人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

JR東海
運転士さん若返り 来年度から

2005年2月18日 読売新聞 朝刊 2面

記事概要

 JR各社は総合職とは別に運輸部門の現場社員を採用し、社内試験によって、駅員→車掌→運転士の順に昇進させる旧国鉄時代の人事制度を用いてきた。JR東海は、来年度から駅員、車掌、運転士の年齢構成の歪みを是正するために、この伝統的な昇進制度を廃止することを決めた。JR各社の中では初の試み。JR東海によれば、昨年4月現在での年齢構成は、駅員が(あらましで)2500、車掌が1800、運転士が2200人いる。新しい人事制度では、駅員、車掌、運転士を2年づつ経験した後、30歳代半ばまで車掌か運転士のいずれかに従事させ、その後、ふたたび駅員に戻すなどの配置を進める。JR東海は、運転士の若返りのほか、後輩の指導ができる中堅駅員が増えることで利用客へのサービス向上につなげたい、としている。

文責:清水 佑三

今までやってきたやりかたのどこがおかしいか?

 わずか36行1段の記事であるが、見出しが大きく、またイラストもつけられていて、文章量のわりには厚遇されている記事だ。

 イラストは「運転士さん若返り」の見出しのとおりで、並走する電車の運転士どうしが顔を見合わせて「おっ、若いな、よろしく頼むよ」「先輩、よろしくお願いします」と(吹き出し的な)文がついている。

 この記事はいろいろな角度から考えさせられるものを含む。どんな点か。

1. 運転士の職務適性
つい先ごろ(2月17日)放映されたNHKテレビ番組『難問解決!ご近所の底力−事故を防げ 高齢ドライバー』でも、数々の実験を通して、高齢者の生物的能力の劣化が明らかにされ、交通事故との関連性がとりあげられていた。車と電車の違いはあっても運転士として共通する部分はあるだろう。どうして車の運転では、高齢者=危険となり、電車の運転だと、高齢者=ベテラン=優遇となるのだろうか。

2. 駅員よりも車掌が偉い
駅を勤務場所とする現場系社員を(JR各社では)駅員とよぶ。総合職としてではなく運輸部門職として採用した新卒現場系社員は、駅員から業務をスタートさせる。JRの駅員に若い人が多く見られる理由である。一定の期間、駅員としてのキャリアを積むと試験を受け、合格者は乗務員(車掌)に昇進する。スキル的には水平的な職種変更であるが、垂直的に昇進として位置づけているところが要注意だ。

3. 車掌よりも運転士が偉い
客室乗務員とコックピット内クルーズがキャリアパスとしてつながっている。車掌の中で試験に合格した者だけが運転室に入って電車を動かすことができる。飛行機の世界では起こりえない話だ。なぜなのか?飛行機と電車では何が違うのか?車掌よりも運転士が偉いという根拠をあげよ。

4. 運転士になったら定年まで降りられない
記事の中に、旧国鉄時代に創られた運輸系社員のキャリアパスが紹介されている。そのまま紹介すると「運輸系社員は、社内試験を受けて、駅員→車掌→運転士の順に昇進するが、運転士への試験は難しく、いったん運転士になった社員は(定年)退職まで運転士一筋というケースが多かった」。結果として、駅員は若者ばかりが目につき、運転士は年配者ばかりが目につく。どうして運転士になった人は駅に降りて駅員の仕事を楽しめないのか?

5. ベテランを駅に戻せばサービス向上になる
新しい人事制度のポイントは「中堅社員を駅に配置することで駅員のサービス向上につなげる」である。本当にサービスがよくなるのか。先日も東海道新幹線の車内で忘れ物をして、東京駅八重洲南口にある「忘れ物センター」に行った。あらましのことを口頭でいったら、年配の窓口おじさんが全部話し終わったところで「紙に書いてください」という。紙に書いて渡したら、「ああ、東海道新幹線ね、こちらではないです。こちらは東北・上越・長野新幹線です。奥のカウン ターにいってください。紙が違うから、その紙は捨てましょう」だと。若い気のきいた女性なら、まず、こちらが東海道新幹線で、といったところで、奥に行ってください、といっただろう。

6. 駅員、車掌、運転士というくくりかた
JR東海の新人事制度では、駅員、車掌、運転士の仕事を2年づつ体験した後、原則として30歳代半ばまでは全員が車掌または運転士を勤めさせる。3年目以降の社員は、電車に乗ってしまうのでその分、駅員が少なくなる。その穴を30歳代半ば以上の電車から降りた人たちが埋める構図だ。従来の駅員、車掌、運転士というくくり方をそのまま継承していることが気になる。適材適所を実現するポイントは仕事の分類法が(働く人の性質を映す点で)適切かどうかにある。も しそれがあいまいだとすると、人を配置する作業もまたあいまいにならざるをえない。新しい酒は新しい皮袋に、という古言を思い出すべきだ。

 漠然としての考えであるが、駅員、車掌、運転士というくくり方をやめて、現場系社員の仕事を次の二つに分ければよい。

タイプ1 安全運行にかかわる仕事
タイプ2 顧客サービスにかかわる仕事

タイプ1では、ジャンボ機の機長に求められる資質が優先する。
タイプ2では、よい百貨店の店員に求められる資質が優先する。

  それぞれの資質を具体的に定義してゆき、タイプ1、2内でのキャリアパスの設計を行って、昇進、昇格の仕組みをつくればよい。人的資源のなりたちを調べている者の立場でいえば、タイプ1と2をいったりきたりするキャリアパスの設定は、制度目的を果たす上での現実性と有効性において「?」が残る。

コメンテータ:清水 佑三