人事部長からの質問

2004/05/31 270

社内結婚後、女性が退職する不文律があるが…

大昔の話ですが、短大卒一般職の女性と四大卒総合職の男性が職場結婚し、一般職の女性が退職して、(家の)内に入り、外での夫の活躍を支えてゆくことが美であるという時代がありました。結婚式ではその職場の部長が仲人を勤め、主賓を課長が勤め、スピーチで夫唱婦随を説いたものです。また、教育の基本方針に「良妻賢母」を掲げた多くの短大がありました。『日本婦道記』(山本周五郎)の現代版のような世界が現実に存在していたのです。今なおご指摘のような世界がある、と知って感銘を受けました。時の移り変わりは、ものごとを裏返すような形態をとらず、潮の満ち干のように気がつけばいつか干潟が消えていたという緩慢な形をとるのだとわかりました。不文律であれば、気にすることはありません。それに従う人が1人、また2人と減ってゆくでしょう。心配しないでよいと思います。

文責:清水 佑三

2004/05/28 269

喩えがうまい人っていいですね。

歌手のものまねがうまい人と同じですね。うり二つの歌い方ができる人は、その歌手の歌い方の特徴を観察してよくつかんでいるのです。もちろん、それを再現する歌唱力があることが前提です。同じように、もののなりたちをよく観察していると、いろいろなことに気づきます。気づくと、自然にそれを他の何かに喩えてみたくなるものです。認識におけるごく自然な反射運動のようなものです。上手な喩えができた場合とその逆の場合がありえます。上手な喩えができた場合は、よく認識ができている証拠です。自分でこれでよい、と思います。逆の場合は、まだわかっていないなとなるのです。私のみるところ、なくなられた井伏鱒二さんの喩えは秀逸でした。開高健との(テレビ)対談などは、喩えの格闘技みたいなもので、聞いていてスリル満点でした。そりゃ、度忘れの反対だな、と井伏さんがいうと、開高さんは、いや違います、脳に雷が落ちてきたようなものです、というのです。お二人とも認識の達人だったのでしょうね。

文責:清水 佑三

2004/05/27 268

『就活』の書き込みで担当者が落ち込んでいるが。

『就活』といってもピンと来ない人が多いでしょう。『就職情報サイト「みんなの就職活動日記」』のとおり名です。学生は好き勝手なことをここに書きます。「風説」の発信源のひとつですね。その会社に関心をもつ学生は一般に目を通すものなので、その会社に対して悪意をもつものが、ネガティブキャンペーンをこの欄を使って行うことがありえます。当社も執拗にこの攻撃にさらされて参りました。ただ、内定者たちに尋ねると、悪意のある書き込みは(においで)わかるので、まったく気にしないそうです。自分の大事なキャリア形成を悪意の風説によって左右されたくない、という気持ちが働くのだと思います。そういうものだと思います。気にするな、といっても無理かもしれません。読まないように指導されたらいかがでしょうか。

文責:清水 佑三

2004/05/26 267

ある会社を買収したが水と油でうまくゆかない。

政略結婚(買収)の本質は、当人どうしの幸福にはありません。政略(目的)を達成するためになされるのです。したがって当人どうしが水と油(不幸)であっても仕方がない、となります。ホンネ(の答え)はそうなのですが、買収した会社の経営を任された人(質問者)の立場で考えるとそれではすまないと思います。参考になるのは離婚に至る夫婦についてなされた研究結果です。離婚現象の共通的な特徴を調べてみると、性格の不一致ではなく、価値観の不一致によるところが大きいのです。一方が貯蓄を何よりも大事だと考え、他方が金は使うためにある、と考えるとします。うまくゆきません。このことからの類推ですが、買収先の価値観を尊重すればよいのです。無理にその部分に踏み込もうとするからぎくしゃくするのです。価値観を尊重した上で、買収の目的を満たす登山口はないかどうか、詳しく検討すべきです。たぶん、ぎくしゃくしない分、前進すると思います。

文責:清水 佑三

2004/05/25 266

部長、課長の役割差は何か?

サイズ差であるという見方と、機関差である、という二つの異なった見解があるように思います。前者は、軍事の世界に喩えるとわかりやすいように思います。方面軍司令官と師団長の違いは、預かる兵員、兵站のサイズ(遂行すべき作戦の規模、難易度等)が違うだけで、(作戦の遂行という)役割は本質的に異ならない、という考え方です。後者でいう機関差という考え方は、多少の説明を要します。ここでいう機関という言葉は、昭和初期の美濃部達吉らの天皇機関説で使われた意味あいでの機関です。美濃部は国家の統治権は天皇にある、という法学説に対して、統治権は法人である国家そのものに帰属し、天皇は国家を構成する(最高位置にある)機関であるという学説を唱えました。国家目的を遂行するための一つの「道具」という意味あいを天皇に付与したのです。部長、課長を「道具」の名前として考えると、目的や状況によって(求められるものが異なってきますので)時に応じて、臨機応変の役割差を定義してよい、となります。

文責:清水 佑三