人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

日本イーライリリー 白江正明人事部長「経営革新最前線」

2004年4月25日 生産性新聞 朝刊 6面 日本イーライリリー

記事概要

 欧米でのイーライリリーのイメージは「働く母親のための優良企業」。日本イーライリリーではまだそこまでの企業イメージの確立ができていない。新卒の半分以上を女性が占める同社では、この差を埋めることが喫緊の問題。日本法人のHR行政を預かる白江正明人事部長はこの問題について、生産性新聞記者のインタビューに応じ、概要、次のように答えた。「(1)出産、育児、介護などを実行している女性の視点・情報を本業のクスリづくりにフィードバックする、(2)仕事と家庭の両立、職場の支援環境づくり等の社内成功事例づくりとPR、(3)在宅勤務とフル・フレックス(タイム)制度を積極的に推進する」「きれいごとではダメで「なぜこの問題に取り組むのか」を会社の文化にまで落とし込むことが大事」と強調した。

文責:清水 佑三

女性活用、虎穴に入らずんば虎子を得ず

 「日本イーライリリー株式会社は、米国インディアナ州に本社を置く製薬企業、イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人。イーライリリー社は糖尿病、子どもの低身長、統合失調症、パーキンソン病、がん(非小細胞肺がん、膵がん)をはじめとする、内分泌系、中枢神経系、癌の領域における治療法を提供している」

 以上は日本イーライリリ―社のホームページにある自己紹介である。同社が取り組んでいる製薬分野は、糖尿、統合失調、パーキンソン、癌等であり、いずれをとっても抜本的な治癒法の開発が待たれる社会ニーズの高いものだ。

 白江正明人事部長の言葉のはしはしに女性活性化への「挑戦」の気概が感じられる。記事中、次のような文言がある。

  • (働く女性の貢献度や満足度をあげる種々の試みは)逆差別になる危険もある。
  • 日本社会ではある意味で「寝た子を起こす」つもりで取り組む必要がある。
  • そうでないといつまでもタブーでありつづけて(改善が)進まない。

 改善に向けて「女性だけのタスクフォース」をつくって問題点の明確化、改善に向けての具体的な施策づくりを2年間をかけて行った。なぜ優秀な女性が退社してゆかざるを得ないのか、に徹底的なメスをいれることがテーマだった。でてきたのは、

  1. 仕事と家庭・育児の両立は(現実的に)無理
  2. 周囲の理解や支援が(実際には)得にくい
  3. その障壁を突破して経営陣にまで上った女性(モデル)が社内にいない

 等が浮かび上がった。

 記事概要で触れた「(1)出産、育児、介護などを実行している女性の視点・情報を本業のクスリづくりにフィードバックする、(2)仕事と家庭の両立、職場の支援環境づくり等の社内成功事例づくりとPR、(3)在宅勤務とフル・フレックス(タイム)制度を積極的に推進する」はその結果をもとに構想されたもの。

 重要なのは(3)の視点である。在宅勤務、フル・フレックスタイムは、仕事と家庭・育児の両立の難しさ、周囲の無理解という二大障壁を確実にクリアする面をもつ。結果として成功モデルを1人、2人と増やしてゆけばよい。

 イーライリリーのタブーへの挑戦は貴重だ。女性が育児と仕事を両立させて、本当の意味で(社内で)機会均等環境をつくるのは、人事行政を預かるものの責任である。そのためには、積極的に問題の本質に踏み込む勇気が必要だ。

 よいインタビュー記事だ。

コメンテータ:清水 佑三