人事部長からの質問

2003/10/07 115

心理学的人事というのはあるか?

告白すれば私は「心理学」が嫌いで、特性論や態度形成の分野で貢献したアメリカの心理学者G.Allportが著書『人格心理学』の中で、「心理学者が束になってかかってもたった1人のシェークスピアに勝てない」と書いているのに接し、快哉を叫んだものでした。この分野にもわかっている人がいる、と思って「心理学」への偏見を改めたものです。ところで心理学的**という言葉は一種の流行語だと思います。マニフェストとか有機**とかというのとよく似ています。かりに心理学的政治という言葉を使う人がいたらバカまるだしです。政治の最大の契機は丸山真男さんがいうように「ありとあらゆる手段を駆使して支配を貫徹する」であり、心理学的政治と限定した途端に自己矛盾が始まるからです。同じナンセンスさが心理学的人事という表現にもあると思います。

文責:清水 佑三

2003/10/06 114

欧州の報酬制度に関心がある。

同感です。アメリカよりもヨーロッパの事例の方が何かにつけて参考になります。たとえばSHLグループは世界30カ国以上に拠点があり、それぞれの拠点の事情を勘案した報酬制度をとっています。郷にいらば郷に従えを実践しているわけです。世界会議などで報酬制度の改革をテーマにした分科会に出ると、賞与制度にそれぞれのお国振りがよく出ます。日本のように年間4〜5ヶ月分を固定的に出すという国は特殊であるという印象を持ちました。また、ヨーロッパ各国のSHLと日本エス・エイチ・エルの報酬制度に対する考え方がよく似ていると思いました。共通点を探すと、新人と社長の年収倍率が高くない(数倍程度)、個人の年収が下がらないようにつねに経営が配慮する、成果よりも働いた時間に対して報酬を用意しようとする、等でしょうか。こうした考え方の根底に「社会主義的思想」があると私は考えています。

文責:清水 佑三

2003/10/03 113

新制度導入の効果測定の方法で悩んでいる。

昨年の4月ぐらいの日経新聞だったと思いますが、(新制度導入で)「狙いどおりの成果を得たと認識している人事部門は3割に至らず」という見出しの記事が出たことがあります。3割という具体的な数字が出ていたので強く印象に残っています。調査の目的は、「人事制度の運用と目的達成状況」を個別企業にあたって知るところにありました。ご質問の効果測定法ですが、企業の勢いを測る時系列観測指標が必要です。地震予知のためになされているGRS測定と共通します。目に見えない地下のマグマの動きを何らかの指標を用いて定期的に測定するのです。社内ネットワークはそのためにある、と考えてください。観測項目ですが「新規挑戦」「改善提案」「学習機会」「人材流動」「信賞必罰」等について「最近はその傾向が強(弱)まっているか、どうかを4点法で全社員に聞くのがよいと思っています。

文責:清水 佑三

2003/10/02 112

総合職制度全廃を検討しているが…

よいお考えだと思います。日経新聞の「人と仕事」欄(月曜日)を読んでいると、最近、総合職、一般職という考え方をやめる企業が少しづつ出だした印象があります。この制度の何がいけないか。固定的身分制度が優れた才能の発見と育成という意欲を閉ざす一点にあります。津本陽さんの「椿と花水木」(新潮文庫)で描かれた土佐の漁師万次郎が象徴的です。1827年生まれで、わずか3年半の米国滞在にもかかわらず、英語を完全に覚え、しかも米国文化、社会機構について優れた知識と見識をもって日本に帰りました。米国社会が才能に対してオープン(固定的でない)だったからありえた話です。みなさんの企業でも万次郎のような人がたくさん埋もれている、と私はみています。

文責:清水 佑三

2003/10/01 111

このQ&Aを続けているパッションは何ですか?

おもしろい、といってくださる人の声です。先般もある職人(だとおっしゃる)方が、この欄が面白いので読んでいます、というメールをくださいました。人事部長からの質問、と銘うっていますが、読者は幅広いのだと思いました。そういう声を頂くと「頑張りたい」と思います。思考(すること)のおもしろさのようなものを感じていただければそれでいいといつも思っています。私自身は本もあまり読みませんし、新聞・雑誌に至ってはほとんど読みません。そういう世間と距離をおいて生きている人がオリジナルに考えたことをぶつぶつ書いているのがこの欄です。それを面白い、といってくださると本当に嬉しくなるのです。

文責:清水 佑三