人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

業務縮小でクビは「解雇権乱用」
外資系の処分取り消し
東京地裁

2003年9月26日(金) 毎日新聞 朝刊 29面

記事概要

 世界最大の米監査法人の日本法人(子会社)による社員解雇の正当性が争われた訴訟で、東京地裁(増永謙一郎裁判官)は2003年9月25日「不当解雇=解雇権の乱用」として解雇処分の取り消し等を求める判決を下した。判決の主旨は「業績不振だった部門縮小判断は合理性をもつが、能力をもつ社員を配置転換しなかったのは不当」と指摘した。9月17日の巨大金融グループ傘下の日本法人の同様の訴訟の敗訴に続くものであり、外資系企業の人事システムは特殊という会社側の主張が連続して斥けられたことになる。

文責:清水 佑三

希望退職以外はナシ、か

 小さい記事ではあるが、人事マンにとっては見過ごせない記事である。(記事によれば)東京地裁は、この記事にある9月25日の判決に先立ち、9月17日にも同様の解雇権の乱用で外資系金融グループの日本法人を敗訴させている。以下、この記事にそって、事象を整理しておく。

  • 投資銀行部門の財務コンサルタントとして勤務していた30代の男性は、00年に入社し、02年に「業務縮小」を理由として解雇された。
  • 東京地裁は、業績不振による部門縮小は、合理性があるとして認めたものの、
  • 原告男性の能力が欠如しているとはいえず、配置転換が可能であると判断した。
  • 被告である会社側は、外資系の人事システムは(一般に)特殊であると主張。
  • 東京地裁は社員が賃金で生計を立てている以上、解雇はどの業界であっても理由が必要と退けた。

 この判決は、次のような社会的規範への誘導が意図されている。

  • 業務縮小に伴う指名解雇は、配置転換が不可能な場合に限定される。

 常識的に考えれば、新しい仕事はやってみなければわからないところがある。配置転換後の仕事上の成否を事前に予測することはできない。「できないという証明」は不可能に近い。したがって、東京地裁が求めた「配置転換が不可能である根拠の提出」を前提にする限り、事業縮小にともなう指名解雇は外資、内資に関係なく、「できない」となる。

 指名解雇が自由にできないとなると、事業縮小は希望退職以外に方策がなくなる。希望退職は、優秀だと自認する層からでやすい。市場に出た場合に、買い手がつかないかもしれないと思う人は、希望退職には手をあげない。

 この判決が企業の労政に与える意味はきわめて重いとみる。

コメンテータ:清水 佑三