人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
シチズン時計
4月から人事・教育制度一新 「時計学校」に集約 成績、昇給に連動
2005年2月3日 日経産業新聞 朝刊 23面
記事概要
シチズン時計はこの4月から時計事業の社員教育のやりかたを大幅に変える。従来から「時計学校」という名称のもとで時計に関する技能研修を行ってきた。しかし、不定期開催であり、講習内容も体系的とはいえなかった。それを恒常的な組織として位置づけ、各事業部や子会社に委ねていた社員教育部分をすべて新「時計学校」に集約する。「時計学校」での成績を個人の業績評価のベースに据えることで、技術立社の方針をより徹底させることと、技術習得に向けて社員のモチベーションを高める。たとえば同社の最高級時計である「The CITIZEN」の組み立ては、時計学校のカリキュラムの最高ランクである「S」資格保持者でなければできなくなる。こうした「資格(技能・技術)」と「仕事」を連動させ、さらに給与等の処遇に反映させる考え方は、時計修理士や機械加工といった技能職だけではなく、時計事業にかかわる開発、管理、マーケティング部門のホワイトカラー層にも順次、適用してゆく。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
名工がブランドを作る。ホワイトカラーの名工をつくろう
コメンテータ:清水 佑三
シチズン時計は、社名に時計を残してはいるが、いまや時計の専業メーカーではない。オプトデバイス分野と呼ぶ領域(カラー液晶用のバックライトユニット、 LED ランプ、カメラ付き携帯電話向けの補助光源用LEDランプ等)で世界的に存在感を強めているほか、独自の精密加工技術を日本の主要な自動車、デジタル家 電、精密・医療機器等のメーカーに安定的に提供している。カメラのキヤノンの変貌に似ている。
公式ホームページ上での05年3月末の決算予想も4000億円の売上で10%以上の営業利益を見込んでいる。10%の営業利益は、一定規模以上のメーカー にとってよほどしっかりした付加価値創出の基盤がないと達成できない。象徴的な壁である。世界屈指の技術資産をもつソニーでさえ(営業利益10%の目標を 掲げながら)達成への道筋は見えていない。
シチズン時計は、優良メーカーの代名詞である10%クラブのメンバーになりつつある。
最近の話題でいえば、技術的に難しいとされていた「非電池&全金属&電波補正」の三つの条件を満たした腕時計をいち早く市場に出して腕時計好きの耳目を驚 かせたのはシチズンである。この分野では、セイコーに技術で勝ち、カシオにはデザインで勝っている。誰がみても文句のない独走だ。
シチズン時計が標榜している「技術と美の融合」は店頭に並ぶ商品をみる限り現実化されている。すばらしいの一語に尽きる。
さて、「時計学校」についての記事に目を向けよう。この記事はシチズン変身の秘密の一端をうかがわせてくれるという意味で興味深い。記事中三つの注目すべきコメントがある。
上の二つはよく理解できる。問題は三つ目の部分だ。この文章を分析し、類推を加えると、シチズン時計の人事改革の姿が見えてくる。
機械加工や時計修理の名人たちをつくる場として「時計学校」は位置づけられていない。この学校での研鑽を通して「The CITIZEN」という最高級ブランドに触ってよい人(技能+人格)づくりが意識されているとみる。まさに「よい時計人」づくりである。
ここには、職種の違いを超えて一流のものたちが結集しない限り、最高級ブランドの創造、維持、発展はありえないというシビアな認識が隠されているとみる。ポルシェの、すべては人づくりに帰着する、という認識と同じだ。
ホワイトカラーであっても、「学校での格付けを業績評価の軸に据える」はほかに読みようがない。
よいビジネスモデルをいくらもっても10%の営業利益率は確保できない。すぐれたブランドがそれを可能にする。
すぐれたブランドを創造、維持、発展するためには、すぐれた人によるチームが必要だ。オーケストラと同じで、扱う楽器は違っても技量と態度のレベルは揃っていないといけない。さらに、よい楽譜とよい指揮者が必要だ。
シチズン(トップ)の視線は間違ったところに向けられていない。