人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

NEC、仕掛ける人事部 ユニーク施策 三つのMで殻破る

2005年5月31日 日経産業新聞 朝刊 1面、26面

記事概要

 NEC人事部は、従来の(大企業)人事部の枠を超えたユニークな施策を次々と打ち出している。施策を横断するキーワードは、三つのMと呼ぶ、メッセージ、モチベーション、マーケットである。人事部の中谷直樹勤労統括マネージャーは、「人事制度は会社から社員へのメッセージを伝える手段。制度を作るときには会社の強い思い入れ、意思がまずなければならない。メッセージ性がないと(制度が)社員の心に響くことはありえない。人事部の自己満足に終わる」と語る。二つめのキーワードであるモチベーションとは、制度を立案する人事部員のモチベーションを高めることの重要性についての認識。具体的には人事部員がいいアイデアを出したら会社として商標登録をおこない、発案者のやる気をさらに喚起する。最後のマーケットとは、オウンユース(自社利用)を前提にしてつくった人事ノウハウを積極的に外部に売る方針をさす。NECが本業で扱う人事関連の情報システムに人事部がつくった独自の「評価ノウハウ」「風土サーベイ」などを組み合わせて、ソフトだけで3年間に10億まで売る、という目論見がそれにあたる。(国司田拓児記者)

文責:清水 佑三

人事部は動く広告塔か?

 三洋電機の代表取締役 会長兼CEOに、テレビキャスター出身の野中ともよが起用されたニュースには正直いって驚いた。野中ともよの才媛ぶりは、政府の審議会委員を40以上こな してきた事実でよくわかる。そのほか、アサヒビール、ニッポン放送、三洋電機の社外取締役を務めてきた。抜群の頭の回転と会議での歯に衣着せない野中の指 摘の的確さはつとに有名だ。

 株主総会の決議に基づいて経営上の意思決定を下す取締役会のリーダーに、企 業経営の経験がない野中ともよを選んだ背景に何があったのか。創業以来の大赤字を出した三洋電機の再生にリーダーシップをとってくれとの期待があったとは 思えない。「大赤字で暗くなりがちな会社イメージの転換」への期待があったことは容易に想像できる。動く広告塔としての役割期待だ。

  同じことが「NEC、仕掛ける人事部」と見出しされたこの記事からも感じ取れる。人事部が中身よりもパッケージ(包装)を売り物にしだしたという印象だ。 この記事中の囲みで紹介されたここ数年のNEC人事部の新制度導入への挑戦リストを下に示す。残念なことであるが、このリストには、世界の多国籍企業の人 事マンの耳目をそばだたせるインパクトのある施策は見当たらない。

 NEC人事部の制度導入の動き(記事より転載)

  • 社内人材公募制度('88)
  • 育児休暇制度、介護休暇制度('90)
  • 人事考課のモノサシにハイパフォーマーの業務プロセス近似度を使うプラクティス制度('00)
  • キャリアアドバイザーの設置、10年目の「節目研修」開始('02)
  • 学校行事への参加を認めるファミリーフレンドリー休暇制度('02)
  • 子育て支援の目的で親が近隣に引越しをすることを支援するチャイルドケア制度('05)
  • 35、45、55歳の社員へ、キャリア開発資料を贈るキャリア小包制度('05)

***

 三つのMのうち、マーケットのMを取り上げて、記事で紹介された目論見がいかに「空想的なもの」であるか、自分の経験をもとに言及しておきたい。おして知るべしという思いだ。

 次のような点がひっかかる。

  • コンサルティングの担い手はNEC人事部出身者 ⇒ 特定企業の法務部員を長く勤めてきた者が、一念発起して法律事務所を開くようなもの。多様な事例、経験を通してのみ得られる専門的知見は期待できない。ブランド形成に苦労するだろう。
  • 主要なコンサルテーション商品は「評価制度づくり」 ⇒ NECグループ会社は、新事業部に相談すると思うが、競合他社につながる企業は、会社経営の奥の院である「評価制度」をNECグループに開示しっこない。市場は最初から限定される。
  • もう一つのコンサルテーション商品は「新人事制度導入後の社員の定期的意識調査」。検証と改善が売り、とあるが、検証された改善効果とはNECの経営成績になろう。コンサルの効用はNECの経営成績で頭うちにならざるをえない。果たして市場は飛びつくか。
  • 多 くの社員を抱えるNECでないとできないサービスを提供する ⇒ これもすぐ上で述べたことと同じで、検証された改善効果が説得力になろう。GEの「選択 と集中」という指導的理念はGEの成績の裏打ちがあってはじめて市民権を得た。それにあたる神話がない限り、クスリでいう薬効を訴えるには不十分。

 行動する人事部、をという意欲は評価できる。メッセージを届けるのが自分たちの仕事という自己概念もそのとおりである。

 しかし商品としてノウハウを売ろうというのであれば、そのノウハウを用いた自社が破格の成績をあげて、その秘密の一端を公開する、というストーリーが必要だ。こうした神話がないところでのプレスリリースは、人事部=動く広告塔という印象だけをあたえかねない。

コメンテータ:清水 佑三