人事部長からの質問

2004/01/13 176

私には趣味といえるものがない…

荻生徂徠の『弁名(上)』のはじめのところに、「世は言を載せて以って移る」とあります。岩波古典文学大系(昭和48年初版)の校注者は「時代の変遷に伴って言語も変遷した」と注記しています。まあ、そんなところでしょうか。昔は趣味といわずに道楽といいました。趣味(楽しみですること)は身を滅ぼさない。場合によっては崖っぷちまでゆきますが、踏みとどまるところがあります。ところが道楽(遊興に惑溺すること)は違う。何もかもをつぎ込んで崖から飛び降りてしまう。図式化すれば、道楽→趣味→無趣味の順で危険がありません。人のなりわいには、虎穴に入らずんば虎子を得ず、という一面も確かにありますが、君子危うきに近寄らず、の方が格言としてのパワーは強い。無趣味の人ってほんとに賢い、と私は思います。性愛領域で以上申し上げたことを考えてゆくともっと理解できると思います。

文責:清水 佑三