人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
ジョンソン・エンド・ジョンソン
在宅勤務導入へ 4月から 子育て・介護支援
2005年1月5日 日本経済新聞 朝刊 15面
記事概要
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)メディカルカンパニーは、優秀な女性人材の定着と登用こそが企業成長のカギを握る(松本晃社長)として、従来からの各種こころみを行ってきたが、あらたにこの4月から「フレキシビリティーSOHOデー(仮称)」という名称の年間20日までの在宅勤務制度の導入を決めた。当日の朝十時までに所属部署長に報告すれば、当日の勤務を在宅にきりかえることができる。育児や家族の介護に従事している社員が対象になる。在宅でこなした仕事内容を出社時に業務報告書の形で提出すれば、正規の勤務として認められる。同社は毎年新卒採用の6〜7割を女性が占め、2002年から育児休暇制度の拡充や在宅研修制度など女性社員の定着や休職中のスキルアップに取り組んできた。女性社員の場合、育児や介護を理由とした休職や離職が多く、新制度の導入をすることで、長期的な人材育成や生産性の向上につなげる。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
女性管理職が4人に1人の会社をもちたい
コメンテータ:清水 佑三
ジョンソン・エンド・ジョンソンの現時点での女性社員比率は29%、管理職比率は14%だという。それを06年までにそれぞれ35%、 25%まで高める計画をもっている。新卒採用での女性比率が6〜7割に達するとあるので、35%まで、女性社員比率を高めることは可能のように思える。難 しいのは、管理職比率を現在の14%から25%まで高めることだろう。
その理由は「コンピテンシーの性差」と呼ばれる問題が障害として横たわるからだ。当社のOPQという測定具による性差研究によれば、管理職登用年代において、以下の14のコンピテンシーに性差の存在が認められる。(OPQコーステキスト)
(女性が男性に劣ると自覚しているコンピテンシー)- 説得性…交渉が苦にならない。人の意見を変えることを好む。
- 指導性…リーダーとなって指揮をとり何をなすべきか人に指示し管理する。
- 率直…自分の意見を自由に述べる。意見を異なる点を明確にし、人を批判することも躊躇しない。
- 独自性…自分のやりかたでやることを好む。多数派の決定を無視することもある。
- データへの関心…数字を扱う仕事が好きで、統計データを分析することを楽しむ。事実や数字に基づいて判断する。
- 批判的…批判的に情報を評価する。潜在的な弱点を探しだす。間違いを探そうとする。
- 創造的…新しいアイデアを生み出す。新しいものを作り上げることを楽しむ。独創的な解決法を考える。
- 好奇心…多様性を好む。新しい物事を試す。決まりきったルーチンワークよりも変化を好む。繰り返しの多い仕事は飽きる。
- タフ…傷つけられにくい。侮辱されても無視できる。批判に鈍感である。
- 抑制…他の人に対して気持ちを隠すことができる。あまり感情を表に出さない。
- 競争性…勝ちたいと思う。競争を楽しみ、負けることを嫌う。
- 上昇志向…野心的で出世を目指している。大きな目標に向かって働くことを好む。
自己概念が行動を一定程度、規定することは事実である。上にあげられた「コンピテンシー」はいずれも状況変革に対して必要なものばかりだ。「変 革」「改革」を企画、立案、指揮、実行管理する位置づけを管理職に与えれば与えるほど、(一般論として)女性性が不利益に働くとみてよい。登用が難しくな る。
一方でその反対のコンピテンシーもある。
(女性が男性にすぐると自覚しているコンピテンシー)- 協議性…広く相談し、意思決定に他の人を巻き込む。自分で一人で決めることは少ない。
- 面倒み…他人に共感し思いやりがある。援助や支持を惜しまない。個人的な問題にかかわろうとする。
- 人間への関心…人の動機や行動を理解しようとする。人を分析することを楽しむ。
- 堅実…十分に確立された方法を好む。よりやりなれた確実な方法をとることを好む。
- 緻密…細部に注目する。整然と段取りよく系統的に取り組むことを好む。
- 律儀…ルールや規則に対して律儀である。明確なガイドラインを好む。ルールを破ることを嫌う。
- 心配性…大切な行事の前に緊張する。物事が悪い方に行かないか心配する。
女性管理職を増やす問題は、上にあるようなコンピテンシーが仕事上の成否につながるような管理職ポジションを新設する問題として捉えるべきだ。「オペレーション」「カウンセリング」「横断的な調整」等が主要な役割である部署がイメージできる。
多くの企業が掛け声だけで(女性管理職比率の)目標数値を達成できないでいるのは、従来型の状況変革志向のもとで女性管理職の登用を考えるから だ。ジョンソン・エンド・ジョンソンの今回のSOHO支援の取り組みをみていうのであるが、この企業は(女性管理職比率の向上を)やり遂げるように思う。
女性への尊敬マインドのようなものが記事中からも十分に窺えるからだ。それがない限り、この問題は看板だおれになってしまうのがオチだ。