人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

新日本石油
社内公募制 来年度に本格導入 新規事業中心に組織活性化狙う

2004年12月1日 日経産業新聞 朝刊 31面

記事概要

 新日本石油の新規事業の売上高は03年度で78億円と全売上の1%に満たない。05年度中に燃料電池の商品化をめざす同社としては新規事業部門に優秀で意欲のある人材をあてたい。年2回の従来の定期人事異動とは別に新規事業部門に限定して全4300人の社員のすべてを対象にした年齢制限をつけない完全公募制度の導入に踏み切った。すでに試験的にWeb部門でホームページの作成・更新を手がけるスタッフを社内公募制を使って募り十数名の応募者から適格者2名を選別しこのやりかたで行けると判断した。手続きとしては人事部がイントラネット上で募集要項を開示し、応募した人の中から書類選考を行い、募集先の部長などとの数回の面接を経た上で選ぶ。3年後にはこの部門をさらに強化し売上高を100億円以上に高めることをめざしている。

文責:清水 佑三

新規事業に向く人とは

 社会経済生産性本部が2002年に実施した調査(「第6回日本的人事制度の変容に関する調査」)によると従業員数が多い企業ほど社内公募制への期待がつよく、5000人以上の規模の会社ではほぼ3社に2社は何らかの形で社内公募制を導入している。

 また、過去の(同じ)データと比較すると、社内公募制導入のスピードが90年以降急速に高まり、大企業においてブーム化している印象がうかがえる。導入の動機としてあげられる理由のトップは、新日本石油と同じで「新規事業に積極的に挑戦する意欲の高い人材を全社員の中からひろいあげたい」である。

 日経新聞4紙に記事検索をかけると新日本石油と同じように(新規事業に限定して)社内公募制を導入している企業名をしらべると、NTT東日本、ソニー、伊勢丹など著名企業が多くならぶ。現代の梁山泊といってもよいかかる一流企業において、新規事業を任せるためには「公募」が必要だという事実に注目したい。

 なぜか?

 天下の大企業に入社し優秀社員という折り紙をつけられる人の特徴を列挙してみよう。(  )は新規事業に向く人の特徴である。

  • 感情的でない。(思い込みが強く感情的に見える)
  • 自分の考えをうまく説明する。(何をいっているかよくわからない)
  • 同じ失敗を二度とやるまいと考える(今度は成功するかもと考える)
  • 信頼できる事実がない限り信頼を控える(すべて自分の直感にかける)
  • 正解がない問題には興味をもたない(正解がある問題には興味がない)
  • 計算できる部下で固める(同じ夢をみる人が集まってくる)
  • 法令、制度、前例を知悉している(知らないことを武器にする)
  • 危険をよける(危険に近づいてゆく)
  • カオスをきらう(カオスを好む)
  • 矛盾をなくそうとする(矛盾に可能性を予感する)
  • 部下を統制しようとする(部下・統制に興味がない)
  • 人脈こそすべてと考える(共感できる人しか興味がない)
  • 喜怒哀楽を顔に出さない(感情を爆発させることに抵抗がない)
  • 差別、セクハラのリスクがつきまとう(その手のリスクは心配がいらない)
  • 叱責していないようで叱責だけをしている(一緒にスタディすることしかしない)

 きりがないからやめよう。

 優秀層の特徴としたのは、筆者が40年近くみてきた人物画である。日本の大企業優秀層の共通的特徴を描写したもの。

 (  )の中は、徒然草第60段にある盛親僧都をモデルにした筆者の創作だ。盛親僧都は吉田兼好によれば、当時の代表的知識人である。この段は真乗院に盛親僧都とてやんごとなき智者ありけり、という書き出しで有名。

 最新学説を次々と発表しつづけたイメージがある。よほど変わった人だったらしいが嫌う人はなかったとも兼好は書いている。

 二つの人物像の距離が開き過ぎているゆえに、大企業は公募して自社に埋もれている盛親僧都を探す以外に手がないのである。むべなるかな、と思う。

コメンテータ:清水 佑三