人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
日産自動車
日産自動車が新組織 ゴーン流改革女性社員に“耳”
仕事と家庭の両立支援
2004年10月16日 中日新聞 朝刊 13面
記事概要
日産自動車は10月1日「ダイバーシティ・デベロップメント・オフィス(多様性促進室)」を、(カルロス・ゴーン)社長直属の組織として発足させた。室長以外の4人のスタッフはすべて社内公募で充足し、総勢5人のうち、室長をはじめ4人が女性。当面は、性差の領域における多様性促進(女性がより活躍できる環境づくり)をすすめ、次のテーマとしては国籍差の領域における多様性促進(さまざまな国籍の社員を公平に登用する)を視野にいれている。まず、全女性社員に個別面接を行い、これまでの職歴、保有する技能、どんな仕事がしたいかといったことを聞き出し、個人別リポートをゴーン社長と人事担当常務へ提出する仕事からスタートする。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
ゴーン流とはかくのごときか昼夜をおかず
コメンテータ:清水 佑三
平成11年に男女共同参画社会基本法が国会で議論されたときに、日本企業における女性管理職比率の少なさが(労働委員会で)問題にされた。当時の経企庁の国民生活白書によれば、女性管理職比率を大ざっぱに英米日で比べると5:4:1となるという。1921年のワシントン会議では保有戦艦の総トン数を英米日で5:5:3ときめた。少なくともそのくらいの率まで(この比率を)高めないと先進国家の名が泣くだろう。
この記事によれば、日産における課長以上の女性比率は、全社員の2%に満たないという。米国日産では、20%にとどくというから、日本における数字の低さがきわだつ。
香港上海銀行の人事の方の話では、香港上海銀行の香港地区では、女性管理職の比率は40%に届くそうだ。早く日本地区でもそのレベルにもってゆきたいと、その問題を担当されている女性の方が強い口調で話されていたのをよく覚えている。日産も同じような気持ちをもっているのだ。
日本の伝統のある大メーカーの同種の数字は日産とほぼ同じで、女性管理職比率が3%までいっているところは少ない。
それとは別な視点となるが、女性の昇進差別訴訟は年々増えている。裁判所が下す判決は、差別を訴える原告勝訴が多いが、判決内容は「昇進命令」ではなく「差別に対する金銭賠償」を命じる傾向性がある。これもなぜなのか、興味深いことだ。
ゴーン流の凄さについて次の3点を指摘したい。
⇒みんなが騒ぐからやるのではない。人としてやらなければならないからやる。
⇒訴えがなくても差別事例はありうる。先手を打って情報をとらねばならない。
⇒優れた仕事をしてきた人がもっと高いレベルの仕事を希望している場合がきっとある。
個人別報告書を読めば、「ダイバーシティの促進」という観点からみて、いかがかと思われるような(問題的な)個人が登場するだろう。有能なスタッフに命じてさらに詳細な報告書の提出を求める。その報告書の内容は「なぜこの女性がかかる職歴、技能、意欲をもちながら、現在の(低い)ポストにいるのか、つまびらかにせよ」となるに相違ない。
その先にその人への具体的な「昇進命令」がくる。このスピードの速さが(筆者みるところの)ゴーン流である。
日本の多くの企業が「女性登用」に向き合う態度、姿勢とはまったく異なる。社内の啓蒙運動などはしない。女性登用についての管理職セミナーもしない。ガイドラインもつくらない。
現実に優れた女性(外国人)社員が優れた社員として認められていない具体的な事例をもとめ、1枚づつカードをよい場所におく作業を続けてゆく。個人の福祉の問題とともに、優れた社員を登用しないと会社としての機会利益を失う(損する)と考えるのだ。
次のテーマの予告編もついている。「女性」の問題に目処をつけたら、次は「外国人」にターゲットを変える。全外国人社員について個別報告書を自分に出すよう有能なスタッフに指示する。内容は個々の外国人社員の「職歴」「技能」「仕事に対する希望」である。
目安箱を統治の手段とした徳川吉宗の享保の改革を思いおこす。ゴーン流はどうみてもそのスタイルに近い。インテリジェンス(情報部員)を活用し最短の道で問題を解決したい。(本丸への急襲を思わせる)軍事的行動のイメージがつきまとう。