人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
NPB(日本プロ野球組織)
楽天 なぜ審査に合格?
経済界の後押し決め手 NPB側の好意得る
2004年11月3日 日本経済新聞 朝刊 37面
記事概要
世間の注目を一手に集めた楽天かライブドアかを決める審査小委員会は、11月2日、審査基準を6項目について審査結果を公表した。野球協約遵守、球場施設等、選手コーチの確保、公共財に相応しい企業か、の4項目については「引き分け」の判定、楽天合格の決め手になったのは、「球団経営の継続性や発展性」と「親会社と球団の経営状況の分析」の2項目である。ライブドアの現預金は楽天の約2.3倍、財務の詳細を比較すればライブドアと楽天はほぼ互角だった。前12月期に計上した楽天の526億円の最終赤字については小委員会は不問に付した。経済界の全面バックアップを楽天が受けているという「心理的安心感」が小委員会メンバーに強くはたらいたと思われる。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
おもしろきことのなき世をおもしろく
コメンテータ:清水 佑三
日経のこの記事は正直ですっきりした姿をもっている。37(スポーツ)面だからかけたことがいっぱいあるとみる。
昔から日経のスポーツ面担当の記者には名文章家が多い。短いスペースで感動を表現しなければいけないという制約が他紙と異なる。条件が厳しいほど能力は育つ。
石原 秀樹、唐沢 清、串田 孝義、篠山 正幸、島田 健、鉄村 和之、中越 博栄、奈良部 光則、馬場 到、浜田 昭八、原 真子、山口 大介(敬称略)らがいる。
私は浜田 昭八記者の文章が好きで、彼の署名原稿は大体、切り抜いてもっていた。引越しの整理のときに迷って処分したが、名文だと思って大切にしていた。リズムがあり、感動場面がいつも正確につかまれている。
今年のメジャーでいえば、(浜田 昭八記者なら)レッドソックスとヤンキースの死闘の、松井が打った第5戦での満塁ライトライナーを名記事に仕立てただろう。
ヤンキースのトゥーリ監督は、「すべての流れを決めた場面は?」の記者の質問に、君たちはどう思う?と聞き返した。全部の回答に対してクビを振って、違う、松井が打った打球を敵のライトが好捕した場面だ、あれが運命を決めた、と答えた。
スポーツにはこうした明快な勝負を分ける分水嶺のような瞬間があるものだ。楽天、ライブドアの勝敗を分けたのはなんだったか。
なぜ、審査に合格?とタイトルがついたこの囲みは明快にそこを指摘したよい文章だ。
監査法人の分析などから経営体力は楽天、としているが仔細に検討すれば楽天とライブドアは(財務力では)甲乙つけがたく、三木谷浩史楽天社長がプロ野球の意思決定メカニズムを綿密に研究し、ライブドアを好感度で蹴落としたと書いている。NPB(社団法人日本野球機構を運営する任意団体)側の好意をうまく引き寄せたゆえの勝利だと書いている。
セレクション(複数候補の中からの選抜)の本質がこの記事からはからずも浮かび上がる。人事選抜が公平、公正の原則を掲げるのは、それが存在しえない理想だからだともいえる。管理職、役員登用もまた同じだ。楽天、ライブドアの比較と同じ論理が働く。
はじめから合格者が決まっている。あとは辻褄を合わせるための意見書がいる。求めよさらばさらば与えられん、で適当な情報はどこからかもってこれる。やっぱりあの人かあ、最初から決まっていたんじゃない、のボヤキが続く。
スポーツを心から楽しみたい善男善女は、欺かれた思いを募らせる。堀江貴文ライブドア社長のほうが、だれがみてもおもしろい。実際にできるできないはともかく、先に手をあげたライブドアがいいじゃん、は仙台市民だけでない庶民感情だろう。アダルトサイトなどはいいがかりだろう。
フェアなよい記事だ。日本株式会社の広報紙というべき日経がこう書いたところに爽快感がある。日経の記者はスキャンダルなどで肩身が狭い思いをしていると思うがよい記事が多い。