人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

大塚商会
過去の試験データ分析 採否判定に情報システム

2005年3月3日 日刊工業新聞 朝刊 27面

記事概要

 コンピュータ、複写機、通信機器等の専門商社である大塚商会は、システムインテグレーションや受託ソフトウエア開発等の事業分野への進出に伴い、面接中心の新卒採用手法の見直しに着手した。具体的には、蓄積してある過去の採用試験データを分析し、事業分野・職種別に職務適性を定義し、職務適性の(推測)保有度をもとに志望者の採否判定を行う。面接官の主観に頼る手法だと従来の中小企業を対象にした事務機器営業に向く人材に目がいってしまい、技術力やコンサルテーション力をもった人材を落としてしまう危険がある。今年度から試験的に利用をはじめ、結果をみて来期以降に本格導入する

文責:清水 佑三

勇気がないとできない挑戦 −職務適性重視採用−

 大塚商会の公式ホームページによれば、大塚商会の事業内容は

  1. システムインテグレーション事業
  2. コンピュータ、複写機、通信機器、ソフトウエア等の販売
  3. 受託ソフトウエア開発
  4. サービス&サポート事業
  5. サプライ供給、保守、教育支援

である。

 ここから少なくとも5つの異なる仕事があるとみてよい。1ユーザーに対して包括的にこうしたサービスを行えた場合、自社ハードにこだわるメーカーの競合と比べ優位性をもてるだろう。

 人的資源評価にかかわる立場から整理すれば、大塚商会には次の四つの違った種類の働き手が必要となる。

タイプI エンジニア(3)
システムエンジニアと呼ばれる人たちが主にこの範疇に入る。顧客の業務の仕方を抜本的に変える手助けをすることによって、(顧客の)有形無形の価値創出に 貢献する。たとえば、銀行の窓口やATMで行っていた振込み等の手続きが、インターネットを使ってできるようにするという課題がわかりやすい。それができ れば、銀行も利用客もともに利益を享受できる。安定的で信頼できるネットバンキングシステムの構築を任せることができるエンジニア(の卵)とはどういう人 だろうか。

タイプII 営業(2)
どんなに優れた商品をもっていても、タイミングよく、それを必要とする顧客に、双方が折り合える値段で、迅速に供給する「営業」機能をもたない限り、宝の 持ち腐れになる。どこにそういう顧客が潜んでいるか、鋭敏にかぎわける鼻をもっている人がいないといけない。また、犬も歩けば棒にあたる、のフットワーク がないと顧客に邂逅するチャンスは巡ってこない。おいしい顧客ほど厳しい競合相手がいる。コンペに勝ち抜く優れたプレゼン能力もいる。そういう人をどう やったら見抜けるか。

タイプIII インテグレーション・サービス・教育支援(1、4、5)
この三つの仕事はちょっと見では別々に見える。しかし、多くの企業で行った分析結果をつき合わせてみると、(人的資源的には)重なる部分が大きい。本社の 企画部門や管理部門の人たちとも重なる。仕事のなりたちが同じなのだ。国家・自治体の行政サービス従事者もこのグループに入る。効率的に安価に相手が求め るものを供給する「調整機能」に本質がある。バランス型といわれる人たちが向く。

タイプIV 保守(5)
なり手が少なく、教育がむずかしく、しかもブランドへの影響の大きい「難所」のような仕事領域が保守である。上の三つの仕事に比べて職務適性が極端に定義 しにくい。たとえを使っていえば、ジャンボ機の機長に求められるものをもっていないといけない。航空法制、ジャンボ機の構造、機能、操作等に熟知している こと。自動運転中はぼおーっとしていられること。機内のクルー、乗客の生理・心理に誰よりも通じていること、いったん不測の緊急事態が起こった場合は、 007顔負けの認知・判断・行動能力をもたないといけない。そんな人はいないよ、ということになる。

 厳密に職務適性を定義すればするほど、面接でそれを見抜くのは難しくなる。なぜなら、面接は「主観」を媒介にする弁別手法だからだ。主観はつきつめると生理的な好き嫌いに帰着する。

 面接学70年の歴史は、たくさんの研究によって、職務適性を見抜く上で、いかに面接という手法が信頼性に乏しく、妥当性に欠けるものかを証明してきた。にもかかわらず、人は面接によって採用を行うことをやめない。選挙、裁判と同じである。

 大塚商会が、過去の入社者の適性テストの分析から、

  1. 職務別の適性の抽出に成功し、
  2. 多くの面接信仰者の反対をおしきって、
  3. 職務適性保有者の序列を基準にして、
  4. 新卒選考を行ったと仮定してみよう、

 主観面接によって採用を行っている同業他社に比べて、若年人的資源層の形成という意味で圧倒的に優位にたつことは間違いない。あとは教育である。それさえしっかりしていれば、他を圧する結果が出るのは目にみえている。

 壁は、一にも二にも「面接でいっしょにやりたいと思う人を採る」という多くの企業人が無意識または強固に抱く信仰または願望である。

 それを突き崩した時に、はじめて、職務別採用の時代がくる。プロがプロとしての資質を見込まれて採用され一人前のプロに育ってゆく企業社会が現出する。

 大塚商会は時代を切り開くパイオニアになる。

コメンテータ:清水 佑三