人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

三井住友海上火災保険
意欲引き出す新制度 新入社員に職場逆指名権

2004年9月20日 読売新聞 朝刊 8面

記事概要

 三井住友海上火災保険は、今年の春に入社した総合職の新人126名を対象にして、「ルーキーポストチャレンジ制度」と呼ぶ、最初の職場を逆指名できる新しい制度を導入した。実際にこの制度の説明を受けて応募したのは新人126人中27人。小論文試験と配属先上司による面接を経て5人が、この選考に合格し、逆指名権の行使につながった。来年度以降もこの制度を継続することが決まり、募集ポストも初年度の5つをさらに増やす方向。新入社員の希望を尊重することで、就職先を選ぼうとしている学生たちの目を(三井住友海上火災保険に)向けさせる狙いもある。「配属ミスマッチ防止にもつながる」と人事部は語っている。

文責:清水 佑三

プロを育成するための「新しいアイデア」

 読売新聞社は今回のプロ野球始まって以来のスト騒動で、(ファンからチームを奪う)1リーグ化の動きを背後で画策したとして野球好きの善男善女から顰蹙を買った。オリックスも同罪とみられた。不買運動は声高には叫ばれなかったが、その種を広く薄くまいたことは間違いない。長い目で見てどういう現象が起こるか、興味がある。逆に、選手会を率いた古田敦也は男をあげた。

 朝日、読売、毎日各紙は過去、この欄と縁がない。一般紙の制約があり、企業の内部に分け入って人事改革に詳しく触れる記事はどうしても経済紙と比べると少なくなる。サンケイには時々おもしろい記事が出る。サンケイの前身が「産業経済新聞」であるゆえか。

 今回の読売の記事は行数で30行程度。事実報告のみの記事であるが、見過ごせないものを含むとみて取り上げた。二つの点で興味を惹かれた。

 ひとつは、総合職として採用していながら、(この事例において)初任配属にあたっては職務別採用の手順を取り入れていることだ。おもしろい。

 記事中の表現では、「求める人材の条件を具体的に示し、自らその条件にあうと考える人を対象に、配属先上司による面接を行う」は、職務別採用の手続きそのものである。特に、(仕事別)人材条件の特定という部分がポイントである。入社後の職務を特定せずに応募させ採用するのが総合職採用であり、求める人材条件を明示し、求める職務別に別々に応募させ採用するのが職務別採用だ。

 職務別に人材条件を特定する作業は簡単そうに見えて実はそうではない。何がその仕事の「プロ性」を規定しているかを明快に特定する作業は難しい。その難題に挑んでいることが貴重である。もし得られた条件表が「あたらずといえども遠からず」のレベルであれば、採用⇒配属⇒教育のベクトルは今よりも明確になる。その作業が難しいがゆえに多くの企業は総合職採用でお茶を濁しているという言い方もできる。

 もうひとつ興味があるのは、「ルーキーポストチャレンジ制度」という名称にあらわれている挑戦機会の提供⇒選考⇒強い意識をもつプロの卵の育成という一面だ。

 「少子化で学生数が減少する中で意欲を持って応募してもらうためには(仕事への)問題意識を強くもってもらうことが大切」という記事中の表現がそれにあたる。ある仕事の「プロ性」を媒介にして企業と個人がある種の提携に合意する。ここに職務別社会、プロ集団によって成り立つ企業体の萌芽が見られる。

 旧来の「由らしむべし、知らしむべからず」の会社思想は微塵もみられない。強い目的意識や問題意識が重要であり、それがあってはじめて教育する側もされる側も、強い叱責や指導の存在を認めることができる。あたかも相撲の社会の新弟子のよう。プロが育つ土壌だ。

 会社は総合職採用のカンバンは外していないし、入社した新人の側も白紙委任状を会社に提出して初任配属の辞令を待つことにかわりはないが、126名中、27名は、自らの職場を自らの力で勝ち取る(欧米型の)キャリアレースに挑んでいる事実は無視できない。

 数年おきに仕事と職場を変えていって次第に行政的、管理的な能力を身につけさせてゆく道が一方にあり、スタート時点からある職務でのプロをめざす道が他方にある。いいとこどりかもしれないが、理解できるハイブリッドタイプの人材育成哲学である。

 グローバルな競争を強いられている日本企業における新人の採り方、扱い方の一つの「ソリューションズ」がここにあると思う。

コメンテータ:清水 佑三