人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
大阪ガス
働きやすい会社シリーズ2005=健康第一安心できる職場へ
大阪ガス 研修教材を改良
2005年1月19日 日経産業新聞 朝刊 1面
記事概要
創業100年、社員7000名を数える大阪ガスのメンタルヘルスへの取り組みは1975年に遡る。「社員の幸せに欠かせない条件のひとつは、単に病気ではないといった消極的な状態ではない。心身ともに活気に満ちあふれた積極的な健康こそが大事だ」安田博社長(当時)が長期経営方針として事業戦略にプラスして掲げた社員の「健康開発」が出発点である。1976年、健康開発センターが誕生。爾来、今にいたるまで、大阪ガスは社員の心の病の予防に力を入れてきた。国際的な企業間競争の激化に伴い、職場のストレス要因はここ10年、増える一方。過重ストレスはうつ病につながることが多い。最悪の場合、うつ病患者は自殺することもある。本人、家族の不幸だけでなく、企業イメージを落とす。職場のメンタルヘルス対策に真剣に取り組むことは、企業のリスク管理にもつながるのである。
文責:清水 佑三
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ストレスに負けないために
コメンテータ:清水 佑三
今の時代を特徴づけるたくさんの言葉がある。「ストレス」という言葉もその一つだろう。記事中においても、(1)年功序列型賃金制度の廃止、(2)成果主義の導入、(3)企業間競争の激化、などの世相の変化が職場のストレスを高める要因としてあげられている。
そもそも医学的にストレスとは何をさすのか。
広辞苑は「種々の外部刺激が負担として働くとき、それをストレスと呼ぶ。外部刺激には騒音などの物理的なものもあれば、過労・睡眠不足などの生物学的なも の、緊張・不安・恐怖などの心理的なものがある」と書いている。生物としての個体をイライラさせるものは全てストレスなのだ。
企業間競争が激化し、年功序列型賃金制度をやめて成果主義型賃金制度を導入する。自分の能力に不安を抱いて、それが日々の心理的負担としてのしかかる。結 果的に睡眠不足・食欲不振、集中力、持続力の欠如となって、仕事の効率をおし下げる。その自覚がさらに緊張や不安を増してゆく。図式的にいえば、こうして ストレスは萌し、日々、増長する。
ストレスに対して免疫的に働くものがある。これをストレス耐性と呼ぶ。ストレスに負けない行動がとれる価値観、知能、行動である。
ストレス耐性は、分解すると次の三つの要素からなっている。
ストレス耐性I 精神衛生第一主義
自分の精神衛生を(よく保つことを)生き方、行動の最優先課題におく価値観をいう。出世よりも金よりも、自分の精神衛生を重視する価値観である。
ストレス耐性II ストレッサー(イライラ要因)に気づく
自分の精神衛生を悪くする原因に対して鋭い問題意識をもち、何ゆえにそれが自分の負担になるのかただしく認知・判断することができる知能をいう。たとえ ば、Aさんという上司の存在のありようすべてが自分にとってストレス要因である、と喝破することだ。
ストレス耐性III 回避行動ができる
自分に負担になるストレス要因を、気にしないですむような「仕掛け」を創造することができる。たとえば、Aさんという上司の存在のありようが自分をして かくもイライラさせるのであれば、人事にかけあって違う部署に配属がえになるように工作する、がそれにあたる。
ストレスに負けやすい、は上の三つの要素において人と比較したときに不足が見られる場合である。たとえば次のような人である。
こうした人がストレスに負けやすい。
したがって、会社が社員に対して行うべき情報提供と対話は、メンタル疾患にかかってしまった人への対応ではない。それでは遅すぎる。
大阪ガスが30年前に掲げた理念と同じ考え方を社員によく見えるように掲げ、それを一歩一歩行動化すればよい。大阪ガスは次のような言葉を使った。
「社員の幸せに欠かせない条件のひとつは、単に病気ではないといった消極的な状態ではない。心身ともに活気に満ちあふれた積極的な健康こそが大事だ」
そのために社員の配置等を預かる人事職掌の人たち、さらに一緒に机を並べる上司、先輩、同僚の一人ひとりが、上であげた三つのストレス耐性について知識をもち、仕事上の業績とそれを両立させる努力を倦まずたゆまず、積み重ね、続けることだ。
大阪ガスの凄さに脱帽する。