堀 博美のSHLグローバルニュース

このコーナーは、イギリスのSHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループのネット配信「SHL Newsletter」や広報誌「Newsline」、HPから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。

今回と次回、Newsletterの特集「オン・ボーディング(on-boarding)」について2回に分けて取り上げます。

「on board」とは船や飛行機に乗っている状態です。つまり、オン・ボーディングとは、会社を乗り物に例え、新しい乗組員(=新規社員)を迅速かつスムーズに機能させるためのプロセスです。

第61回 組織の成長のためのオン・ボーディング

新しく入社した社員は全員、会社に貢献するために自分のスキルをどう活用するかを学ぶ間、「一時的な無能」の期間を経験します。SHLの研究によれば、新規社員がその能力をフルに発揮するには6〜10ヶ月かかります。

新規社員に早く成果を上げてもらい、高いエンゲージメントを持ってもらうには、効果的なオン・ボーディング・プログラムが極めて重要です。優れたオン・ボーディング・プログラムは入社初日に始まるものではないことを覚えておいてください。そもそもの母集団形成、選抜、導入から、業績管理や教育研修までの社員のライフサイクル全体に渡っての継続的なプロセスなのです。

景気予想の好転に伴い、新規採用が増えています。

  • 最新のアバディーン社グローバル調査によれば、48%の企業が2010年に増員予定と回答。
  • オーストラリアで、2010年1月の求人数は月間増加量として2006年12月以降で最大。失業率は2009年2月以降で最低レベルであった。

新規採用の伸びは結果として、職場における一時的無能レベルの増加につながります。SHL
調査によれば、新規採用者が仕事ができるようになるには6〜10ヶ月かかります。その間彼らに支払われる給与額も考慮に入れるとそのコストは膨大です。

最近オン・ボーディングが注目されている背景には、求人数の伸びに加え、顧客行動の変化があります。不況によって顧客はあまり金を使わなくなり、かつ、使った金額に対してより大きな顧客サービスや価値を期待するようになりました。会社はブランディングに大きな投資をしますが、宣伝が現実と異なることは即、顧客の信頼を裏切ることになります。顧客のロイヤルティーが失われ、売上は落ちます。

先駆的な会社は以下のような試みをしています。

  • 「リアリスティック・ジョブ・プレビュー」を用い、応募の前の段階で、優れた顧客サービスが期待されていることを対象者に知らせる。
  • パーソナリティ検査を使って、選抜プロセスで顧客志向の強さを評価する。
  • その後のオン・ボーディング・プロセスで、会社の顧客サービスに関する強い価値観を染み込ませる。

確かに、適切なスキルと経験を持つ人が必要です。しかし、仕事ができるようになるまでの時間を減らすために、スキルと経験だけでなく、以下のような傾向をもつ人材を確保し、オン・ボードし、能力開発しなければなりません。

  • 会社の価値観を受け入れる
  • 会社の戦略に沿っている
  • 会社の顧客サービスに関する理念の唱道者となる
  • 会社の風土と意思決定のプロセスを理解する

管理職レベルでは、文書化されない多くの「社内規範」の素早い把握も非常に重要です。なぜならば、成功するかどうかは、正しい決定を下す能力を持っているだけでなく、プロセスの中で誰に相談するかやどのように周囲に影響を与えて賛同や支援を得て実行するかにかかっているからです。

我々の定義は以下のとおりです。
『オン・ボーディングとは、組織という迷路に新しい人材をつれてきて、生産性とエンゲージメントの高い状態まで迅速に導く、戦略的手段である。』

効果的なオン・ボーディングのプロセスは新規社員の力を会社の事業目標に沿わせ、目標達成に貢献するよう鼓舞し、会社や自分の入社決定を強化するようなものでなければなりません。それは継続的なプロセスであり、社員のライフサイクル(母集団形成、選抜、導入、職務遂行、教育研修)の中に組み込まれるものです。

オン・ボーディングは、採用プロセスの母集団形成の段階における、会社ブランディングについての対象者の経験からスタートします。その会社の商品やサービスについての個人的な経験に影響されていることもあります。

最終段階は人によって違います。明らかなことは、オン・ボーディングは、入社初日、その人がハンドブックを手に、新しい情報で頭が爆発しそうな状態で、おそらく自分は正しい決断を下したのかなあと考えながら帰宅した時に終わるものではないということです。オン・ボーディングはその社員が会社にはまり、生産的になるまでの間ずっと続きます。その人や上司、同僚、人事部門やその他の人々の努力が合わさって、その人が入社初日のような状態から有能な社員に変身するまで終わりません。

SHLグローバル調査プロジェクトで、「平均的な社員がその仕事ができるようになるまでにどれくらいかかりますか?」という質問をしました。

7ヶ国の回答の平均は以下のとおりでした。

  • スウェーデン 10.1ヶ月
  • オランダ   9.1ヶ月
  • アメリカ  7.8ヶ月
  • オーストラリアとイギリス  7ヶ月
  • 香港   6.7ヶ月
  • インド  6.6ヶ月

この期間を短くできれば、会社の利益に大きく貢献できます。評価やフィードバック、能力開発を組み込んだ、うまく構成されたオン・ボーディング・プログラムは、仕事ができるようになるまでの時間を大きく低減できます。

あなたの会社で、新しい営業マンが仕事ができるようになるまでの期間を1ヶ月減らすことができたら、どれほど利益が上がるでしょうか?

同じ調査プロジェクトで次のような質問もしました。「あなたが管理している人々全員を考えてください。仕事ができるようになる前にどうにもならず辞めてしまうのは何%くらいですか?」

答えの平均は次のとおりでした。

  • 香港      25%
  • オランダ    18%
  • インド     17%
  • オーストラリア 14%
  • アメリカ    13%
  • イギリス    12%
  • スウェーデン   8%

中途半端なオン・ボーディングは新規採用者がそのまま辞めていってしまうことにつながります。その場合、採用プロセスを再度繰り返さなければなりません。学んだレッスンを考慮に入れることが鍵です。

効率的で費用対効果の非常に高い採用プロセスをすでに持っていない限り、あなたの会社は採用のたびにお金を垂れ流ししてしまうことになるでしょう。さらに、多くの会社は自社の既存プロセスが生産性とコミットメントの高いやる気にあふれた社員を生み出すと楽観的に考えているため、再採用のコストを予算に組み込んでいません。

500人規模の会社で離職率が15%から20%に上がると、予算外のコストが約100万ポンド(約1億3000万円)かかります。これらは、しっかりした戦略的なオン・ボーディング・プログラムによって最小限に抑えられるコストです。

構造化された評価と能力開発プログラムを組み込んだオン・ボーディング・プログラムは、社員が仕事ができるようになるまでのスピードを速め、会社に長く在籍する可能性を大きく高めます。

あなたの会社で有能な管理職の在籍率を5%高めることができたら、どれほど利益が上がるでしょうか?

社員のエンゲージメントの投資収益(ROI)は議論の余地のないものです。効果的なオン・ボーディングは社員エンゲージメントの次の2つの重要な側面に貢献します。

  • アラインメント:どれくらい素早く、かつ、どれくらい効果的に、新規社員が自分が会社の方向性に沿っていると感じるか。
  • 吸収:職務の日常活動にどれくらい素早くうまくなじむか。

早い段階で社員ひとりひとりに所属感を身に染み込ませる際、オン・ボーディング・プロセスが重要な役割を果たします。自分がどのように付加価値をもたらし、ビジネスにとって貴重な存在になれるかについて、各人が明確な洞察を得ることができます。その結果、エンゲージメントが生まれます。

あなたが非常に関心を持つ商品の広告を見て店に行ったのに、ほとんど教育されてなく、商品知識を持っていなく、明らかに仕事に打ち込んでいない店員に迎えられたと想像してください。それでもあなたは購入したいですか?

会社は客に商品を買わせようと何百万円もの広告宣伝費を使いますが、購入決定の最終段階に最小限のお金しか使っていないように思われます。収益確保には優れた顧客サービスが不可欠です。

顧客のロイヤリティを推進する有意義な対策を採っている会社の利益率は、そうでない会社よりも88%高いです。選抜の段階で候補者が優れた顧客サービスを行う傾向があることを確認し、オン・ボーディング・プロセスで会社の顧客サービスの姿勢の浸透・強化を確保することで、購入してくれる顧客を失わないようにできるでしょう。

(© SHL. Translated by the kind permission of SHL Group Ltd. All rights reserved)

訳者コメント

経験とスキルを持つ人材を即戦力として中途採用する場合、その会社の風土や価値観、理念との適合性が重要なテーマになります。

内輪の話になり大変恐縮ですが、当社も10月に2名の中途採用者を迎えました。両名とも非常に異色の経歴を持ち、今後の活躍が楽しみな人材です。そのことも私の頭にあってこの記事が目に留まりました。

今回はオン・ボーディングの重要性、財務面でのメリットについてでした。次回は、本題、社員のライフサイクル各段階での実務上のヒントです。

文責:堀 博美

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