人事部長からの質問

2003/06/12 35

職場環境の改善についてご意見を。

何事もひとつだけの効用でうまくゆくことはありません。人、仕事、環境は形影あいたずさえて姿を変えてゆくものです。徂徠の弁明だか弁道だかに、事は言(こと)を載せて動く、という表現があったと思いますが、まさにそのとおりで、人(の意識と行動)が変容することにともなって、仕事の(仕方=目標や方法)がかわり、それを受けてハードウエアである職場環境が変容を迫られるものです。よい例が携帯電話です。いつでもどこでも電話できるのであれば、机の上に電話を設置しておくのは無駄であります。またモバイル端末を各人がもつのであれば、事務所そのものの存在理由が弱くなってゆきます。アメリカの著名な理論物理学者のフリーマン・ダイソンさんが予言しているように、未来の生命は物理化学的なメカニズムを持たない「透明な意識」だけになるかもしれません。そのときはオフィスも透明になると思うのです。

文責:清水 佑三

2003/06/11 34

会社を休職して社会人大学院コースに行きたいと言ってきたが。

休職というのが気になります。会社の金でアメリカの大学へ留学し、MBAを取得して戻ってきて、すぐ退職してしまったという事例がたくさんあるからです。不適切な表現かも知れませんが、恩を仇で返す、が日常茶飯な世の中なのです。利用されるような甘い考え方をもつ方がバカなのだといわれているようなものです。個人と組織の信頼関係という言葉はすでに死語であります。いいとこどり(あらゆる選択肢を残しておく)は人のもつ強い傾向性です。それに惑わされないように、一旦退職して、しかるのちに(資格取得を評価した条件下での)復職、がよいと思います。

文責:清水 佑三

2003/06/10 33

適性テストを全社員にやらせたい、という声が人事部内に出ているが。

目的によって適否が分かれます。本人の自己理解を促し、キャリアカウンセリングをより実効あらしめるために行う、の場合は○です。適性テストの結果によって能力を予測し、評価や処遇等の参考資料にしたい、の場合は×です。その理由は適性テストの以下の限界性にあります。(1)自己申告である(思い込みが入る)(2)スナップショットである(誤差がありうる)(3)スタイルを見るものでパワー(能力)を見るには適さない、などです。全社員測定の効用は、このデータに個人別業績データを加えて「妥当性分析」にかけるところにあると思います。非常に安い費用でしかも短期間に「職務適性」を抽出できます。

文責:清水 佑三

2003/06/09 32

「インセンティブ」と「ペナルティ」とどっちが有効だと考えますか?

当社内でのある部署での実験結果があります。一定の成果をあげたら報奨金**円を貰える、という制度のもとでの部署全体の達成と、ある成果に届かなかったらペナルティとして**を課す、という制度のもとでの達成を比較したのです。後者の成果が圧倒的に前者を凌いだのです。このことは、社会心理学でいう「リスク回避(ペナルティを避ける)行動がチャレンジング(何かに挑戦する)行動に優先する」という理論と一致します。この実験を通して、強くなりたい軍隊、営業部、運動部が「体罰」を多用することは、ある意味で理にかなっている、ことがよくわかりました。

文責:清水 佑三

2003/06/06 31

欲がない管理職に欲を持たせる方法を教えてください。

難しいご質問ですね。徂徠が大昔に嘆いていたことを思い出します。「世界の家筋極まりたる世なれば、今はお旗本の平さむらいさえ、家筋堅く守り、ただ我と同格なるお旗本へ養子に行かんとのみに心がけ、与力・御勘定・御祐筆などになるべきこと思いもよらず」と嘆いていました。(『政談』)。お旗本(管理職)が「おいしい場所」になっているからでしょうね。おいしい、という意味は何もしなくても「安定した高い地位と収入」が保障されているという意味です。イチローや松井が頑張るのは、やればやっただけみんなに注目されるからです。「カッコイイ」といわれ、ものすごい報酬を手にできるとなれば、目の色を変えるのが人の人たる所以です。「管理職」の上の場所をそのように演出すればよいのです。そうすれば、管理職が欲をもってもっと上を意識して目の色を変えるようになります。

文責:清水 佑三