人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

安川情報システム
内内定者に研修 eラーニング 資格取得を支援

2004年7月23日 日経産業新聞 朝刊 23面

記事概要

 安川情報システム(九州)は、卒業後の入社が予定されている内内定者(10月1日の内定書交付をもって雇用内定者にかわる)を対象に、「基本情報技術者」資格取得を支援する研修制度をスタートさせた。eラーニング方式で10月までに研修を実施し、10月の国家試験に挑戦させる。この研修を通して、入社前に業務に必要な知識を身につけさせることに加え、本人に自己の適性を判断させることを狙う。安川情報システムによれば、こうした資格所得を内内定段階で義務づける入社前研修制度は珍しいという。石松健男同社社長は、「入社直後の研修の期間短縮や内容の高度化が可能になる」と説明している。入社前研修でのやりとりを通して、内内定者との連絡を密にすることで、内定辞退も防止したいとしている。

文責:清水 佑三

内内定とはそも何か?

 筆者が学んだ中学に安川国雄さんという安川財閥の御曹司といわれていた教師の方がおられた。安川先生は社会科を教えておられた。中学3年の秋だったか、安川第五郎氏の『私の履歴書』が日本経済新聞に連載された。そうか、この人が安川先生のおじいさんか。図書館の新聞閲覧コーナーに毎日通って、貪るようにしてこの欄を読んだ記憶がある。

 東京帝国大学を卒業した安川第五郎が、日立製作所で入社後いきなり主任として遇される話や、ウエスチングハウスでは逆に、末端の工員として苦労をする話など、かすかではあるが、読んだものが記憶に残る。日本産業史の一頁に燦然と名を残している(天下の名門)安川電機につながる会社として安川情報システムは存在する。

 それにしては(お粗末ではないか)と筆者は思う。

 翌年4月1日からの雇用を文書をもって承諾、約束した、10月1日以降ならまだしも、それまでのいわゆる内内定者の身分は法的に定かではない。10月1日までの間に、学生側から内内定辞退をいってきても、会社側は約束不履行を追求できない。あいまいもことした関係下にあるとみるのが双方の了解だ。そういう不安定な身分の相手に対して、「内内定者に情報処理に関する国家資格の取得を義務づける」根拠とは何か?

 耳を疑う、とはこのことだ。社会の公器たる会社には、してよいこととしてよくないことのケジメがあるべきだ。義務づけられた内内定者が資格取得の勉強についてゆけず、自らの将来に不安を募らせて、不慮の自死を遂げたとする。遺族からの糾弾を受けた会社はいかなる「釈明」をもって臨むのか。荒唐無稽の話ではない。人を試験して合否の判定をするは厳しい差別の側面をもつ行為なのだ。

 筆者の主張は、単純明快である。(内定書を渡す)10月1日まで、10月1日から翌年の3月31日まで、入社後(4月1日以降)の3つの位相の違いをよく理解してことにあたれ、に尽きる。それぞれについて、会社として意識すべき留意点をあげておく。

(内内定期間、〜10月1日)

  • この期間は人(内内定者)によってマチマチな心理状態にある。
  • ほんとうにこの会社に入ってよいのだろうか、と自問自答を繰り返している人がいる。
  • 就職活動からすっかり足をあらって、就職先については豪も疑念をもたない人がいる。
  • 会社として優先すべきは、入社を100%決意しきれていない人との対話である。
  • 対話を通して、場合によっては、その人の内定辞退を助けることがあってもよい。
  • 第三者からみて、業務とみなされるような負荷、賦役を内内定者に求めてはならない。

(内定期間、10月1日〜3月31日)

  • 内定者との間に協定を結ぶとよい。
  • 内定者によって多様なニーズがあるだろう。
  • この期間は学生としての本分に集中させてくれ、という人がいる。
  • 未熟な自分の社会化を支援してくれ、という人がいる。
  • 英語、IT技術について研修をしてくれ、という人がいる。
  • ときどき内定者が集う会を開いてくれ、という人がいる。
  • この期間中、会社からなされる行動は「ボランティア活動」の範疇に入る。
  • 「ボランティア活動」とは相手のことを慮って行う無償の行動である。
  • 双方合意でなされる行動であれば、何をしてもよい。但し、双方は対等である。
    (入社後、4月1日〜)
  • 公序良俗、雇用契約、労働協約の範囲内において営業の自由を会社はもつ。
  • 新人を自衛隊や禅寺にほうりこもうが、「地獄の特訓」に送り出そうが、自由である。
  • その最大の理由は、拘束時間に対して対価を払っているからである。

コメンテータ:清水 佑三