人事部長からの質問
喩えがうまい人っていいですね。
歌手のものまねがうまい人と同じですね。うり二つの歌い方ができる人は、その歌手の歌い方の特徴を観察してよくつかんでいるのです。もちろん、それを再現する歌唱力があることが前提です。同じように、もののなりたちをよく観察していると、いろいろなことに気づきます。気づくと、自然にそれを他の何かに喩えてみたくなるものです。認識におけるごく自然な反射運動のようなものです。上手な喩えができた場合とその逆の場合がありえます。上手な喩えができた場合は、よく認識ができている証拠です。自分でこれでよい、と思います。逆の場合は、まだわかっていないなとなるのです。私のみるところ、なくなられた井伏鱒二さんの喩えは秀逸でした。開高健との(テレビ)対談などは、喩えの格闘技みたいなもので、聞いていてスリル満点でした。そりゃ、度忘れの反対だな、と井伏さんがいうと、開高さんは、いや違います、脳に雷が落ちてきたようなものです、というのです。お二人とも認識の達人だったのでしょうね。
文責:清水 佑三
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