SHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループのネット配信「SHL Newsletter」や広報誌「Newsline」、HPから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回は前回の続き、「オン・ボーディング(on-boarding)」に関する記事の後半、実務上のヒントについてです。

第62回 組織の成長のためのオン・ボーディング(2)−実務上のヒント

オン・ボーディングのプロセスは、社員のライフサイクルの多くのステージに関わります。社員ライフサイクルの重要ステージそれぞれについて、貴社のオン・ボーディング・プロセスのための実務上のヒントをまとめました。貴社の新規社員が戦力化するスピードを速め、彼らのエンゲージメントを急速に進展させる助けになればと思います。

  • 貴社には、会社のブランディング戦略がありますか?
    • それをどううまく使えば、社員に会社からの期待や文化を意識させるようにできると思いますか?
    • 母集団形成の早い段階で会社の文化や価値観を強く意識させるよう、リアリスティック・ジョブ・プレビュー(良い点だけでなく悪い点も含めたリアルな情報提供)を用いていますか?
  • 貴社には、会社のバーチャルな人格に積極的に貢献するような戦略がありますか?
    • Web 2.0*やソーシャル・メディア(SNSやTwitterなど)が会社ブランドに与える影響を考えていますか?

    * 訳者註:Web2.0−2004年ごろから登場し始めた新しい発想のWeb。 そこでは情報の送り手と受け手が固定化されていない。

  • 貴社と応募者の間でやり取りをするポイントを綿密に計画していますか?
    • 貴社と応募者の間で直接のコミュニケーションをとるポイントを明らかにしていますか?
    • それらのポイントそれぞれにおける貴社の採用チームの対処方法は、貴社がその会社ブランドどおりであると応募者が実感できるようなものになっていますか? この「第一印象」形成段階でのまずいやり取りは、オン・ボーディングの後の段階で取り戻すことが非常に難しいものです。
  • 貴社の選抜プロセスには価値観の評価が含まれていますか?
    • 採用者が貴社の価値観に沿った傾向を持っているようにすることが定着率を高めます。そうすることで、半年後に「彼らはただうちに合わなかったのだ」という話になることが避けられます。
    • 貴社の価値観によく合った人材を選抜することはまた、彼らが仕事に打ち込んで貢献し始めるようになるまでの時間を低減します。
  • 貴社では目的に適った評価手法を使っていますか?
    • 評価手法はオンラインで簡単に実施できる、受検者に対してフレンドリーなものですか? 練習の機会は充分に与えられていますか? 選抜プロセスが、採用される可能性のある人にとって不必要に官僚的であったり厄介であったりすることのないようにすることが重要です。新規社員にこの時点で悪い印象が形成されると、エンゲージメントを得るのにより長い時間がかかります。
    • 選抜の評価結果について、応募者にフィードバックしていますか? その職務や会社という背景の中での本人の強みと弱みについてのあなたの意見を彼らと共有すれば、彼らのエンゲージメントは高まり、仕事ができるようになるまでの期間が短くなります。
  • 選抜の決定が下された後、働き始めるまでの間、内定者のエンゲージメントを保つような策を積極的に実施していますか?
    • Web 2.0アプリケーションの力を利用して、内定者コミュニティを作ります。バーチャル・ゲームやTwitter、YouTube、Facebook、会社ブログなどが利用できます。
    • 社内コミュニケーションに内定者を含めたり、会社のイベントに内定者を招待したりすることを始めます。
  • ここまでで、あなたの仕事は半分終わっていますか?
    • 導入の日にオン・ボーディングが始まる場合があります。致命的な間違いです! ここまで述べたような活動のいくつかを実施していれば、すでに新規社員の定着率は向上し、オン・ボーディングが成功する確率は高まっています。
    • 新規社員の事務管理を最小限にするようなテクノロジーは当たり前のことです。優れた人事制度は混乱を最小限にしますが、それが新規社員を誘導すると期待してはいけません。テクノロジーは「衛生要因」であり、問題を回避するために必要なものですが、それ自体が社員のエンゲージメントを高めるものではありません。
  • 正式の導入セッションを企画する際、以下の点を検討します。
    • 会社の戦略や、それとその日に入社する各人がどうつながっているかについて共有します。このレベルの明確さを新規社員に提示することが、自分が会社に合っていると感じ始めることに役立ちます。
    • 社員が理解しやすいような形で、会社の文化や価値観、ビジョンの概要を説明する資料を用意します。
    • 「うちではこういうやり方をする」的な話を共有します。新規社員はこれらの話から会社の「ソーシャル・ノルム」(表1参照)や文化についての貴重な手がかりを拾い上げることができます。

      表1

    • 顧客満足度調査の結果を材料として取り上げ、どのようにすれば会社が顧客満足度を向上させることができるかに焦点付けさせます。
    • 最新の社員エンゲージメント調査の結果を材料として取り上げ、この会社で働くことの良い点や、現在改善中である点などの現実がわかるようにします。
    • 様々な部署からスピーカーを招き、それぞれのチームが会社にどう当てはまっているかについて話してもらいます。
    • インフォーマルな社内活動を紹介する時間を設けます。新規社員が参加できるようなスポーツチームやグループ活動、ネットワークを紹介します。
    • 情報過多にならないようにします。関連のないプロセスや文書できちんと説明できるようなプロセスを新規社員に叩き込んではいけません。情報は、可能な限り、必要に応じてオンラインで自分で簡単にアクセスできるようなところに提示します。第3週まで必要ない情報を初日に投げるようなことはないようにします。
    • 導入セッションの実施に上級幹部のサポートをもらいます。不安でいっぱいの若い人事担当者に第一印象形成を全て任せてしまわないようにします。
    • グループごとにセッション内容を工夫します。新規社員それぞれのニーズに合わせてちょっとした変更がされたことは本人の記憶に残り、歓迎されているという強い肯定的な印象をもたらします。
    • 新規社員が尋ねた質問をフォローし、グループの中で情報を共有するネットワークを築きます。
  • その仕事における成功とはどんなものかについて、早い段階で明確なイメージを設定していますか?
    • 最初の1ヶ月で達成すべき目標を明確に掲げ、定期的なミーティングでそれらをレビューします。
    • 最初の半年間に焦点を当てた、より長い業務目標を設定します。
    • 上司と本人がどれくらい頻繁にミーティングを持つかについて明確なイメージを設定します。たとえば、最初の月には4回、その後は3ヶ月に8回、フォーマルなミーティングを持つ、などです。
  • その人が「新規社員」であるという点を、あなたが自分の業務目標の中で認識していますか?
    • あなたの業務計画の中に、新規社員の「ソーシャライゼーション目標」(表2参照)を組み込みます。これはあらゆる階層で重要ですが、特に管理職について重要です。人にうまく影響を与えてリードしていくことが職務の成功に致命的だからです。

      表2

  • 最初の数週間、計画的な能力開発支援を提供していますか?
    • どの点を能力開発しなければならないかを告げるのに、最初の業績レビューの日まで待っていてはいけません。
  • 選抜プロセスについてフィードバックしましたか?
    • 導入プロセスの早い段階で選抜プロセスや実施されたアセスメント結果についてフィードバックすることがよいやり方です。そのことによって以下の点についての話が弾みます。
      • なぜ彼/彼女が採用されたか
      • 新しい役割での彼/彼女の強みと思われる点
      • それは、評価プロセスや評価手法からどのようにしてわかったか
      • 彼/彼女に達成してもらいたいこと
      • そこで彼/彼女の強みがどう役立つか
      • 新しい役割での彼/彼女の能力開発分野
      • 自分の能力開発ニーズについて本人はどう見ているか
      • ギャップを埋めるためにあなたがどんな支援をするか
      • 能力開発を支援するために、どんなリソース(人やもの)が利用できるか
  • 選抜段階での評価結果を用いて、能力開発計画をどのように立てるかのヒントを与えましたか?
    • 選抜で使われた評価が、新規社員の好む学習スタイルを把握するために利用できることがあります。例えば、SHLのOPQから出力される「学習効果を最大化するためのレポート」は、新規社員の好みの学習スタイルに沿った能力開発計画の立て方についての情報を提示します。
    • 採用時の評価で欠けていたコンピテンシーを明らかにし、それに関連する能力開発計画を設定します。
  • メンターを任命しましたか?
    • オン・ボーディング・プロセスの早い段階でメンターをつけると、能力開発のスピードは速まります。
  • 何が本人を意欲づけるか、理解していますか? どのようにすれば彼らのエンゲージメントを向上させられるか、探り当てましたか?
    • マクロのエンゲージメント調査が役に立つのは、チームや部署のレベルでのエンゲージメント向上施策の策定だけです。オン・ボーディングの観点からは、ミクロのエンゲージメントに焦点を合わせるほうがより有益です。つまり、個人のレベルで、新規社員を動機付けるものは何かを理解し、本人と協力しながら仕事環境をそれらの動機付け要因と合致させる必要があります。MQなどの意欲検査を用い、新規社員が成功に向かってやる気になるような環境を作るために、あなたが何ができるかを理解します。
  • 能力開発計画の見直しを予定に組み込んでいますか?
    • 職務や新規社員のスキルレベル、動機付け要因は、全て時間と共に変化します。これらの全要因を考慮に含めるために、能力開発計画は柔軟なものでなければなりません。
  • 進捗状況を追跡していますか?
    • 能力開発の進捗レビューを測定ツールで補強します。例えば、半年後と一年後に360度ツールを用い、能力開発計画に照らしての進捗状況の目安とします。継続的な能力開発は現在の能力レベルを確保するだけでなく、社員のエンゲージメントの維持に大いに効果があります。

オン・ボーディングは業績に顕著に貢献できる重要な人事プロセスのひとつです。戦略や目的がほとんどない状態で実行されれば、新規社員は入社についての自分の決心を疑問に思い、仕事ができるようになるまでの期間が長引くことになります。プロセスがまずいと、新規社員は会社にエンゲージするよりもむしろ会社とちぐはぐに感じ、退職することになりかねません。

しっかり考えてうまく実施すれば、貴社のオン・ボーディング戦略は、社員のエンゲージメントにプラスの影響を与え、定着率を高め、仕事ができるようになるまでの期間を減らし、会社の利益を向上させます。

  • オン・ボーディングは導入日のはるか以前に始まり、社員の能力開発の初期段階にまで渡るプロセスです。
  • オン・ボーディングは、新規採用の書類仕事などをさっと行う以上の、より深い、より意味のあるものです。当然のことながら、オン・ボーディングが社員のエンゲージメントに貢献していないならば、それは機能していないということです。
  • オン・ボーディング戦略の成功は事業業績に関連します。オン・ボーディングがうまくいっていれば、退職率は下がり、新規社員が仕事をできるようになるまでのスピードが増し、結果として、顧客満足度と利益率が向上します。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

オン・ボーディングについてのやや長いSHL白書を2回にわたってご紹介しました。

近年、人材のダイバーシティというテーマが注目されています。パーソナリティや仕事スタイル、さらには文化的背景など、様々な人材がいるほうがよい、という考え方です。企業社会における女性などマイノリティ保護の観点からは確かにそうですが、企業業績にプラスの貢献をするためには、企業理念、価値観の共有が大前提です。仕事を進めていく上で何を大切に考えるか、という部分を全員が共有していないと、単なる烏合の衆です。チーム理論では、個性はいろいろ、価値観は統一、というチームが最も高い成果を収めると言われています。

組織に新しい人材を導入する際のヒントとして、今回の記事はお役に立ちましたでしょうか?

文責:堀 博美

タレントマネジメ
ントコラム 日本エス・エイチ・エルの人事コンサルタントの視点

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