人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

NEC
國尾武光執行役員兼中央研究所長
次に飛躍へ R&D戦略を聞く(6) 若手も業績次第で厚遇

2004年8月19日 日経産業新聞 朝刊 6面

記事概要

 NECの國尾武光(中央研究所長)氏へのインタビュー記事。次のようなコメントを引き出している。「NECは、若手研究者でも顕著な業績をあげた場合、所長とほぼ同等の処遇である主席研究者に抜擢する。暗号を使った安全な電子投票システムの研究開発を推進する佐古和恵氏など主席研究者は現在10人。中には、30代の人も含まれる。主席研究者という肩書きはあくまで成果に与えるもので、肩書きをもっても成果が出なくなれば肩書きを剥奪することもある」「特許に関する報奨制度では上限を設けていない。会社を辞めた後でも個人の権利として継承できる。これまで当社の報奨制度が原因で辞めたり、訴えられたりしたことはない」等と語った。海外での研究の取り組みについては…

文責:清水 佑三

報奨制度の狙いは世界の頭脳の動員

 國尾武光氏の取材記者へのコメントは単純明快であり、NECのR&Dに対する取り組み姿勢が透けて見える。次のような発言が目をひく。

  • 関西研究所では隣にある奈良先端科学技術大学院大学と3分野で共同研究している。
  • 奈良先端科学技術大学院大学との共同研究のテーマはインターネット技術である。
  • 大阪大学とも同じような取り組みを進めている。
  • 教官を嘱託社員として雇っている。
  • 嘱託社員であっても成果を出せば報奨金を出す。
  • 携帯電話などモバイル技術は中国でR&Dを進めている。
  • 中国の大学生は活気がある。優秀な人も多い。(彼らの)重要度は増す。

 このように記事中のコメントを並べかえてみると、(NECの)R&Dトップの考えがだんだん見えてくる。

 大胆な推測をすれば、NECは携帯電話のモバイル技術で中国の頭脳に大きな期待を抱いている。武器は特許に伴う報奨制度だ。会社との関係が切れても金が入ってくる制度にすれば、(中国の)優秀な教官や学生から最大限の貢献を引き出すことが可能になる。頭脳がつむぎだす成果を会社が正当に評価すればよい。

 中国の(大学や教官)との間で強固の関係構築ができればR&D部署の先は明るくなる。

 この着眼の正しさを裏付けるデータがある。

 アメリカのNSF(National Science Foundation)が出している“Science and Engineering Indicators 2000” という調査結果である。ちょっと古いデータであるが、全米大学のコンピュータサイエンスの分野の研究者(教官)の出身国別統計でインドと中国が突出している事実がデータで裏付けられている。

 インド、中国で研究成果をあげた人たちがアメリカの大学で教官の地位に就いていると考えれば、インド、中国の(コンピュータサイエンスの)裾野の広さがよくわかる。

 インド、中国の優秀な大学や研究機関との間で強固な信頼構築ができたと仮定しよう。コンピュータサイエンスの分野で多くの知的所産を手にできる可能性がひらける。國尾武光氏の言っていることは単純であるが、優れた未来のR&D戦略である。

 問題は「知的所産」を「金」にかえるメカニズムである。どんなに優れた発明、発見であってもそれだけでは「金」をうまない。石油資源にたとえれば、潜在埋蔵量をもつ油田とメジャー(石油資本)がかけあわされてはじめて「金」になる。

 NECの存在理由は、石油資源の例でいえば、メジャーの役割だ。油田をみつけ、投資し、採掘された石油・ガスを需要者に届けるインフラストラクチャーとして自己定義をすればよい。メジャーにとって、世界のどこに潜在油田があり、その利権を牛耳るものが誰か、彼らにどのようにして近づくか。情報戦が先にくる。

 國尾武光氏から、従来の研究所長のイメージとはまったく違う何かが伝わってくる。まさにIntelligenceの戦いの指揮官の姿である。その関係構築の武器は特許報奨の仕組みにある。

 よい取材記事である。

コメンテータ:清水 佑三