人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

大成建設
大成建設設計本部がFA体制 20-30代社員所属固定せず 人材は重要な経営リソース

2004年8月6日 建設通信新聞 朝刊 2面

記事概要

 大成建設(設計本部)は、30代までの若手社員に対して、所属部署を固定しないフリーアドレス(FA)制度を導入した。従来は、他社と同様、一般社員の上に係長、課長といった管理職がつく固定的な組織体系であったが、新しい制度では本社(設計本部)にいる100人ほどのプロジェクトリーダーが、随時、この指とまれ方式で10人程度のメンバーを召集し、プロジェクトが終わったら解散する形になる。可児才介設計本部長(常務取締役)は、「必要な人を必要な時に必要な人数あつめる。結果として業務が平準化され、仕事機会が拡散されて有能な社員は多様な職務経験をつめるメリットがある」という。また「設計に年齢は関係ない。提案力、創造力は経験よりも才能だ。若手の才能に目いっぱいチャンスを与えるよい制度だ」と話す。

文責:清水 佑三

最先端の組織論の実践事例

 研究開発、設計、デザイナーといった仕事を考えるとピラミッド型組織はどうみてもなじまない。

 脱ピラミッド組織を模索した研究がある。2002年、マサチューセッツ工科大学のトーマス・マローン教授を中心にした研究チームが「未来の組織のありかた」をさぐる研究プロジェクトをスタートさせた。世界17カ国、卓越した業績をあげ続けている64の企業を選び、組織のありかたの面から徹底分析を行った。

 トヨタ自動車、セブンイレブンジャパンなど、7社の日本企業も研究対象に選ばれた。研究の方法は、上司と部下の関係、組織の構造と意思決定のタイミング・質の関係などが、企業別に調べられた。膨大なシミュレーションの結果、もっとも有効な「未来型組織像」が抽出された。そのイメージを文章化すると次のようになる。

 個人は所属する部署を持たない。宇宙に散らばる星の一つひとつが個人というプレーヤーだ。そこに、突然、星雲ができ、星団が生まれる。プラザ(広場)である。イメージとしては同時多発プロジェクト・チームに近い。広場への参加を促す契機は、「個々人の自発性」「共通の関心、問題意識、目的意識」「貢献への自覚」等である。様々な専門性をもつ個人が縦横無尽に結びつくことで、ピラミッド、固定的な組織を超えるパワーが生み出される。

 マローン教授がこうした「未来型組織像」を描くヒントになった企業が実際にある。アメリカ、テネシー州メンフィスにある、従業員1300人のバックマン・ラボラトリーズ社である。世界21カ国に拠点をもつ多国籍企業で、「製紙会社から受託した研究開発」事業を営む。新しい仕事の構想が浮かんだ社員は「バックマン・フォーラム」と呼ばれるネット上の広場に自分の「新プロジェクト構想」を書き込む。この指とまれ、のメッセージだ。

 全世界の研究員がこのプロジェクトに「興味あり」と反応するところからプロジェクトはスタートする。必要かつ十分な専門性をもつ社員がネット上でチームを組む。自分のもっている専門性を複数の多様なプロジェクトに同時に活用できる点がバックマン・ラボラトリーズ社の(組織の)最大の特徴である。紙の製造技術を中心としたバックマンの画期的な新技術はこのシステムを導入後、毎年20以上誕生している。過去の組織が生み出したものの数倍である。ヒントが満載されている。

 (以上は、2002年5月12日に放映されたNHKスペシャル『変革の世紀 第2回 情報革命が組織を変える〜崩れゆくピラミッド組織〜』を参考にしました。)

 大成建設設計本部の記事に戻ろう。

 大成建設設計本部のフリーアドレス制度は、バックマン・ラボラトリーズ社と共通の視点をもっている。次のような点に注目したい。

  • 上司に若手を固定的に貼り付ける発想はとらない。
  • 若手が「この指とまれ」に応じて自分のプロジェクトを決める。
  • 有能な若手はできると思えば複数のプロジェクトに参加できる。
  • 才能ある人が多くの場所で活躍し経営リソースが加速度的に厚くなる。

 可児才介設計本部長は、「1990年ころまで人員採用を控えていた。結果的に40代の人が少なくなり改革がやりやすくなった。設計のような仕事の場合、若手の才能の芽を摘むことが一番怖い。できるだけ彼らにチャンスを与えたい。優れた才能は活躍する場を真剣に求めている」と語る。

 研究開発、設計、デザイナーといった仕事は、特殊だと考えられがちだ。しかし、営業、製造現場、保守といった仕事のすべての局面に、「Solutions」という時代ニーズが隠れていることを忘れてはならない。すべての仕事に「研究開発、設計、デザイン」という要素が求められる時代に入ったのだ。

 そういう時代認識にたてば、大成建設設計本部の所属を固定させずに才能に対して多様なャンスを用意するFA制度は、新しい組織論として意味があるし、要研究である。新しい潮流を感じる。

コメンテータ:清水 佑三