人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

シャープ
全社員に環境教育 人事評価材料に

2004年10月15日 日本経済新聞 朝刊 15面

記事概要

 シャープは10月14日、国内の全社員3万人に対してeラーニングを使って環境教育を始めると発表した。関係会社社員もeラーニングの対象に含め、この28日から開講する。カリキュラムは、地球温暖化、電気製品と化学物質、廃棄物問題、公害と化学物質、わが社の環境問題への取り組み、の5項目からなる。他の研修プログラムと同様、受講は強制ではないが、受講歴が人事情報として登録され、異動・昇進等のさいに参考材料として活用される。シャープは、2010年度までに温暖化ガスの排出についての目標値を環境ビジョンとして既に発表しているが、その目標の達成には「社員の環境意識の徹底」が欠かせないと判断し今回の全社員への環境教育への取り組みを行ったと説明している。

文責:清水 佑三

eラーニングの最高、最良の活用例

 シャープの人事改革のプレスリリースはつねにピントが鮮明で、強いインパクトを社会に与えるところがある。「給与体系を成果主義に」という凡庸、平板な記事が横溢するなかで、貴重だ。

 この記事はさりげない筆致で書かれているが、社員教育の今後のあり方を考える上で見過ごせない重要なポイントが明確に述べられている。以下のとおり。

  • 「全社環境基礎講座」(名称)。
    ⇒全社・環境・基礎という言葉に会社の価値観が明確に謳われている。
  • 関係会社を含めて全社員を対象に行う。
    ⇒意識教育はかくあらねばならない。差別があってはならない。
  • eラーニングの方式で行う。
    ⇒費用対効果上、他の方法は考えられない。
  • 環境ビジョン達成のための方策だと明確に謳っている。
    ⇒達成時期を明示したことで、会社の強い意志が伝わる。
  • 受講自由の原則を貫いている。 
    ⇒技能教育ではない(意識)教育は(すべて)強制であってはならない。
  • 履修の記録は人事評価データとして記録される。
    ⇒ここが一番大事。過去、何をどのような順序で履修してきたかで個々人の問題意識と仕事・会社への姿勢がわかる。また履修時のテストへの回答の仕方で学習能力がわかる。

 就中だいじなのは、eラーニングというメディアの特質を上手に使っている点である。まさにこういうものはこういうふうに使えのお手本が示された観がある。

 どうしてお手本のような使い方なのか、書いておく。

  • 環境教育には各社が取り組んでいるが人事評価と結びつけた事例はない。
  • 研修や教育が効果をもつための条件は、人事評価と直結させることである。
  • 環境知識の保有を評価の対象にすると一言いうだけで会社の決意は十分に伝わる。
  • 電気や化学といった文系社員がとうに置き忘れてきた「科目」を全社員に勉強してもらえる。
  • 履修の進捗度が項目ごとのテストで測られるため、テスト結果=能力診断データにできる。
  • 会社のパソコンの使用を前提にしているため、社内パソコンの稼動率をあげられる。
  • 数万人のグループ全社員を対象にできるためにグループ意識の培養がはかれる。

 eラーニングは今後、こうしたテーマにどんどん対象を広げてゆくだろう。また、人事評価に直結させることが違和感なく行われていくだろう。意欲なきものは後ろに下げられる、上司の評価ではなく、全社を対象にした客観的なデータによって、社員の問題意識そのものが測られてゆく。

 そういう時代への突入をシャープはいちはやく宣言した。

コメンテータ:清水 佑三