人事部長からの質問

2003/08/15 80

改革が実行できない。もどかしい。

達者な競泳者でなくても、水中で泳ぎもどきの行動をすると、前に進みます。この泳ぎもどきをして、前に進んでゆく感触がとても大切だと思っています。微々たる前進であっても、それが全社で行われたとしましょう。とうとうたる変革のうねり、運動になるはずです。燕の昭王の故事ではありませんが、「まず隗(かい)より始めよ」です。もっともみぢかな場所で、今までヘンだヘンだと思ってきたことを変えるのです。それが現実的で有効な変容であれば、かならずそれへの「真似」が生まれます。その「真似」の連鎖が改革なのです。足元からやってみてください。大上段に振りかぶった改革の狼煙は別な政治的な狙いをもっているものであり、動機が汚れているものです。きれいな町をつくるためには、それぞれの家の前を、それぞれの家が綺麗にしてゆけばよいのです。そのうちに、共通の場所にも関心が及び、みんなで片付けようとなってゆきます。改革の力学とはそういうものです。

文責:清水 佑三

2003/08/14 79

「数字と人情」の売れ行きは?

あまり芳しくないそうです。馬券を買うのと同じで、本を出すときはいつも(10万部売れる)夢を見ます。その夢はなかなか叶えられません。人は、だからこそまた馬券を買うのだと思います。今度の本にはたくさんの思い入れがあります。一番の思い入れは、人情ばなしのタッチを出したい、ということでした。通勤車中では、いつも、一昔前の、円生、金馬、志ん生のLPをミニ・ディスクに録音したものを聞いています。それが数少ないわが道楽なのです。落語そのものを文章に落としても商品になりにくいかもしれませんが、落語がもつ独特のタッチのようなもの、味わいのようなものを文章にしたい、が(私の)強い思い入れなのです。今回の本でできた部分もありますが、できなかった部分も多々ありました。こうした挑戦を続けてゆければいいなあと思いますが、売れない本ばかり出すとそのうち版元さんが相手にしてくれなくなりますよね。

文責:清水 佑三

2003/08/13 78

人事部長のマニフェストとは?

大学時代に Latent Structure Analysis (潜在構造分析)というのをやったことがありました。そのときに Latent に対応する言葉で Manifest があったことを今、突然、思い出しました。度忘れの反対ですね。それはともかく、最近の予算委員会質疑で菅直人さんが、小泉首相に自民党もマニフェストを出したらどうか、と質したのに対して、小泉さんが「何でもカタカナにすればよいというものではない」と答えていました。委員会質疑での小泉発言はいつもおもしろくて納得できる、と思ってきました。私もたぶん、まったく同じことをいうでしょう。さて、ご質問の人事部長のマニフェストですが、昨日のご質問にあった、会社全体のメンタルヘルス度をあげること、しかも測定できる具体的な尺度とカレンダーつきでそれを公約することではないでしょうか。会社の業績は現場の仕事であり、人事部長は何もできません。しかし、有能な社員がどんどんやめてゆくような組織風土には明日はありません。その芽を摘み取る責任が人事部長にはあると考えます。人事部長の正しい職名は実は環境部長であります。

文責:清水 佑三

2003/08/12 77

自社全体のメンタルヘルス度を知りたい。

よいご質問だと思います。業績とメンタルヘルス度が両立する会社が理想なのだと思います。問題は全社のメンタルヘルス度をどういう基準で捉えるかです。エス・エイチ・エルの研究によれば、「仕事と仕事の仕方のおもしろさ、充足感」「仕事の受益者からの満足(とその通知)」「仕事の対価」「仕事をする場の空気」などが、働くものの精神衛生を規定する主要な要素です。全社員にそれぞれについて5点法で評価してもらい、時系列で追跡すると、ご質問にある会社全体のメンタルヘルス度の変化がみてとれます。この手のものは体温・血圧等と同じで、異常値を検出することに意味があり、そのためには健康な状態でのゾーンをよく知っていることが前提になります。あくまでも時系列で追うところに価値があります。

文責:清水 佑三

2003/08/11 76

ストックオプション制度の今後は?

プロ野球の世界がよい例ですが、興行元の球団経営者が貰う年収は、球団が契約する野球選手のトップクラスの10分の1にも満たないものです。存在が稀でかつ球団経営(業績)に直結する人気プレーヤーに配分が集中するのは、当然のことだと思います。そういう意味あいでいえば、ストック・オプションも、会社価値を実質的に創造しているごく少数の「知識と技術」をもつものに対してのみ、供与されるべき特殊な報酬制度だと思います。制度が変更され、会計上の費用計上が満額、義務づけられれば、会計上の費用ゼロを魅力に考えて行われてきた大量のストックオプション供与のスタイルは消えてゆくとみます。その後のイメージですが、マイクロソフトが発表した、(譲渡制限つき)自社株式の無償供与制度に移行してゆくとみます。なぜその場で現金でとならないかといえば、供与対象者がそれをもらってすぐバイバイされると困るからでしょう。急激な成長シナリオをもつベンチャー企業以外でストックオプションといわれてもあまりピンと来ないものです。

文責:清水 佑三