人事部長からの質問

2003/08/01 70

委員会等設置会社について本質を要約してほしい。

今年の6月の時点で申し上げれば、この統治形態への移行を決断した上場会社は36社です。代表的な会社としてソニーをあげてよいでしょう。ソニーを含めて、日立、東芝、三菱電機といった「電機関連」が目立っているように思います。マスコミの関心は、この形態をとらずに従来の監査役制度を維持しつつ、監督と執行の分離問題に挑戦したトヨタの考え方に集まりました。そこに日本型統治の一つのモデルをみたわけです。(この項目は別項『新聞記事解説』でコメント)。委員会等設置会社についての本質ということですが、要は会社を特定の個人に私物化させないための装置だと(私は)みています。第二次世界大戦で勝利したチャーチル、ドゴールはいずれも選挙に負けて政権を退きました。国家を救った個人であっても特別視しない、が民主主義のルールです。選挙メカニズムによる統治者の交代が委員会の役割そのものです。ソニー、日立、東芝等において、チャーチルやドゴールのようなカリスマ指導者が(委員会制度が機能して)退くような場面があれば、この統治形態が本当に日本に根づいたといえるでしょう。

文責:清水 佑三

2003/07/31 69

ネット掲示板での告発問題をどう考えたらよいか。

記憶に残っている事例は、やはり東芝クレーマー事件でしょう。今から3年前だったと思いますが、東芝のVTR購入者が、その欠陥をホームページ上で指摘し、その後、泥沼化して社会的事件になりました。結果的には東芝側が謝罪して落着しましたが、ネットでの告発の怖さを満天下に知らしめた事件です。同じ年に警視庁も「悪徳警察官撲滅委員会」を名乗る男性から、傷害事件での損害賠償訴訟の請求をホームページ上で受け、ニュースになったことがあります。前者の対応が後手後手となったのに比べて後者の場合は、警視庁が逃げずに、自分のホームページを使って、事実をありのままに伝え、しかも早い段階で、その男性と話し合ってことを収めました。この二つの事例をよく勉強されるとよいでしょう。特に、会社首脳部個人に対してネット上でなされる告発問題は微妙です。書き込む相手が社員である場合は、攻撃側のほうが守備側よりも個別的な情報が多く、これでもかこれでもかとネタが出てくるものです。その手の攻撃にあいやすい人を(やり手という理由だけで)首脳部に登用しない、が唯一の防衛策だと思います。これは人事部長の大事なミッションであります。

文責:清水 佑三

2003/07/30 68

部長とは身分なりや、役割なりや?

プロ野球の監督は明らかに役割であって身分ではありません。その理由は成績不振となるとただちに解任されるからです。横浜ベイスターズの山下大輔監督については、どうして解任されないのか不思議でしようがないです。横浜の市民文化が勝ち負けに拘らない鷹揚さがあるからなのか。監督登用に長い時間をかけてきたので、監督から外すのにもそれと同じ時間がかかるのか判然としません。それはともかく、(ほとんどの)会社における部長は役割ではなく、身分でしょうね。部長は課長よりも広くて便利な社宅に住める、海外出張のときにビジネスクラスが使える、はそれが身分制度であることの証拠です。椅子が立派になってゆくのも同じです。成果主義とは、実は、部長を身分として考えるのではなく、部長権限を行使して一定以上の成果をあげる「明確な役割」として定義しなおすことにほかなりません。生え抜きエリートの山下大輔といえども、ファンの期待を裏切る采配を振るったら、辞めてもらう、が役割論による処遇です。そんなことすぐできねえよ、と球団首脳が思っているとしたら、それが横浜ベイスターズが弱い本当の理由です。

文責:清水 佑三

2003/07/29 67

社外取締役制度の本質が知りたい。

「文民統制」という言葉があります。軍人に対して、非軍人が指揮・統治するという考えかたです。日本国憲法第66条にその原則が明確にうたわれています。この「文民統制」が社外取締役制度の立法精神です。率直に申し上げますが、私は「文民統制」という考え方がよくわからず、長い間、考え続けてきました。軍事のことを知らない人が軍事のことを知っている人を指揮するって本当にありうるのだろうか、という疑問です。営業のことを知らない人が営業部のことに嘴を挟むのと同じです。やがて、法曹の世界における陪審制度に思い至りました。法律を知らない市民のほうが、法律を知っている裁判官よりも、よりよく裁くことができる、という仮定が陪審制度の根底にあります。このことは、法は誰のものか、という問題に直結しています。社外取締役制度は会社公器論にそのまま直結します。会社は、社会のものであって、そこで働く人のものではない、という考え方です。ましていわんや株主のものでもありません。「私物化の排除」が社外取締役制度の本質であり、政治における民主主義にほかならないと気づかれると思います。

文責:清水 佑三

2003/07/28 66

男女の雇用機会均等論についてどうお考えか?

1992年に上梓した「嘘つきのススメ」の中で、「人間の社会を広くみれば、当たり前のことが当たり前であるべき方向へ少しづつ進んでいる」と書きました。福沢諭吉と同じ文明進化(肯定)論です。男女の雇用機会均等論は「当たり前」のことであって、わが国の文明が少しまた少しとその方向に動いている姿を見るのは慶賀至極のことです。ただ、一方で、ピーズ夫妻の名著『話を聞かない男、地図が読めない女』がいう性差が厳然と存在することも事実です。人事部長としてもつべき見識は、雇用機会均等を保障する制度を整え厳正に運用しつつ、他方、採用・配属・登用・処遇にあたって、オープンエントリー、フェアな選考、説明責任の履行を完全実施することです。その結果、ある仕事について男女比率がどちらかに偏ったとしても、それは雇用機会均等の精神には背きません。雇用機会を公平に与えるプロセスの保障が雇用機会均等の精神そのものです。結果の保障を先に考える考え方は本末転倒で会社を弱くします。

文責:清水 佑三