人事部長からの質問
信賞必罰の効用を。
ベクトルあわせという言葉があります。ばらばらになりがちな個々人の力を共通の方向に向けてゆくときに使われる言葉です。主体性、多様化という価値観は、つきつめるとばらばらの奨励であり、ベクトル合わせ否定論です。それにつけても、日本人という種族はつくづくベクトル合わせがうまい種族だと感じます。自然に、無意識に、ベクトル合わせができてしまうのですね。山本七平さんは『「空気」の研究』でその機微を徹底的に論じました。「そんなことを言える空気ではなかった」の一言ですべてが免責になるのです。そういう我々の奥深くに鎮座する無意識のクセに対して効力をもつのが目の前の「信賞必罰」です。こういうことをするとこんなによい(悪い)目にあう、という実例を次々と見せられると、人は奥深くに鎮座する無意識のクセの出番をとりあえず封ずるのです。「空気」の支配を壊すことができるのは「信賞必罰」だけであります。
文責:清水 佑三
バックナンバー