています。社員IDカードのスワイプを記録し、入退室の状況から、その社員が転職のための面接を受けていることを示すようなパターンを見極めることを始めた大手企業もあります。Joberateなどの事務所と契約して、社員が新しい選択肢を探しているのかどうかを見つけるためにその人のソーシャル・メディア活動をモニターする会社もあります(それらの事務所はとりわけ、社員が誰とつながっているのかを見ます)。JoberateのCEOであるマイケル・ベイゲルマン氏は、この新しい科学技術を、どの消費者が借金返済に失敗するかを予測する信用度スコアのやり方と比較します。Joberateを使ってどの社員が退職を考えているか予測しようとする会社はありますが、他に、「退職可能性」スコアの高い部署や地域に焦点を当て、チームビルディングや全般的なエンゲージメントを高める施策を打つことができるようその情報を使う会社もあります。ある大手技術会社は他社から引き抜かれそうな人を対象にそれを使いました。重要な立場の人の退職に間もなく直面する可能性のある会社を明らかにするためにそれを使う投資家もいます。「CIOと営業部長の両方が求職活動しているようならば、どうしたの?と問わざるをえません。」(ベイゲルマン氏)

採用プロセスのアウトソーシング会社であるハドソン・アメリカのCEO、ロリ・ホック氏はJoberateを使っており、その予測情報を重視しています。顧客企業の退職を減らし、また、退職を促しているものにスポットをあてることに役立つからです。「管理職が悪いのか?トレーニングの問題?ある職務の価値を過小評価しているのか?引き金になったのは何かを考え、人材を失う前に問いを発する良い機会となります。」(ホック氏)

クレディ・スイスなどの会社は、退職のリスクがあるとされた従業員に対して、社内リクルーターが電話で社内の空きポジションに注意を向けさせ誘います。2014年、このプログラムによって退職率は1%下がり、300人が異動しました。それらの多くは異動しなかったら退職していた人です。クレディ・スイスは採用・研修コストが75百万ドル〜100百万ドル節減できたと見積もっています。

ある人が転職のオファーを受けるまで待ってその後にそれに対抗するオファーを出すことよりも、先手を取った介入が有効であることは研究者たちが皆同意することです。CEBデータによれば、対抗オファーを受け入れた従業員の50%が12カ月以内に退職しています。「恋愛関係で別れようと決めたのに、パートナーが何かしてくれたためにもうちょっと続けようかと思うようなものです。対抗オファーを受け入れた従業員はすぐにある時点で辞める可能性が非常に高いです。」(クロップ氏)

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

翻訳元記事に関連記事として、Genevieve Graves氏へのインタビューが載っています。彼女は天体物理学を研究していましたが、人材マネジメントの予測分析の会社hiQ Labsに就職したそうです。彼女によれば、研究対象が銀河群から人間に変わっただけで、科学計算や大量データのマネジメントツール、マシン・ラーニングなど、研究に使うテクニックは変わらないそうです。私たちのひとつひとつの行動がデータとして残る現代、解析による予測はどこまで進むのか、すごいものです。

(文責:堀 博美)

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