人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

「人事部長に聞く」 JR東日本取締役人事部長
JR東日本 「Fプログラム」始動、 女性の“活躍の場”拡大 採用者数の20%以上に

2004年6月12日 日刊自動車新聞 朝刊 6面

記事概要

 人事部長に聞く、と題されたコーナー。JR東日本取締役人事部長浅井克己氏が登場し大略、次のように語った。「この仕事は男性、あの仕事は女性という国鉄時代から染み付いた固定観念が(当社には)残っている。鉄道事業のお客様に男女はなく、女性社員が3%しかいない現状は改善すべきだ。Fプログラムという名前で女性が能力を発揮し活躍できる環境を整備する取り組みを中長期経営計画の一環として始めた。まず、社員に占める女性の割合を多くしたい。05年度以降の新規採用者数に占める女性の割合を20%以上に増やすことからはじめる。彼らが女性ならではの顧客ニーズの掘り起こしを行い、新商品をどんどんだしてゆくようになればFプログラムは動き出す。10〜20年たてば、模範となる女性社員が増え、彼女たちをめざす若い女性社員が増えてゆく。Fプログラムは、女性を意識しているが、もっと大きくみれば社員一人ひとりに十分に能力を発揮してもらう人材育成プログラムのひとつだ」

文責:清水 佑三

女性社員、女性管理職が少ないのは何か不自然

 国鉄といっても若い年代の人はピンと来ないだろう。高齢者が「省線」という言葉を使って周囲から驚かれるのと同じだ。

 今のJR東日本は、日本国有鉄道が、1987年に地域別の旅客6社と全国の貨物1社に分割されて誕生した。それからすでに17年が経過した。 1987年の時点で法人としての形態が公社から株式会社に変わったが、JR東日本についていえば、資本関係で本当の意味での民営化が完了したのは2002 年6月である。最後の政府持ち株が放出され100%民間の会社になった。西日本、東海はまだそこまではいっていない。

 民営化の功罪は、鉄道利用者の立場からみて明瞭だ。消費税導入という問題を除き、民営化後、1度も運賃の値上げがなされなかった。このことは特筆 に値いする。様々な経営努力がなされた結果であって、民営化の最大の功である。毎年のようにして運賃が値上げされ、不快を感じた者にとって、総理中曽根康 弘、第二臨調土光敏夫の混合ダブルスチームに喝采を叫びたかったほど。道路公団民営化も(実現すれば)有料道路の料金が毎年下がってゆくという恩恵となる だろう。

 生産性新聞でのJR東日本の浅井克己人事部長の発言は、簡潔で(きわめて)わかりやすい。まとめた記者の筆力によるところもあろうが、語った浅井 氏の概念知能の高さが主因である。なかなかここまで簡潔に雇用機会均等化努力を語れないものだ。奥歯にもののはさまった発言に終始するのが、このテーマの 特徴である。

 写真でみる浅井さんは、目が笑っていて顎がひかれ、威圧感を感じさせない。しかし、顔全体を眺めると、額の秀でかた、逆三角の骨相、上唇の薄さな どに、(東西の)古人が頭のよい人の特徴としたものが全てでている。担当記者は(取材を)まとめやすかったのではないか。頭のよい人の発言は、テープ起こ しした文章をあとでいじらなくてすむ。記者泣かせの反対である。

 ところで、銀座の鉄道模型の老舗『天賞堂』の店内を覗いてみるとわかるが、お客のほとんどが男性である。年齢を問わない。フォーカルプレーン式の シャッターで動くコンタックス、ライカの旧機を並べる中古カメラ店も同じだ。性差論でいえば、圧倒的に男性はメカが好きなのである。JR東日本の現有社員 97%が男性というのはかかる天然自然の帰結であって差別意識がつくるものではない。近未来において20%の女性社員をもちたいというJR東日本の社会的 責任論は理解できるが、実現にはよほどの知恵と勇気がいるだろう。

 浅井さんが語る女性社員活用のための「方策」を並べると次のようになる。

  • 男性と同じ土俵で勝負したいと思う女性を積極的に採る。
  • 女性をハナから登用しようとしない役員を意識改革する。
  • 女性による新サービス開発をうながし成功神話をつくる。
  • 新人女性がその神話にあこがれて自分もと思うようにする。
  • 人事制度改革を通して社員のキャリア選択肢を多様化する。

 浅井さん自身が語っているように、こうした問題意識は女性(という性差)に向けられた問題ではない。社員一人ひとりに向けられた会社としての重要な経営課題だ。

 雇用機会均等という概念は、仕事上の役割を、妥当性を欠く形で事前規定してはいけないという意味である。卑近にいえば「やってみなはれ、やらせてみなはれ」の実現が雇用機会均等の世界である。普遍的かつ至難な課題だ。

コメンテータ:清水 佑三