人事部長からの質問

2003/08/22 85

M&Aについてどう考えておられますか?

Marvin L. Minskyという著名なアメリカの数学者、人工知能研究者がいます。1960年ごろから人工知能研究に注力し、自然言語理解や場面の理解の枠組みとなる理論である「フレーム理論」を提唱しました。MITに人工知能研究所を設立したのも彼です。彼が、NHKの番組で「パーソナリティという概念は人類がもった最大の誤謬の一つかもしれない。ことによると、昨日の自分と今日の自分には連続性が認められないのかもしれない」と語っていたことがありました。そうかもしれないのですね。ひとつの会社を一人の人のように見立てて、誕生から成長、発展、再生、復活といった物語を想定する「社史編纂的」視点は(ミィンスキーがいうように)誤謬なのかもしれないですね。会社とはフィクションであり、道具である、と思えばM&Aは、別段、とりたててどうこういうことでもないように思えます。「月去り星は移るとも、とわに称えんわが母校」の学校もM&Aでなくなってしまうのが「自然」なのかもしれません。

文責:清水 佑三

2003/08/21 84

階層別研修の評判がよくない。

リターンを求めるからいけないのです。お盆の帰省だと思えばリターンもコスト・パフォーマンスも何もないです。「癒し」という流行語がありますが、あれだと思えばよいのです。同期で入社したというのは何かのご縁です。自然に戦友意識が芽生えます。会社が次々と出会う事件を(同じ世代感覚で)共有してゆくわけですから、機縁は年々強まることはあっても弱まりません。そういう同期結合を何よりも大事なものとして大切にしてきたのが日本企業です。退職後のOB会がその象徴です。こうした同期結合は、我々の深層の無意識層が求めているもので理屈ではありません。お盆でこれだけ多くの人が帰省するのと全く同じものです。階層別研修を成果主義の視点でみないで、会社の宗教的な行事だと思えばよろしい。そうすると、お神酒をくみあう夜の時間こそが神事であり、最高度に大切にされるべき時間だとなります。滅びる民族の兆しは固有の言語と神事を失うことだそうです。廃止論は「こちたきひがごと」です。

文責:清水 佑三

2003/08/20 83

社内の空気をもっと明るくしたいが。

成果主義をやめて、お祭り文化を復活させることだと思います。いろいろな理由をつけて、「笑いと涙」満載の社内イベントを開き、(社内)芸能人を探してすべての運用を任せてしまうのです。「笑いと涙」の機会が増えれば増えるほど、社内の空気は明るくなってゆきます。悪性ガスが自然に抜けてゆくのです。大事を任された(社内)芸能人は職場に戻って、自分が(会社から)認められていることを素直に喜び、自分の(仕事とは直接的に関係しない)才能を発揮させてくれた会社に、肯定的な気持ちを抱くようになります。芸能人は実は神様に一番ちかい人たちなのです。彼らが元気だと群れは生き残れます。ジャイアンツの元木大介が私のイメージする芸能人です。練習はさぼるは、規律は守らないは、で非優等生ですが、チームや選手個々人のことを親身になって考えていて、ここというときに神がかり的なプレーを見せてきました。元木を二軍に落とすようではGは先がないですね。

文責:清水 佑三

2003/08/19 82

シニアで「年収」と「貢献」のバランスが悪い。どうすればよいか?

一定の調整期間を設け職務給に一本化してゆくことだと思います。「年収」と「職務」をバランスさせる制度設計は、(抽象的な作業であり)それほど難しくはないのですが、その後の(具体的な)固有名詞の入った運用となると途端に厄介になります。年収の高いグループになればなるほど、個々の人について「職務」と「貢献」のバランスをみる査定作業が難しいのです。さらにアンバランスだとなった場合の「措置」が簡単ではないのです。その「措置」を誤ると、窮鼠猫を噛む集団を大量につくってしまうことになりかねません。彼らが2チャンネルのような媒体で暴れ出すと「よくない空気の会社」というイメージをつくってしまいます。元も子もなくなるのです。私の意見は、外科的な措置をとるのではなく、免疫療法的な措置をとるほうがよい、です。PHP新書「数字と人情」にその具体的な方法を書いたつもりなのでお読みくださると幸いです。

文責:清水 佑三

2003/08/18 81

現在のような状況だとOBの年金は減額させるしかないのか。

ご指摘の年金は、公制度ではない私的年金を指しておられると推察します。私的年金は、一般に、企業が信託銀行または生命保険会社との間で退職年金契約を結び、掛金を積み立てておき、従業員の退職後に年金又は一時金を退職者に支払う私的制度です。従業員の負担はなく会社負担で行われるところに特徴があります。従業員の「働き」の対価の範疇に入るものなので、ご指摘のような会社の「懐ぐあい」に左右されるのはやむをえないと思います。これから退職してゆく人については了解はとりやすいと思いますが、気になるのは既に退職された方々への減額変更です。生命保険の利率引下げ問題と同種の、なんともいえない後味の悪さが伴います。トップの退任と新トップからの「申し訳ないの口上」があってしかるべきです。

文責:清水 佑三