人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

三菱ウェルファーマ
製薬合併の課題(中)=新人事制度に磨き
製品数増え営業は後手

2005年6月15日 日経産業新聞 朝刊 10面

記事概要

 三菱ウェルファーマは、2001年10月にウェルファイドと三菱東京製薬が合併して生まれた。両社の淵源を遡ると吉富製薬、ミドリ十字、東京田辺製薬、三菱化成、三菱油化の5社が登場する。合併後のMR(医薬情報担当者)数は、国内10位に入るが、開業医と100床未満の勤務医を対象に実施したMRの医師訪問回数調査では15位、時間を割いても面談したいMRがいる製薬会社ランキングでは上位20位に入らない。営業担当の島義尚常務執行役員は「幅広い製品の知識習得を優先したために、受身の営業になりがちだった」と分析する。別な理由もある。主力の脳梗塞治療薬「ラジカット」の副作用問題である。副作用についての医師の質問に対して丁寧に答えれば答えるほど、どうしても守りの営業になってゆく。立て直しの鍵は、強化商品の絞込みと評価基準の変更だ。合併当初20前後あった「主力商品」をMRひとりあたり4つに減らした。評価制度は「規範となる行動パターン」の種類を減らした。売る商品、売り方を絞って、人数増を営業強化に結びつける作戦である。

文責:清水 佑三

合併を重ねてきたゆえの知恵がある

 三菱ウェルファーマの社長以下の片言隻句は経営の任にある者に、たくさんの「考えるヒント」を提供してくれる。特に組織の再編について。以下にあげてみる。

  • 人事制度は企業文化や風土を反映する。合併前の会社のどれかに揃えたり、つまみ食いしても結局うまくゆかない。まったく新しい企業文化や風土を創造して、それを反映する人事制度をつくらないといけない。
  • 吉富とミドリの合併時は営業部門の統合に1年かけた。三菱ウェルファーマは、発足後半年で同じことができた。学習したからだ。経験はスピードをうむ。
  • 出身母体が多いほど競争意識が働く。多重合併は効用が大きい。合併を繰り返すべきだ。
  • 合併前の会社の得意分野が重ならない場合、研究開発で相乗効果を生む可能性がある。競争力のある新薬が登場することもありうる。
  • 逆に、営業分野では力の分散という危険が発生する。取り扱う薬品数が増えてゆくと、ひとつひとつの薬品に対する(品質の)確信が希薄になってゆく。医師に会うのが怖くなる。
  • ならば、合併効果を新薬開発に特化して考え、営業分野では、MRの担当分けの工夫でデメリットを減らすべきだ。
  • 営業対象の200床(ベッド)以上の医療機関を、救急医療と非救急医療の2つに分けたほうが効率がよい。
  • その分け方をすると、MR1人あたりの「主力製品数」を劇的に減らすことができる。他の分け方だと大きくは減らせない。今後、合併効果が会社の成績にあらわれるだろう。

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 複数の企業によってなされる合併の問題は、企業内の組織の統合問題と同期している。三菱ウェルファーマの合併経験で確認されたいくつかの原理原則は、組織内の部署統合(組織再編)問題に応用できる。次のようなルールをもてばよい。

  1. 組織は統合、再編を繰り返したほうがそうでないよりも強くなる。
  2. 統合によって、固定化した組織では生まれない「新しい価値」の創造を狙える。
  3. 統合、再編することで生まれる別な危険がある。その危険を放置すると統合は失敗する。
  4. 危険に踏み込み、それを利得に変える「発想の転換」ができたら1+1=2以上になる。
  5. 統合後の組織の文化、風土の問題は重要である。過去をひきずらないほうがよい。
  6. 有効な手段は、今までと違ったシンプルな評価基準の導入である。

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 現有体制のまま、企業を飛躍的に大きくすることは不可能だ。同じやりかたをして得られる利益は、時間と反比例するからだ。

 統合、合併を繰り返して、そこで得られる利得を最大化させ、そこで遭遇する危険を利得に変えるノウハウを身につければ、今までにない「大化け企業」が誕生する。

 秘密は、一にもニにも「合併を好み、合併を繰り返す、合併のプロ」を志向する考え方にある。示唆に富むよい記事である。

コメンテータ:清水 佑三