人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
社保庁 改革へ新人事 重い処分の職員降格
2005年5月1日 産経新聞 朝刊 23面
記事概要
社保庁は、(2005年)5月1日づけで、不祥事が続く同庁の改革への試みとして、かつてから弊害が指摘してされていた(出向)厚労省キャリア、本庁採用職員、地方採用職員という重層的、固定的な身分構造にメスを入れる人事異動を行うとともに、減給以上の処分者に対して降格するなど思い切った人事異動を行った。説明された主な内容は、本省キャリア組の(二年間の)出向期間を流動化する、本庁採用職員について従来の順送り昇進制度の見直し、地方採用職員の積極的な幹部登用など。そのほか、管理部門重視型であった考え方をあらため事業実施部門重視に変換させる、課長→課長補佐→班長という指揮系統の「班長」ポストを廃止しスピードのある意思決定ができるようにするなど。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
綱紀の粛正のまえにやるべきこと
コメンテータ:清水 佑三
いきなり私ごとで恐縮であるが、社保庁についてはいやな思いばかりをさせられてきた。ひとつの例をあげておく。
死去した義父の件で、社保庁から葉書がとどき、重要な連絡事項があるから次の電話番号に至急連絡をとられたし、とあった。
いくらかけても「ただいま電話が混み合っています。おかけなおしください」でつながらない。いったい何回電話しただろう。同じ思いをしているたくさんの国民がいるに違いないと思った。
一事が万事である。
明るみにでた同庁に関する不祥事を2、3紹介したい。推して知るべし、である。日付や出典明細はうるさいので省く。
実質的な人事権をもつ課長に監修料名目で手にした500万円をプレゼントしたというもの。
見出しのような就業条件が労使間で締結されていたことが自民党の合同部会で明らかにされた。
年金納入台帳を(未納者を知る等)目的外に閲覧した廉で2004年度に16件の行政処分を受けた。処分該当者は(同年度だけで)330人にのぼる。
氷山の一角であろう。こうした記事が何を語るか。
***
60年前に終結したいわゆる先の大戦においてなされた日本軍の愚行と、社保庁の愚行は完全にオーバーラップしている。筆者が好む修辞でいえば、相似形をしている。一言もってこれを覆わば、「合理的思考の欠如」である。
責任感、倫理観の欠如ではない。そんなものはもともと誰にも備わっていない。合理的思考によって自分の欲望、劣情にブレーキをかけるしかないのだ。
三野正洋の『日本軍の小失敗の研究』(光人社)によれば、日本軍の目的的思考、合理的思考の欠如を示すものとして次のような例があげられている。
***
社保庁改革の手順は次のようにして行えばよい。今までの人事異動様式に流行の色をつけていたのではてぬるくまた遅い。
人事とはキャスティングのことをいう。キャスティングの前に、優れたシナリオ、台本がなければならない。
重層的、固定的な身分制度にメスを入れても、シナリオがない限り改革はすすまない。シナリオづくりが先である。