人事部長からの質問

2003/07/25 65

「法令遵守」と「利益創出」とは矛盾しないか?

法令とは三六協定(労働基準法第36条)のことをいっておられる、と推察します。三六協定を文字どおり守っていたら(会社の)利益は出ないのではないか、というふうに(ご質問の意味を)解釈します。本音での回答は、イエスであります。江副浩正(社長)時代のリクルート社などが典型だと思いますが、いつも真夜中まで社屋の灯りが煌煌とついていました。仕事熱心な社員を採用、教育し、深夜まで働くのは当たり前とされる社風、文化を江副さんが創ったのだと思います。社員が2倍、3倍いるのと同じです。リクルート社の高利益体質と奉仕精神に溢れた仕事熱心の社員を多くもつこととは必ずしも同義ではないと思いますが、地下水脈ではつながっている、とみます。本論にもどり、質問への回答ですが、仕事がわからない新人が試行錯誤するために結果として残業時間が多くなることと、工場がフル稼働に入って残業時間が多くなることは本質的に異なります。法令遵守の名のもとに、前者の残業時間に対して賃金を用意する会社は利益創出は覚束ないと私はみています。国家として創出利益に対して税を徴収する考え方をとるのであれば、法の精神そのものを再構築しないと国家としての税収不足はより恒常化し、国際競争力は衰微してゆきます。

文責:清水 佑三

2003/07/24 64

風土改革はやろうと思ってできることなのか。

カルロス・ゴーンさんがやったのは風土改革です。負け組に入ってしまった社内風土を勝ち組に入れるべく荒療治をしました。もともと日産には優れた技術、人があるとみて、風土改革さえできれば生まれ変わる、と信じたのだと思います。やればできる、の具体的な事例です。ところで、論語に「三軍可奪帥也 匹夫不可奪志也 三軍の帥は奪うべきなり。匹夫の志は奪うべからざるなり」があります。帥とはトップのことです。匹夫とは現場の兵のことです。孔子の主張は、トップはとっかえることができるが、現場の兵の気持ちはいじれない、です。トップを変えて現場の兵の魂の共感、響応をえて怒涛の進軍をするのが風土改革の意味あいです。匹夫の志を味方につけられるかどうかで風土改革の成否は決まります。ちなみにいえば、私が会社を興そうと思った動機は、「まじめに仕事をする風土をつくれば会社は繁栄する」という仮説の正しさを実証したい、でした。日本エス・エイチ・エルが繁栄しているかどうかは議論の分かれるところですが、風土改革はやろうと思えばできる、が背後の確信にあります。

文責:清水 佑三

2003/07/23 63

当社はコンサルタント会社を入れたがらない風土があるが。

私にもそういう価値観があるので、ご指摘の気持ちはよくわかります。どうしてそうなのか、医療の世界に比喩を求めてみます。病院ぎらいの人に共通するのは、医療に従事する人たちに対する不信感です。医療過誤で殺されるよりは、自然の寿命で死んだほうがずっとマシだと思うのです。コンサルタント会社を入れてもひとつもよくならない経験を重ねれば誰だって「何がソリューションズだ」と思うものです。ごくごく自然な成り行きだと思います。一方、**と鋏は使いよう、という諺もあります。「コンサルタントが問題解決してくれるに違いない」と期待するから裏切られるのです。自分でいうと角がたつが、外部の人がいうと角が立たない、という原理を使えばよいのです。外圧的に活用すればいいと思います。日本政府がよく使っている手です。この役員とこの役員は適格性がないと、根拠を添えて指摘してくれるHRコンサルタントがいたとします。その言い分が仮に自分の考えと同じであれば、そのコンサルタントを使わない手はないと思います。

文責:清水 佑三

2003/07/22 62

上位者の任命にアセスメントを活用する企業が出始めているが。

トップの戦略センスが優れていると仮定します。問題は「笛吹けど踊らず」です。トップの意思を執行する上位者の任命が鍵となります。推薦、合議というプロセスしかないと思いますが、候補者が玉石混交の中で合議するのと、選りすぐった候補者集団の中で合議するのとでは結果はまったく違ってきます。候補者集団を形成する上でアセスメントは欠かせない、とみています。イギリスの人事コンサルタントであるビル・メイビー氏は著書の中で、アセスメントの役割を「ロール・プレー演習を限りなく現実に近づけてゆくことで、候補者が何を求められているか、理解できる。それによって、候補者が自分で自分の適否を判断して、(自ら)辞退するなどの自己選抜が(心理内部において)促進される可能性がある」と書いています。ソニーの大賀典雄さんが経験されたような13時間の株主総会の議長役をロール・プレーで再現するわけです。社長業は俺には向かない、と思う人が出てくる、というのです。私は選別されなかった時の本人の(心理内部においての)納得性が得られる、という点で上位者の任命に(優れた)アセスメントを活用すべきだと考えています。

文責:清水 佑三

2003/07/18 61

(優秀な)常務にセクハラの噂が絶えない。どう考えるべきか。

自民党の前官房長官中川秀直氏は優秀さにおいては誰もが認める人です。スキャンダルが指摘されて、要職を辞しています。一方、同党の現幹事長山崎拓氏は、スキャンダルが指摘されているにも関わらず、党役員を辞す構えはありません。この違いについてよく考えます。一つは、行政府の長(官房長官)と政党の長(幹事長)の違いがあります。行政府の長は国家公務員ですが、政党の長はそうではありません。二つに、スキャンダルの内容です。中川氏の場合は、女性問題のほか、薬物疑惑などがありました。かりに噂がそのとおりであったとすれば違法行為です。一方、山崎氏の場合は、公務出張への愛人同伴など灰色的な部分もありますが、本人がいうように「法律は犯していない」側面があります。三つはお二人の姿勢の問題です。辞任要求に対して断固たる姿勢を崩さない山崎氏とそうでない中川氏とでは、任命権をもつ総理総裁はじめ同僚の心象も変わってきます。参考になりますでしょうか。

文責:清水 佑三