人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

石播 人事改革
FA制を導入■社内公募拡充
人材流動化で活力

2003年8月18日(月) 日経産業新聞 朝刊 23面

記事概要

 石川島播磨重工業は、硬直的な人事制度が事業の停滞を招いたとの反省から人材流動化に向けてFA制度の採用、社内公募制の拡充などの制度改革に着手した。これまでも異動希望制度や社内公募制度はあったが「上司の意向が働き希望しても実現しないケースがほとんどだった」と片山宏取締役は語っている。このほか、中途採用も多用し人材の適材適所化を積極的にすすめてゆく。

文責:清水 佑三

人材流動化を阻むもの

 メザシの土光さんといっても今の若い人にはぴんときまい。法華経を深く尊崇し、母親が開校した私立の橘学園に収入のほとんどを寄付してきたという清貧の思想の財界人である。そのメザシの土光さんこと土光敏夫は、石川島播磨(石播)、東芝をもちまえの合理精神で再建し、時の宰相、中曽根康弘と連携して国鉄民有化に強い指導性を発揮した。

 ところでこの石川島播磨であるが、発祥は古い。現在の東京都中央区佃の石川島の地に、嘉永6(1853)年、水戸藩主徳川斉昭の手によって創設された石川島造船所がその母胎だ。船舶・航空機・ロケットをはじめ様々な産業分野で、常に時代の先駆けとなる製品を生み、日本の近代史とともに歩んできた。

 三菱重工(重工)とならぶ「重厚長大型」の典型企業である。また、国家に危急存亡のときあれば、まず立ちあがってくれるであろう企業だ。「重工」「石播」びとは国を守ってくれる。そういう信頼を、心ある国民はひそかにもっている。

 この記事によれば、その歴史と気概をもつ大戦艦が(艦内の要員の)適材適所をうながす「人材流動化」に向けて大きく舵をきったというニュースである。その内容を要約すれば次のようになる。

  1. ライン(事業部長→部長→課長)につける人を厳選したうえ、鍛える。
  2. 中途採用を積極的に行い、社内に新しい血を入れる。
  3. 社内中途採用ともいうべき公募制度を(形骸化させず)運用する。
  4. 社内FA制度を創設し一定の貢献をした有資格者に仕事選択の権利を与える。

 阪神タイガースの星野仙一は、初年度(昨年)の反省の上にたって、2年目、いくつかの方針をうちだした。現場首脳陣とよく話し合って決めたところに価値がある。

  1. 縦じまのユニフォームに狎れきってしまったと思われる3分の1の選手を自由契約にした。
  2. 他球団が実力を認めながら「パーソナリティ」を理由に契約をためらった伊良部を入れた。
  3. 全ポジションを取りきり自由にして誰にも「レギュラー(既得権)」を約束しなかった。
  4. 2番を打たせたかった藤本を岡田彰布コーチの進言を容れて8番にまわした。

 これらの施策に共通するキーワードは「適者生存」「競争原理」「機会流動」などだ。さて、石播の変革を阻むであろう抵抗勢力を以下にあげておく。読者の参考になれば嬉しい。

  • 下克上・・・上位権力を手段を選ばず、詐取しようと考える人
  • 牢名主・・・威圧感が強く、武威によって部署を私物化する人
  • 高師直・・・技術、情報、人脈を私物化して他にわたさない人
  • 優等生・・・すべてについてよく理解するが危険を冒さない人

 制度の変更によってこれらの人たちのパワーを封じ込められると考えるのは甘い。彼らと命がけの戦いをする「有志」をどれだけ集められるか、それが変革の成否を分ける。

コメンテータ:清水 佑三