人事部長からの質問

2003/08/29 90

主体的な人間であれ、といいますが。どういうこと?

広辞苑で「主体的」の項をひくと「他のものによって導かれるのではなく、自己の純粋な立場において行うさま」と説明しています。また「一匹狼」の項をひくと、「ひとり独自の立場を主張する人」とあります。「主体的」と「一匹狼」はあきらかに同一のタイプなのです。一方はそれを肯定的に表現し、他方は否定的に表現しているだけです。企業のなりたちは、「プロジェクトX」を同時並行させるところにあります。すべてが複雑にネットワークされているのが企業における仕事のありようです。そういう場において、「自己の純粋な立場で行動」したらどうなるか。プロジェクトはすすまなくなります。裁判官や作家のような独立性を条件とする仕事であれば、「主体的である」は必須要件でありますが、会社のメンバーとしてほんとうにそれを求めるべきものなのかどうか疑問です。創造性と同じで、ないものねだりですね。

文責:清水 佑三

2003/08/28 89

少数精鋭主義とは何をいうのか?

ご質問したくなるお気持ちはよくわかります。「絶対」と「相対」、「市場」と「競争」等について知覚のある人は同じ疑問を感じているはずです。アメリカのメジャーリーグ(野球)でいえば、十分なピラミッド構造をもっているゆえに、メジャープレーヤーは厳しい観客の要求を満たすプレーができるのです。メジャーが少数精鋭主義で、優秀プレーヤーだけの組織にしたら、おそらく興行体として瓦解してしまうでしょう。マイナースポーツを少数精鋭主義によるとはいわないのです。同じことが会社組織についてもいえると思います。たくさんの人たちの中から相対的にすぐれた人たちが、選別されて、要所におかれるからこそ、「市場」のなかでの「競争」に耐えられるプレーができるのです。つまり、精鋭の背後には多くの2軍、3軍、4軍がいないといけないのです。この問題をよくよく考えてゆくと今のリストラ主義の「本質的な危険」が浮かび上がります。これ以上は紙幅の関係で割愛しますが本質をついたよいご質問だと思います。さらに考えてみたいと思います。

文責:清水 佑三

2003/08/27 88

どうすればたくさんの引出しをもてるのか。

よく受ける質問ですが、回答者として(私は)適任ではありません。私の引出しは「野球」「戦争」「男と女のこと」の三つしかないからです。三つ目は、本や講演では意識的に避けています。版元や講演の主催者に迷惑をかけてしまうからです。河野与一さんが(昔に)書いた『哲学講和』やBG.W.Allportが書いた『人格心理学』などを読むと、なんてまあ、この人たちは引出しが多いのだろう、彼らにネットサーフィンを許したら一体どうなっちゃうんだろうと思うのです。ただ、折角のお尋ねなので、「野球」について申し上げます。私は子供の頃からテレビの音声を消して「野球中継」をみてきました。NHKの衛星放送だと会場音声のみがサブチャネルで聞けるので、この場合は音声を消しません。アナウンサーや解説者の言葉を介在させないで野球をみていると実に多くのことに気づくのです。気づいたものを引出しにしまって違う世界に応用する、というのが私の常套手段であります。ささやかな業務用機密ですね。

文責:清水 佑三

2003/08/26 87

「採用」って大事なことだと思いますか?

(昔から)そんなに大事なことではない、と思い思いしてきました。10年前に出した本の一部に「どこに就職するかは問題ではない、就職してから毎日をどう過ごすかだ」と書きました。視点を変えれば「誰を採用するかは問題ではない、採用してから毎日、その人とどう向き合うかだ」になります。優秀な人を採用してダメにしてしまう多数の会社があり、普通の人を採用して優秀な人に育てるごく少数の会社がある、とも書きました。この考え方はまったく変わっていません。この点は、結婚も合併もみな同じだと考えています。普通の人を採って、優秀な人に変容させてゆく能力がない組織ほど銘柄大学銘柄学部にこだわるものです。その代表が官庁、自治体です。バカみたい、と思いますが彼らにその自覚はありません。外部からの批判を、瘠せ犬の遠吠えくらいにしか思っていないでしょう。人は変容するものであり、その変容をうまく引き出す相互作用のうまい下手がある、とだけ考えます。

文責:清水 佑三

2003/08/25 86

人を解雇するときに留意すべき点を。

三つあるのではないでしょうか。一つは、通常の退職金+αを支払うことです。αの匙加減がとても重要だと思います。二つ目は、前項と重なると思いますが、未消化の有給休暇の買取りをきちんとすることです。三つ目は、粘りづよい話し合いと再就職支援の姿勢を示すことです。人の気持ちは「お金」だけではないので、三つ目が特に重要だと思います。この三つの条件を満たせば、解雇される側は「リストラ110番」への駆け込みをしないものです。会社が市民救済機関ではなく、ゴーイング・コンサーン(繁栄のもとでの存続)を義務づけられていることは重々承知しているからです。背に腹は替えられぬ、という諺がその間の機微を語っています。最後の話し合いにあたる人の人選に特に気をつけることです。人の心の痛みがよくわかる人をあててください。その反対の人をあてるとメチャクチャになります。

文責:清水 佑三