人事部長からの質問

2004/08/03 315

現地法人の経営を現地任せにしない多国籍企業が目立つように思うが。

優秀な成績をあげる現地法人のトップがもつ資質の特徴を調べると、共通性が高く、その国の文化や民族性による偏りがみられないという(実証的な)事実が指摘されています。ヨーロッパで活躍するアジア人のサッカー選手やメジャーリーグで活躍する日本人の野球の選手を考えるとこのことはよく理解できます。松井秀喜や中田英寿は資質においてインターナショナルなのです。ある現地法人において、かりにこうしたインターナショナルな資質に欠けているトップを戴く場合、(そうでないトップを戴く場合と比べ)機会利益を大きく損なう危険があります。こうした事実を踏まえて考えると、多国籍企業が現地法人のトップを現地任せにしない、という戦略を導くのは理にかなっています。

文責:清水 佑三

2004/08/02 314

人のモチベーションを規定しているものは?

多様な種類の「動因」がつきとめられています。エス・エイチ・エルでは、大きく4つの「動因」に分けて捉えています。(1)母親の胸に抱かれるように他者によって認められたい、(2)ライオンがシマウマを襲うようにターゲットを獲得したい、(3)閲兵式で一糸乱れぬ行進をするように統制に従いたい、(4)自分の中に湧いてきてしまう楽想を楽譜に書き残したい、です。こうした「動因」のタイプと特定の職業倫理とはセットになっていると思われます。(1)は教育、医療、介護等、(2)は事業家、営業、(3)は警察、軍隊、(4)は作家、音楽家などです。1人の人の中に複数の「動因」が同居している場合、わかりにくい人という評価が生まれます。小説家は自分の中に複数の「動因」を住まわせて、観察しているヘンな職業です。自分の中の「動因」の点検は職業選択の基本中の基本です。「動因」を読み違えると仕事が長続きしないのです。

文責:清水 佑三

2004/07/30 313

職務給の導入についてアドバイスがほしい。

日本の企業の給与制度を大別すると、成果給、職務給、職能給、生活保障給になります。最後の生活保障給は耳慣れない言葉だと思いますが、企業に勤めることで生活をしている人に対して、生計ニーズにあわせて給与を支払おうとする伝統的な考え方をいいます。毎年春に行われる定昇やベースアップはこの考え方に基づいています。入社、結婚、子供、教育、家、老後の備え等々が生計ニーズの変化要因です。職務給は、職務別に労働コストが大きく異なる場合に、導入すべき考え方です。たとえば、新しい仕事をすすめる上で、コンピュータ技術者がどうしても必要であるが、雇用する場合の給与水準が現行の社員の給与水準からかけ離れているような場合です。こういう時には、職務給制度を導入しないと、なぜ、あの人だけがという批判が起こりえます。そうでない場合は無理をして職務給制度を導入するのはどうかなと思っています。

文責:清水 佑三

2004/07/29 312

トップ層のリーダーシップ開発とは何をいうのか?

ゴルフのティーチング・プロの仕事を考えるとよくわかります。タイガー・ウッズが稀にみる資質の持ち主であることを疑う人はいませんが、プラスして彼の抜群の成績の影によりそうようにブッチ・ハーモン(カリスマ・プロ)の存在があったとみるべきです。ブッチ・ハーモンがタイガー・ウッズに高度な技術を伝授したのか。違います。そんなことは誰もできない。そうではなく、ソクラテスの対話法を繰り返したとみるべきです。タイガー・ウッズがある場面で同じ失敗を繰り返した時に、ふっとそこにあらわれるのです。「どうしてこの失敗を繰り返していると思う?」がブッチ・ハーモンの問いです。「ほんとうにそうかな、違うんじゃないかな、だって前にこういうシーンがあったじゃないか」と掘り下げてゆきます。いつかタイガーが自ら現実的で有効な「解法」を見つける。それをお産婆さんのように我慢づよく手助けする。こうしたティーチング・プロの存在を仮定しないと役者が芸に開眼してゆくプロセスは理解できません。

文責:清水 佑三

2004/07/28 311

生え抜きと外部招聘の社長の得失を。

生え抜き(登用)の価値は、自分たちも頑張れば社長になれる、という夢とか希望を意欲的な後輩に与えられる、その一点に尽きると思います。逆にその弊をいえば、社長に登用された次の日から、今までの同格、同僚に対して、手の平を返すように大鉈を振るえない、に尽きるでしょう。白地のキャンバスに絵を描くようには、シナリオ選びやキャスティングができない、があると思います。一方、外部招聘の場合は、白地に思い切って自由な絵が描ける半面、キャンパスの方が大胆な運筆に抵抗してしまう危険があります。竹中平蔵さんを迎えた金融庁のようなものです。社員全部が面従腹背運動に参加したら、もうお仕舞いです。得失として以上が思い浮かびます。

文責:清水 佑三