人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

ファーストリテイリング 柳井会長兼CEOに聞く
構造改革断行 国際競争に待ったなし
組織・人事一新しグローバル化

2005年7月27日 繊研新聞 朝刊 3面

記事概要

 カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、7月14日、創業者である柳井正会長が社長を兼務するトップ体制と、持ち株会社への移行を発表した。経営の建て直しを図る目的で陣頭指揮をとることを決断した柳井会長兼CEOへのインタビュー。発言骨子は、「現在の延長線上ではグループ売上1兆円の目標は達成できない。キーワードは再ベンチャー化、グローバル化、グループ化」。組織・人事面に関しては、(1)業容の拡大、異なるタイプの人材、彼らが納得する組織や人事制度は三位一体。(2)組織や人事制度の改革はリスクを伴う。勇気がないとできない。(3)やりきるためには(創業者の)独断専行が必要になる。(4)企業が安定することはイコール衰退すること。(5)(4000億売上への)壁は厚く、突破できる目算がたっていない。会社が自分を変えなければできない、など。

文責:清水 佑三

創業者は永遠に安心できない

 ファーストリテイリング(FR)の成績は、2001年8月期をピークにして、以後3年間、(営業利益ベースで)ピーク時の40〜60%台の水準にとどまっている。2001年8月期はフリースが爆発的にヒットしたが、それ以後、こうした爆発的なヒット商品に恵まれていない。

 3年前に自ら白羽の矢を立てた玉塚元一氏に対して、柳井氏は「彼は安定的に成長を求めていた。私としては、もっと変化して成長したいという思いがあった」と14日の記者会見の場で率直に述べている。

 記事中に、「変化して成長するための柳井シナリオ」が紹介されている。業界新聞だけに、内容が具体的でわかりやすい。以下、紹介する。

  • 現在のFRでは、660平米の店舗がもっとも儲かっている。ところが、世界をみると、1650〜3300平米店での戦いになっている。
  • 660平米店で獲得できている利益率を、1650平米の大型店(ユニクロプラス)で達成する、が挑戦課題だ。
  • それができれば世界制覇が可能だ。ユニクロプラスで大成功しなければならない。
  • 戦いの帰趨を決めるのは一にも二にも「商品力」だ。商品は相対的によい、ではダメで、絶対的に良いものでなければダメだ。その開発力をつけることが勝負のポイント。

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 かかる認識をもっているのに、「彼は安定的な成長を考えている」とした玉塚元一氏を自分の後継者に指名したのは何故か?筆者の関心はどうしてもそこにゆく。

 筆者の想像は単純だ。次のようになる。

  1. 自分が創った自分の財産を失いたくない。
  2. 確実に成績をあげてきた人を(後継に)指名したい。
  3. その人が変革の指導をしてくれて、さらなる成長を遂げてくれたらうれしい。

 そうは問屋がおろさない。ではどうしたらよいか。自分でもう一度設計図をひきなおさないとダメだ。

 ヒントはグローバル化、グループ化にある。次のような記事中のコメントに自然に目がゆく。

  • 独力でやってきた海外事業はようやく単年度で黒字になったが、事業として成り立っているとはいいがたい。
  • ラグジュアリーブランドを除けば、自国以外で高い収益をあげている企業は世界的にみてない。GAP、H&M、ザラなどもしかりだ。
  • 逆にいえば、それを実現するノウハウをもてば「次の勝者」の地位にたてる。
  • そのノウハウはみつかりつつある。具体的には、1年半前の「セオリー」グループへの投資だ。そこから、東証マザーズ上場の「リンク・セオリーホールディングス」が生まれた。
  • すでに時価1100億円になった。(筆者注、FRの現在の時価総額は約7000億円)。
  • この成功事例はヒントになる。自分でやろうと思うから、その国の本当に重要な情報が手に入らないでうろうろする。インサイドに入らない限りダメだ。
  • その国の優れた企業をみつけ、合弁・買収したりして「優秀な経営者」を得る方向が、インサイドに入るという意味だ。それができれば世界で使える商売のインフラが手にできる。

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 要約すれば、自国以外で高い収益をあげられる大型店の経営ノウハウの獲得が最優先であり、そのために独力路線を放棄し、一緒にやれば急成長できる企業を世界中で発掘してグループ化してゆく道を選択しよう、となろう。

 筆者には、なぜラグジュアリーブランドでは自国以外で高収益をあげることが可能で、生活密着型商品ではそれが難しいかが解明しきれていないように映る。

 このまま突っ走っていって、1兆円、15%の営業利益率、の目標達成ができるかは不明。

 柳井正会長は、持ち株会社と事業会社の両方のトップにたつ。1、2年後には事業会社のトップを見つけ正常な形に戻したいという意向を(同じ記者会見の場で)表明している。

 この記事中の柳井コメントから予言するに、強力な商品開発力をもつ欧米企業を率いた実績をもつ外国人に、近い将来、2回目のバトンタッチが行われるだろう。

 玉塚元一氏の名誉のためにいえば、FR社長就任後の彼の施策は(爆発的なヒット商品をもってしまった会社の後継社長として)適切かつ妥当であり、営業利益の数字の推移をみても十分に成果をあげていることがわかる。

 創業者のスタイルと衝突事故を起こしてしまっただけだ。創業者の夢と狂気は、普通の堅気なビジネスマンにはわからないものである。

コメンテータ:清水 佑三