人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

ヤフー 四半期評価でやる気向上
短期間の目標設定 社員との意思疎通も密に

2004年4月10日 日経流通新聞 朝刊 4面

記事概要

 ヤフーはいま急成長を遂げており、昨年1年間で社員が3割増え、1000人近くに迫っている。どうしても社員と会社の意思疎通が難しくなりやすい。その問題の解決に一役買っているのが年4回の昇給、昇進機会の提供(四半期評価制度)である。川口美津子人事部長は「市場の変化が速く、年1回の年俸改定では現実に追いつけない。四半期評価の実施にともない、被評価者とチームリーダー、事業部長との面談の機会が増える」と語り、「意思の疎通という意味で(管理職の負担はあるが)四半期昇給、昇進制度はメリットが大きい」とも語っている。

文責:清水 佑三

ヤフー進撃の背後にある人事思想をみよ

 1年に何回の評価機会をつくるか、は人事制度設計者にとって、重要なテーマである。プロ野球は、1年1シーズンで年俸更改チャンスは1回しかない。多くの企業が管理職層以上にとっている年俸制度はこれに近い。

 他方、大相撲では1年6場所あって、6回の昇給、昇進チャンスがある。時代を大きく俯瞰すると、採用、異動、昇給、昇進等の機会の数は、プロ野球型から大相撲型のほうにシフトしていっている印象がある。なぜなら、明日が見えない時代に、1年前のことを今になって言われてもいわれた方はまごつくからだ。仕事の動きが激しくなるほど、評価スパンは自然に短期化してゆくものだ。

 ヤフーは、インターネット上で「Yahoo!ボランティア」「Yahoo!きっず」などの新しいサービスを相次いで展開して時代を牽引している印象があるが、人事思想にもその一端を垣間見ることができる。記事概要に述べたこと以外で、この記事の中から評価システムにおけるヤフーの新しい考え方をみてみたい。

  1. 社員が自ら(具体的な数値で)3ヶ月間の目標を10項目程度、設定する。
  2. 社員が自ら(3ヶ月後に下されるであろう5段階評価点を)各項目別につける。
  3. 目標と(自分の予想)評価について直属のチームリーダー及び部長と個別に面談する。
  4. 面談で目標や予想評価を、環境・実績・能力等を勘案してより現実的なものに修正してゆく。
  5. 3ヶ月後、チームリーダー及び部長は実績数値をもとに予想評価に対して実績評価を行う。
  6. 取締役による会議で個々の社員の最終評価を数値化し、四半期賞与と新給与の決定を行う。

 他社にみないユニークな点は次の部分だ。

  • 目標設定を数値で行おうとしている。
  • 本人による予想評価という尺度を導入している。
  • 面談の目的を、項目の優先づけ、達成可能度についての裏どりにおいている。
  • 評価結果をもとに月例給与、賞与を四半期サイクルでいじっている(アップダウンの実行)。

 人の性質についての優れた知見がないと思い切った評価制度の導入はできない。横並びの制度にこだわるたくさんの大企業のなかにあって、ヤフーのこうした「わが道をゆく」スタイルは貴重だ。こうした人事思想と「Yahoo!ボランティア」「Yahoo!きっず」の誕生とはコインの裏表である。

コメンテータ:清水 佑三