人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
【経営の視点】
味の素、外国人幹部を登用
「全員参加」の文化で世界へ
2003年11月2日(日) 日本経済新聞 朝刊 5面
記事概要
味の素は、次の役員改選期にあたる2005年に本社の執行役員に海外のグループ企業幹部(外国人)を登用する方針を固めた。真の「世界企業」となるために、人の面での国際化は不可欠と判断しているため。江頭邦雄社長は「味の素は日本企業であり日本的経営を理解していることが登用の前提条件となる」と話す。江頭社長のいう日本的経営は「人を大切にする」である。具体的には「評価が低くても一生懸命にやる従業員は切り捨てない」が日本的経営の真髄であり、日本企業の強みの源泉だと考えている。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
日本発の明快な価値観を「味の素」にみる
- 「評価が低くても一生懸命にやる従業員は切り捨てない」
- 「女性であっても外国人であっても本社の役員への道を開く」
言うはやすく、行(おこの)うは難(かた)し、とはこういう文言をさす。6年前には3人だった女性管理職を、近々、50人に増やすと大見えを切っている。すでに28人の女性管理職が登用された。絶対数は少ないにしろ、6年前の9倍である。50人という目標は「言ってみただけ」に終わらないだろう。
より難しいと思うのが「評価の低い従業員にもそれなりの場を探して処遇する」という方針の実行である。そのためには、会社に創造性と実行力が求められる。リストラに走る企業は、そういう能力の欠如を天下に宣言しているようなもの。論語の「過ちて改めざる、これを過ちという」をもじれば、恥じであるのに恥じと自覚しない、これを真の恥じという、である。
「評価が低くても一生懸命にやる従業員は切り捨てない」という言い方に秘密がある。味の素が求める「うまみ」の調味料が隠されている。この表現は、
「評価が高くても一生懸命にやらない従業員は切り捨てる」とセットになっている、とみるべきだ。一生懸命とは何をさすか。「味の素」ウエーへの忠誠をさす。具体的には、
- 創造性の重視
- 技術立社
- 人を大事に
である。かりに、業績的に優れたものがある役員、従業員であっても、行動において「創造性を閉ざし」「技術以外のもので戦おうとし」「人を大事にしない」に該当するものがあれば、容赦なく切り捨てる、という意味だ。
筆者は、(森一夫氏によって触発された)江頭邦雄味の素社長のコメントを以上のように読み解く。黒い猫でも白い猫でもねずみをとってくる猫はいい猫だといはいっていない。
会社のバッチをつけていれば生涯にわたって切り捨てない、とは決していっていないのである。価値観結社に添わない人は切り捨てる、という宣言だ。
よい会社とはこういう価値観を標榜し、本気で実行する会社をさす。味の素の健闘を祈ってやまない。
コメンテータ:清水 佑三
「味の素」という日本が誇ってよい立派な会社の面白さ、卓越性を具体的に一つひとつ示した、という点で日経、編集委員森一夫氏のこの囲み記事は特筆に値いする。
ソニー、ホンダのような派手なイメージこそないが、「日本を起点にして世界企業」となった代表的な会社の一つが「味の素」である。どうしても地味な感じがするのは、グルタミン酸塩調味料の工業化を進めてきた、という社業の特徴ゆえかもしれない。
この会社は、「うまみ」の科学的研究に、創業時から社運を賭けてきた。独自の企業文化と技術を武器にして、日本市場を創造し、海外発展を遂げてきた。もう一つ、文化、社風の重視がこの企業の特徴だ。
自然回帰、マクロビオティックへの流れの中で、化学処理、化学製品への感情的な抵抗感がじわじわと強まっている。かかる環境下で、化学調味料の「味の素」にあらためて注目するのはよいことだ。何事に対しても世間の流行を疑い、中立、等距離の姿勢をもつと疲れないし、物事がよく見える。
筆者が記事中で注目したのは次の文である。