人事部長からの質問
家族主義人事とは何をいうのか?
家族のよさを一番感じさせる場面は、ま冬にコタツに家族全員が揃い、お茶をすすりながら、どうでもよいような話にみんなで打ち興じる光景です。昨年生誕100周年を迎えた小津安二郎監督の『秋刀魚の味』『お早よう』『彼岸花』『東京物語』などは、状況こそそれぞれ違いますが、家族主義的な価値観がよく出ていると思います。我々の心の深層にある死生観がうまく描かれていると思う。文藝春秋の編集者を経て、短編名手の名声を得た、永井龍男の『青梅雨』(新潮文庫)にも、心中前夜の家族の何気ないやりとりが描写されていて、静謐な死生観が浮かび上がってきます。私見ですが、家族主義人事とは、ある価値観のもとに結集した共同体が、静かにしかし美しく滅びてゆくことをよしとする美学をいいます。
文責:清水 佑三
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