人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
東京海上日動リスクコンサルティング
企業のパフォーマンス向上支援 モチベーションリスク評価
2005年10月18日 保険毎日新聞 朝刊 1面
記事概要
モチベーションリスクとは、不祥事、過失、モラルダウン、錯覚的意思決定などの人的要素に起因する経営リスクをいう。東京海上日動リスクコンサルティング(TRC)は、10月から、新たな事業サービスとして、従業員の業務遂行意欲の低下により発生し、事業運営の重大な障害となる組織のモチベーションリスクを評価するサービスを始めた。調査は、動機づけ理論を基に設計した10分野80項目からなる質問に対して「危険の実感」「引き起こされる事態の深刻度(影響)」の度合いを回答してもらう記入式のものと、記入式調査の結果を基に行われる、個別的な背景、要因、現状等を探るヒアリング式のものとからなる。調査結果を分析し、人的要素に起因する経営リスクを回避するための「マネジメント課題」を特定し、その優先順位づけを行い、経営の対応方針の策定を支援する。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
人心の荒廃度を測るツールの出現
コメンテータ:清水 佑三
保険毎日新聞というと、どうしても「毎日新聞」グループとの関係を想像してしまう。保険毎日新聞社では、自社のホームページ上で社名の「毎日」は「Daily News」の意味で、毎日新聞社と関係ありませんとわざわざ断っている。
生命保険、損害保険両業界で半世紀以上、日刊専門紙を発行し、業界で「保毎(ホマイ)」を知らないものはない(とも書いている)。
新聞、図書とも直販方式をとっているので、一般には馴染みがない。新聞を購読する人には過去の記事を「HomaiWeb」で検索できる。便利な世の中になった。
ところで、この記事は出色である。新聞記者は(一般紙、専門紙を問わず)価値ある社会の新しい動きに対してかく敏感であってほしい。記者がまさに、社会の木鐸(ぼくたく)としての役割を果たしているからだ。なぜか。
(この記事によって)
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逆算方式でこのツールの価値を紹介する。記事中にある記述を筆者の流儀で解説しただけだ。
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参考までに、人心の荒廃を招くおもな心理的要因についての筆者説を列挙しておこう。ベンチがアホやから、のアホ・リストである。(以下は筆者の自著『どうすれば「最強の人事」ができますか』東洋経済新報社、26ページからの引用)
どうして私ももっとうまく使ってくれないんですか、は悲痛な叫びである。白紙委任状の提出を受けたと思い会社はトンチンカンな場所に自分をおいている。どこまで続くぬかるみぞである。
自分のレベルにあった報酬ならどこでも貰える。ちょっとだけでも色をつけてくれれば気持ちよく働けるのに、ほんのちょっと削るようなさもしいことされるからいやなのよ。
多くの人にとって、生涯にわたって安定的な生計を維持するためには、交換可能な能力を少しづつレベルをあげながら身につけることしかない。使い捨て思想はほどほどにして、こちらの気持ちも少しはわかってください。
会社は仕事をする場であって「忍耐心養成所」ではないと思います。意味がよみとれない、ただの思いつきのような改革はやめてください。やるならわかりやすく説明して同意を得てやりなさい。
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東京海上日動リスクマネジメントの新サービスは、多くの引き合いをもつだろう。問題は、得られたデータの活用コンサルテーションの質にある。
サービス提供者側は、このツールによって、従業員のモラルダウンを引き起こす組織構造上の欠陥、隘路、障害を特定できるとしている。
そこまでは実感値として、誰もが漠然と感じとっていることの定量的裏付けで、意味や価値がなくはないが、千里の道の最初の一歩に過ぎない。
問題はそこから先だ。医療の世界でいえば、ある患者について病変がどこにあるかまではつきとめがつく。その種類についても知見を導ける。どうやってその人を治癒するかが真の問題だ。
そこから本当の意味での「コンサルテーション」が始まる。患者にあった治療計画づくりは、データベースから一意には導けない。
心ある医師の側の「経験、失敗、研究、挑戦」というサイクルの幅と厚みがあってはじめて可能になる。
東京海上日動リスクマネジメントに限らずその段階までサービスのレベルが届くために早くても10年はかかるだろう。